V-MODA ARTIST INTERVIEW #15 DJ Watusi (COLDFEET)

04年に設立されたイタリア発のヘッドホン・ブランド“V-MODA”の代表的モデルを、プロ・ミュージシャンが試聴するインプレッション・インタビュー。第15回目は、Lori FineとのユニットCOLDFEETのプログラマー/ベーシスト/DJとして活躍するWatusiが登場。

V-MODA ARTIST INTERVIEW

#15

Watusi

04年に設立されたイタリア発のヘッドホン・ブランド“V-MODA”。世界のトップDJを魅了したフラッグシップ・モデルM-100をはじめ、比類のない品質、ファッション・フォワード・デザインに優れた商品群をリリースし続けている。そんなV-MODAを、プロ・ミュージシャンが試聴するインプレッション・インタビュー。第15回目は、Lori FineとのユニットCOLDFEETのプログラマー/ベーシスト/DJとして活躍するWatusi。スタジオモニターヘッドホンのM-200と、M-100のサウンドをブラッシュアップさせたCrossfade M-100 Masterの2モデルを試聴してもらった。

小さい音量で音の奥が見える
僕はそれが
“高級感”だと思っています

Watusiが考える
ヘッドホン

ヘッドホンの中の世界は
万華鏡だと思っています

Watusi さんがDJプレイで求める、ヘッドホンの条件とは何でしょうか?

当然のことながら、ひとつは耐久性。今はこんな時期だけど多いときは年間100本くらいDJをやるので、暑い中で汗をびっしょりかいてそのまま閉まっておいたりすると、最悪接合部分がどんどんサビて回らなくなる。V-MODAはまだそこまで試していないけど、そうした耐久性をすごく考えられた作りになっていて期待できますね。もちろんDJ用に限らず耐久性は欠かせないですよね。なぜならヘッドホンって楽器みたいなもので、一旦気に入って慣れても壊れると凄く困っちゃうもので、最悪1から違うヘッドホン試さなくちゃいけないのでね。あとは長時間使っていても疲れないことかなぁ。小さな会場で、極端に言うとモニターがないようなホテルのラウンジでやるときはヘッドホンのLRの中が命になるから違和感無いフィット感もすごく大事になってきますし、逆に大きなステージでは出音が大きいから、結局はヘッドホンのモニター自体も上げなくちゃいけないじゃないですか。普段だったら、“ここまで目盛りを上げたらとんでもない大きさになってるよな”って時さえあるんですよ。それをひと目盛りでも下げて、ちゃんとモニターできるようなサウンド作りだとやっぱり嬉しいんです。見た目や軽さや音がいいじゃん!と思って、いざフェスとかで爆音を出すと、実際の現場では聴こえずらいヘッドホンって割とあるんです。DJっていろいろな場所でやることが多いので、オールマイティに対応できると嬉しいですね。ヘッドホンを変えるってDJの現場でもストレスなんですよ。眼鏡じゃないですけど、それくらいの慣れがほしくて。僕は今回はこういうイベントだから、ヘッドホンを変えようとはあまり思わない。だから、ヘッドホンにはオールマイティさも求めます。

ヘッドホンに求めるものや音質の傾向は、昔に比べて変化している部分はありますか?

そんなに変わらないけど、僕はヘッドホンで音楽を聴くのが大好きなんですよ。なぜかと言うと音の奥行きなんて言う、スピーカーだけでは聴こえずらいさまざまな繊細な部分が容易に聴こえてくるし、ヘッドホンの中の世界って万華鏡だと思っていて。あとは1人で音楽と向き合えるじゃないですか。音楽と対峙しているって感覚が好きなのね。小さい頃、ヘッドホンで深夜放送を聞くような感覚ってあるじゃないですか。親に聞かれたくない番組とかね(笑)。結局、ヘッドホンに何を求めているかというと、究極は(ヘッドホンを)してない感じじゃないですか? ヘッドホンをしていないのに1人になれる、音楽に包まれる、脳と音がくっつくようなヘッドホンがきっと一番いいんじゃないかなと。つまり、ヘッドホンをしていることをまったく忘れさせるものですよね。

イヤホンよりもヘッドホンのほうが好き?

