【インタビュー】まらしぃ

スタジオで録ったピアノ、ホールで録ったピアノ、そこにV-Pianoが加わることで、表現の幅を大きく広げられた

まらしぃ
ニコニコ動画へ投稿したアニメ/ボカロ/東方/ゲーム音楽のピアノ演奏動画の8つが、再生回数100万回を越える人気を誇るピアニスト、まらしぃ。ピアノ・カバーした「チョコレイト・ディスコ」「千本桜」のCM曲でも話題沸騰中の彼が、初のオリジナル・ソロ作品を2枚同時リリース。そのアルバムに込めたフレーズとサウンド、曲作りやレコーディングで使用したV-Pianoについて話を聞きながら、新製品FA-08&RD-800試奏を通して、まらしぃにとってのピアノの魅力を語ってもらった。
まずバーッと作って、記憶に残った曲を収録した。
“覚えている”ということは、自分で好きな曲だということですから
─ 今回、オリジナル楽曲を収録した『First Piano ~marasy first original songs on piano~』と、アニメ・ソング・カバーを収録した『Anison Piano ~marasy animation songs cover on piano~』の2枚のピアノ・ソロ・アルバムを同時にリリースした背景には、どのような想いがあったのでしょうか?

まらしぃ:2012年に作った『V-box』が、ボーカロイド作品のカバー・アルバムでしたし、H ZETT Mさんや紅い流星さんと共演した『3D-PIANO ANIME Theater!』、続編の『4D-PIANO ANIME Theater!』はアニメ・ソングのカバー・アルバムだったりと、今までリリースした作品は、何かしらのカバーばかりだったんです。そこで、そろそろ僕も「ピアノを弾く人です」という名刺のような作品を作りたいと思ったんですよね。これって、僕としては新しい試みなんです。それなら、もうひとつの新しい試みをプラスして、自分がこれまで好きでずっとやっているアニソンのカバーも同時に出して、“新しい×新しい”という挑戦をしてみたという感じです。

─ そういう意味でも、オリジナル曲のみで構成されている『First Piano』は、特に注目の作品だと思いますが、このアルバムには、原曲がボカロ作品のものと、ピアノ曲として書き下ろされた新曲が収録されていますよね。同じピアノ・ソロ曲であっても、それぞれの場合で、曲の作り方やアレンジの考え方は、どのように違ってくるのでしょうか?

まらしぃ:原曲がボカロ作品のものは、いわゆる“歌モノ”として作っていますから、歌う前提でメロディを考えたり、ポピュラー・ミュージック的な「Aメロ/Bメロ/サビ」というような構成も意識して作っていたりと、制作の際には、ある程度の制約があるわけです。一方で、完全にピアノ・インストとして曲を作る場合は、そういった構成や様式美に縛られることなく、やりたいように作れますから、そういう差はあるかもしれませんね。

─ 楽器がピアノだけになることで、かえって自由度が増すわけですね。

まらしぃ:そうです。インスト曲であれば、極端に言うと、メロディがなくて同じ音だけで終わるような曲があってもいいわけですし。そういう意味では、今回の書下ろしの曲では、歌モノを作る時とは違ったところから曲を作っていく楽しさも感じました。

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─ 書下ろし曲の中でも「blue piano」は、とてもユニークなピアノ曲ですよね。

まらしぃ:僕は、トランスやダンス・ミュージックがすごく好きなんですよ。ゲーム・センターにある、いわゆる“音ゲー(音楽ゲーム)”にも、かなりドップリとハマっていたので、ああいった打ち込み前提で盛り上がるダンス・ミュージック的なトランス感、それをピアノだけでやっていたら面白いんじゃないかという発想で、この曲を作りました

─ では、ボカロ作品をセルフ・カバーする場合は、原曲をピアノで再現するイメージでアレンジするのでしょうか? それとも、原曲はあくまでもモチーフと考えて、また別のピアノ・ソロ曲を生み出すというアプローチなのでしょうか?

まらしぃ:両面があった気がします。いろんな楽器のアンサンブルで成り立っている曲をピアノ1台でそのまま再現するのは、なかなか難しいことです。もし再現できたとしても、ピアノ・ソロ曲としてガチャガチャとやかましい音楽になってしまってはダメですから、そこから音の引き算で落とし込むというやり方でもアレンジしました。その一方で、メロディを聴かせるために、原曲とは違うピアノ・ソロ曲として成立させるというアプローチもありましたね。

─ なるほど。トヨタ“AQUA”のCMで話題となった「千本桜」のピアノ・ソロ・カバーも、ボカロ作品として耳馴染みのあるメロディなのに、それとはまた別の曲のようにも聴こえて、とても不思議な感覚になりました。

まらしぃ:原曲が歌モノの場合は、歌詞の問題もありますからね。ピアノで歌詞を表現することは到底無理な話ですから、そうなると、原曲のメロディが持つ素敵な部分をどう引き出すか、そこが大切になってきます。しかもCM曲の場合は、音楽というよりは映像作品であって、全体の中での音楽の存在感が求められます。ですから、ピアノが目立ち過ぎてもダメですし、だけど、ただサラッと音楽が流れてしまわず、見ている人にちょっと気に留めてもらえるように、アレンジを考えました。

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─ ここからは、普段の曲作りについてお話を聞かせてください。まらしぃさんは、それぞれの曲にテーマを掲げて曲を作っていくのでしょうか? それとも、閃いたワン・フレーズから発展させていくという手法ですか?

まらしぃ:どちらかと言えば、後者ですね。ただ、そうやって作った曲を並べた時に、「この曲とこの曲は、感じが似てるな」と変えていったり、「この曲の雰囲気がいいから、その感じで、もう1曲作ってみよう」ということもあります。ただ、『First Piano』ですと、基本的にはまずバーッと作って、その中から自分の記憶に残った曲を収録しました。“覚えている”ということは、それなりに、自分で好きな曲だということですから。

─ 最初のワン・フレーズは、どのような場面で生まれるのでしょうか?

まらしぃ:今の僕の部屋って、すごく高機能になっていまして。ベッドがあって、すぐ横にV-Pianoを置いてるんです。そこにパソコンのディスプレイもあって、V-Pianoの上にはマウスがあって。だから僕は、ずっとベッドに座って、V-Pianoを弾いて、ちょっと飽きたらそのままゲームをやって、眠くなったらベッドに寝転がって(笑)。そういう生活をしているので、「そろそろ曲を作らないとヤバい」と危機感が芽生えたら、すぐにピアノが弾けるという環境なんです(笑)。

─ それは、かなりの高機能ですね(笑)。作曲時にV-Pianoを録る時は、MIDIですか?

まらしぃ:MIDIです。DAWを立ち上げて、MIDIでバーッと録っていきます。そこからフレーズや音色を練り直して、また弾き直したり、フレーズを変えたり。そうやって曲が完成して、音色の方向性が決まったら、本チャンをオーディオで録ります。ですから、本チャンではV-Pianoを純粋に“ピアノ”として弾くので、頑張って弾いて、ミスったら、「はい、もう1回」という感じで録っています(笑)。

2枚の新譜は「やりたいことがやれたアルバム」だと思っている
─ V-Pianoは、いつ頃から使われているのですか?

まらしぃ:『V-box』を作っていた頃なので、2012年の夏だったと思います。知り合いに、「今、メッチャすごいデジタル・ピアノがあるから、弾きに行こうぜ」って言われて。その時は、まったく予備知識を持たない状態で、楽器店に行ったんです。それで弾いてみたら、ビビリましたね。当時、僕が抱いていたデジタル・ピアノのイメージって、「夜中に弾く時に便利」程度のものだったんですよ。自宅には、Fantom-G8と、古いFP-3を持っているんですが、それこそデジタル・ピアノと言うと、FP-3くらいしか知らなかったので、V-Pianoのあまりのすごさに、「何だこれ!?」って驚きました。価格にも、相当ビックリしましたけど(笑)、本当に、すごい時代になったんだと感じましたよ。デジタル・ピアノなのに、弦の種類を変えたり、調律できるといった概念は画期的だし、それまでのデジタル・ピアノよりも、断然生ピアノに近い音色もあるし、逆に生ピアノでは実現できないV-Piano独自の音もあって。それで『V-box』のレコーディングでは、せっかくだからV-Pianoにしか出来ないことをやろうと考えて、曲ごとに一番いい音色を探して弾いたんです。

─ 新譜2作品でも、V-Pianoはお使いになりましたか?

まらしぃ:弾きましたよ。『First Piano』だと、「blue piano」や「琴線」、「愚者のロンド」、「愚者のロンド -輪廻-」、「金剛」、『Anison Piano』では、「太陽曰く燃えよカオス」、「恋は渾沌の隷也」、「ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C」、「Butter-Fly」、「おジャ魔女カーニバル!!」は、V-Pianoで音色を追求しました。それこそ昔は、ピアノの調律って、調律師の方にやってもらうことが当然でしたから、そこに自分で手を加えようとは考えもしませんでしたけど、V-Pianoだったら、プレイヤー自身が調律や弦の種類を変えて音色を探っていけるので、これは新しい楽しみ方ですよね。

─ ありがとうございます。レコーディングの際、どのような基準で、V-Pianoで弾くか、生ピアノにするかを選択しているのですか?