それぞれ特徴もあるし良くできているものが今、多いと思いますけど、イヤホンとヘッドホンで聴き比べる事でも独特の分析ができますよね。よく若い子たちに、“音楽はそれ自体で大抵のことを教えてくれるから、息を止めて、スピーカーだけじゃなくてヘッドホンでも聴いてみて”って言うんです。正の字を書いて200回は聴いてと(笑)。でもね、同じ曲を聴き続けたときに201回目で初めて聴こえた音もあったんですよ。

201回ですか!?

ある曲のカバーをしようと思ったとき、その背景、成り立ち、どの音がどこで消えていくか、実はどのようなセッションを繰り広げ完成したのか、曲ができるまでの歴史のようなスタジオの様子も聞こえてくるんです。それはマイケル・ジャクソンの「ビリー・ジーン」だったんだけど、聴いているとマイケル・ジャクソンのフィンガースナップがBメロの途中でなくなったり、サビ前にうっすら歪んだオルガンが聴こえて来たりもする。でもこの曲にはオルガンは入っていなくて、たぶんそれはアナログだから転写と言って、8チャンネルに録ったものが7チャンネルと9チャンネルにうっすらと残るんです。たぶん一旦録ったオルガンを消して、その後にコーラスか何かをパンチインして録ったので、2番だけそのフェーダーをぐっと上げたからうっすら聞こえたのかなとかね。プロデューサーのクインシー・ジョーンズって、アレンジを全部書き譜で決め込んで “これをお願いします”じゃなくて、実はこんなトライ&エラーもしていたのかなとか、曲が完成するまでのストーリーがすごく見えてくるんです。

とても興味深い話ですね。

そうした部分って息もしないでヘッドホンで200回くらい聴かないとなかなか見えてこなくて。ここで歌のテイクを変えてるなとか、今の曲だったらもっと見えます。だから、逆に現代の音楽はあまりヘッドホンでは聴きません。言ってしまうとそうしたトライ&エラーを繰り返し、かつ音楽的に音が良い方向に作っている音楽は、特に日本では本当に少なくなっちゃったんだね。でもたまに新譜を当たり前に素晴らしいエンジニア達がマスタリング、カッティングしたレコードを聴くと、レコードというメディアが良いとかの話ではなくて、きちんとした設備でこそ、よりそうした情報量が楽しめる音楽を聴くと、僕も普段の聴き方が申し訳なくなります。その良さはもちろん否定してませんけど、気軽にサブスクでばかり音楽を聴いていたのが。やっぱりね、素晴らしいスピーカーで音量も上げ、空気を鳴らして音楽を聴くのは最高に心地いいけれど、残念ながら日本、特に東京のような環境ではなかなかそれを許してくれないんでね。だったら、いろいろなヘッドホンで楽しみつくす。なのでヘッドホン大好きなんです。

M-200

V-MODAヘッドホンの特徴であった豊かな低音域に伸びやかな中高音域を加え、解像度を上げる音作りを進めることで幅広い帯域をフラットに再生することが出来る「原音を忠実に再現する」ヘッドホン。

V-MODA × DJ Watusi

ジャッジしやすいヘッドホンだなと思いました

DJ Watusiさんには昨年11月頃からラジオ収録や制作用にM200、DJプレイ用にCrossfade M-100 Masterをお使いいただいています。

  

エイジングするために、まずはずっとiTunesを爆音で繰り返し流していました。今はそんなにDJができない時期ですから、M-100はこれから使い続けていく中で感想も変わってくると思います。J-WAVEで週に一度、月曜日にラジオ番組をやっているんですけど1時間はずっとトークなんです。長いと疲れちゃうけど(笑)、V-MODAはそんなラジオのトークもすごく聴きやすいなと思いました。

それぞれのモデルを使ってみての感想、音の感触をうかがいたいです。

  