まらしぃ:いわゆる、ダンス・ミュージックで鳴らされるような、打ち込み感のあるピアノだけで1曲全部を成立させると面白そうだと思った曲は、V-Pianoにお任せしたという感じです。新譜では、生ピアノに関しても、スタジオで録ったピアノ、ホールで録ったピアノと響きを使い分けて、サウンドのバリエーションを豊かにしているんです。そこにV-Pianoが加わることで、ピアノ・ソロ・アルバムながらも、表現の幅を大きく広げることができました。

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─ だからこそ、全曲がピアノ・ソロながらも、いろんなニュアンスが表現されているわけですね。ここで、作曲の話に少し戻させていただきますが、まらしぃさんは、頭の中にフレーズが浮かんだら、それをどのようにメモしているのですか?

まらしぃ:「このフレーズはいいかも」と感じたら、とりあえずV-Pianoでパラパラと弾いてみて、よさそうなものだけを覚えておいたり、DAWに録るんです。それを後日、聴き直してみて、「これはゴミだ」と思えばボツにしますし、何とかなりそうだと感じたら、そこから曲に発展させていきます。メロディを考える時も、あまりコード進行などは考えずに、気の赴くままに鍵盤を弾きますね。そうやって、思い付いたものをパッと弾いて、記憶したり記録するということが、曲作りの最初の作業になります。

─ まらしぃさんは、クラシック・ピアノを長く習っていたということなので、ひょっとして、すべて譜面で作業しているのかと思っていました。

まらしぃ:いや、僕は譜面がとても不得意でして(笑)。クラシック・ピアノを習っていた頃から、楽譜を読むのが苦手だったんです。だから、ピアノの先生に、「来週までにこの曲を弾けるようにしてこい」って言われた時も、譜面を見てもよく分からないので、その曲のCDを買ってきて、耳コピーしていたんですよ。そうすると、先生の第一声が、「お前、誰かの演奏を聴いただろ!」って、ものすごく怒られて。今考えれば、それが分かる先生もすごいなと思うんですけど(笑)、譜面から読み取ろうとせずに、いきなり人の演奏に頼る根性が、先生は気に入らなかったんでしょうね。今だったら、譜面から見出す美しさや楽しさも理解できるんですけど、当時は僕も、クソガキでしたから(笑)。

─ (笑)。でも、ピアノは嫌いにならずに?

まらしぃ:その頃は、「練習曲を弾かされている」という感覚でしたけど、後に、自分が好きなアニソンやゲーム音楽を弾くようになってからは、自らピアノに触れて、ピアノで遊ぶようになりましたね。それに昔から、母親が「この曲弾いてよ」って、カセットテープを渡されて、楽譜のない曲を自分なりに弾いて遊んでたりもしたんです。

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─ ひょっとしたら、その頃からピアノで“歌モノ”をアレンジする感覚を、自然と身に付けていたのかもしれませんね。

まらしぃ:ああ、そうかもしれませんね。とにかく、この2枚の新譜は、「やりたいことがやれたアルバム」だと思っていて。音色的な話をすれば、ホールの自然なリバーブ感がたっぷりとある、きらびやかな音があって、スタジオで録った、生ピアノ本来の音もあり、さらにV-Pianoの音もあります。「ピアノ・アルバム」というと、クラシックっぽいものを想像する方が多いかもしれませんけど、僕は、自分のピアノは“ロックだ”と思っているんです。そういう部分も上手く表現できて、しかもバリエーションが豊かな作品に仕上げられたと思っています。ですから、すべての曲が“ピアノ”ですけど、楽器をやっている方であれば、「この曲のピアノとこの曲のピアノは何か違うけど、どうしてだろう?」とか、「この響きにこだわったのかな」といった細部を、少しだけ気にかけて聴いてもらえると、とても嬉しいですね。

「こう鳴って欲しい」という部分に手が届いた感覚。「ギターが弾けなくてもFA-08で弾けばいい」と思うほど優れた表現力
─ 今回、直系のサウンド・エンジンを搭載した最新ミュージック・ワークステーションを試奏していただきましたが、かなり気に入っていただけたようでしたね。

まらしぃ:はい! まず、デザインがカッコいいですよね。僕は光る物が大好きで、自宅で使っているマウスやパソコンのキーボードも、少し値段が高くても、光る物にしているくらいなんです(笑)。それでプレイヤーのモチベーションが上がることはもちろんですが、楽器がステージに置かれた時の光景を想像しても、FA-08のデザインは、相当にカッコいいと思いますよ。楽器のビジュアルって、僕はすごく重要だと思っているんです。だから、FA-08はポイント高いです。それに、とても操作しやすいですよね。音を重ねて鳴らす設定なども、視覚的に分かりやすかったです。僕はピアノがメインなので、実のところ、そこまでシンセを使いこなせないんです。むしろ、機械オンチなくらいで。だけど、いろんな面白い音を探して使いたいと思うタイプなので、操作が複雑だったり、分かりづらいと、とても困るんですね。それがFA-08だと、直感でやりたいことが出来るので、とてもありがたいと思いました。

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─ ピアニストとして、鍵盤のタッチはいかがでしたか?

まらしぃ:僕には、とても弾きやすくて、ストレスなく演奏できました。鍵盤って、タッチが軽過ぎると、隣の鍵盤に指が当たった時に、一緒に音が鳴ってしまうじゃないですか。でも逆に、生ピアノに近過ぎると、タッチが重くて弾きづらいという方もいると思うんですよ。そのどちらのタイプの方が弾いても、FA-08の鍵盤は弾きやすくて、もちろんピアニストが弾いても、違和感はないと思います。

─ では、サウンドの印象を聞かせてください。

まらしぃ:ピアノもすごく気に入りましたけど、一番驚いたのは、ギターやベースの音色です。実際にギターを演奏した時に出るノイズ成分などもきっちりと表現されるので、自分の中で、「うわぁ、生っぽい! すごい!」と、一気にテンションが上がりました(笑)。もともとローランドさんの音源って、Fantom-G8でもそういった要素が追及されていましたけど、やはり最新モデルは相当に進化していて、ビックリしました。こういう音だと、弾いていて楽しくなりますよね。

─ そういった演奏ニュアンスの部分は、プレイヤーだからこそ、よりそのリアルさが体感できるのだと思います。

まらしぃ:「こう鳴って欲しい」という部分に、手が届いた感覚です。特にシンセのギターって、打ち込みで鳴らすと、一発で「打ち込みだな」と分かるじゃないですか。だけどFA-08のギター・サウンドなら、ピアノのように思い切り弾くと荒々しくノイズが乗るし、そっと弾いたら繊細に響いてくれる。僕はギターが弾けないので、普段はギターを弾ける人に演奏をお願いするか、シンセで頑張るかしないんですが、これだけ音源の表現力が優れていると、「別にギターが弾けなくても、鍵盤で弾けばいいんじゃね?」と思ってしまいました(笑)。もちろん、ギタリストに「こんなニュアンスでプレイして欲しい」と伝える際にも、FA-08で演奏したデモを聴かせることで、今まで以上にイメージが具体的に伝えやすくなると思います。価格的にも、初めてキーボードを買うという人にもオススメだし、ピアノとして考えても、とても充実したサウンドです。弾き心地もよくて、しかもいろんな音が鳴らせて遊べますから、ファースト・キーボードとしても、オススメしたいですね。

─ もうひとつ、スーパーナチュラル・ピアノ音源を搭載した新しいデジタル・ピアノRD-800はいかがでしたか?

製品紹介
ゼロから音楽を生み出す新しいワークステーション


Music Workstation
FA-08
サウンドと鍵盤タッチ、操作性をさらに強化。デザインも一新したNew RD

Digital Piano
RD-800
「Vintage」の再現と「Vanguard」の創造性で進化を続ける楽器

V-Piano
INFORMATION
『First Piano ~marasy first original songs on piano~』
SCGA-00005 ¥2,000(税抜)
『Anison Piano ~marasy animation songs cover on piano~』
SCGA-00006 ¥2,000(税抜)
PROFILE
まらしぃ
1990年3月10日生まれ。名古屋出身のピアニスト。4歳からピアノを始め、9歳で本格的なライブ活動を行う。2008年より、ニコニコ動画「弾いてみた」動画などで活動する一方で、ボカロPとしてもオリジナル曲を多数投稿。2010年、1stアルバム『V.I.P(Marasy plays Vocaloid Instrumental on Piano)』をリリースすると、H ZETT M、紅い流星らとアニメ・ソング・カバー・アルバム『3D-PIANO ANIME Theater!』を発表。他にも、クレモンティーヌ、武部聡志、鳥山雄司らと共演を果たす。2013年、トヨタ社CM曲を担当し、Perfume「チョコレイト・ディスコ」、黒うさP「千本桜」のピアノ・カバーで大きな話題を集めた。

オフィシャル・サイト:
http://www.marasy8.com/

アルバム特設サイト:
http://www.subcul-rise.jp/marasy_anisonfirst/
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