ヘッドホンはもう嫌というほど試してきましたし、例えば雑誌で“ヘッドホン40機種試し聴き”のような企画も過去に何度もやっているので(笑)、いろいろ試してはいますが、例えばヘッドホンアンプもそうですけど、僕らが制作してるときに困るのは例えばギャングエラーとか、いわゆるボリュームを下げていくとLRのバランスが変わるとか、まずはセンターがきっちりとセンターにあること。あとはそれぞれの音の位相感や定位が明確に分かって欲しいんです。よく僕は“9面の立方体”と言うのですが、スピーカーから出る音を上からハイ/ミッド/ローの3つ、左からL/センター/Rの3つに区分けするとちょうど9面になるじゃないですか。さらに音楽ってお弁当箱のように立方体にもなっていて9面の立方体みたいな構造だと僕は思ってるんです。そういう立方体をのぞきながらアレンジ作業を進める中でV-MODAのヘッドホンはその奥の奥が見える、見えやすい感じがしました。特に、音を作るとき棲み分けに苦労する中音域よりも下、中低音域の奥行きまで見えるのでこれは使いやすいなと。実作業に使いやすい、つまりジャッジしやすいヘッドホンだなと思いました。

実作業にはいくつかのヘッドホンを使い分けるんですか?

30年ぐらい愛用しているヘッドホンもあるんですが、それはラージモニターを爆音で鳴らしたときの音像が見えるんです。悪く言うと、それしか見えない(笑)。すごくシリアスに定位が見えるヘッドホンもあって、LRの中を時計の針で言うと3時00分と3時15分の差がわかるくらいなんだけど、それぞれ一長一短があります。だからよく周りの若い子にも、初めてヘッドホンを買うときは必ず複数を買えと。3万円の予算があったら3万円のものを選ぶんじゃなくて1万5000円ずつとか、2万円と1万円とか、2万5000円と5000円でもいいから複数買って聴き比べる。なぜなら、ヘッドホンというのは性質や方向性が全然違うので。ただし、バランスというのはすごくシビアかつ曖昧なものだから、ヘッドホンなりラジカセなりPCのスピーカーなり、どんなもので聴いても結果同じバランスに聞こえるってのがひとつのゴールと思うとすごくわかりやすいから複数で比べろと。そしてそういうときに大切なのは、果てしない長時間の作業でも疲れない音ということ。

Crossfade M-100 Master

ローランドのエンジニアがチューニング・プロセスに参画し、M-100サウンドをブラッシュアップ。新しいサウンドシグネチャを採用、ハイレゾ対応するなどトラック・メイキングに最適化したオーバーイヤー・ヘッドホン。

疲れない音とは?

集中すると比例して段々と音量を上げていきがちなので、結果すごく疲れるんですよね。僕はライブでは、ある一定以上の大きさの会場では自分の耳型で作ったイヤモニを使っているんですけど、完璧に密着するので小さい音量でも臨場感ある演奏ができる。また当然長い間、大きな音を聴いていると鼓膜にダメージがくるんです。それはDJだけじゃなくて制作でも。でもV-MODAのヘッドホンは、大きな音を出さなくてもすごくクリアに奥行きも見えるので、過度に音量を上げる必要がない。そして、疲れない質感の音がします。過度にドンシャリとかアタックを押し出すヘッドホンもあって、もちろん音が見えやすいし聴こえやすいからDJではつなぎもしやすいんですけど、すごく疲れるの。V-MODAはフィット感もいいし、さほど音量を上げなくてもアタックだけでなく塊として見える。例えばスネアだけ、キックだけでつなぐときでも、ボリュームを上げなくてもつなぎやすかったです。それがまずは初めて使ってみてのインプレッションですね。今までは大音量で聴こえるヘッドホンと、定位がどこにあるかわかるヘッドホンを使い分けていたのを、いっぺんにできるヘッドホンだなとも感じました。今後20年愛用できるかどうかは、付き合い方次第だと思いますが、聴き続けたい要素が既にあります。

音質としてはいかがですか?

さっきも話した方向性や奥行きはもちろん、音の分離も良くて、なおかつ中低域のクリアな感じというかその奥まで見えるのは、両モデルとも一致していますね。レンジ感だけじゃなくて、キックのちょっと奥に置いた低域、リバーブの中に置いたシーケンス、ディレイの効果がどこまで残っているかという前後感がわかる。これはV-MODAの方向性、ポリシーなんじゃないかなと感じました。ヘッドホンなんだけど、そういうところをすごくクリアに聴かせるという部分ですね。しかもね、小さい音量でそれが見えるんです。僕はそれこそが“高級感”だと思っています。大きい音だとね、結局何でも気持ち良くなっちゃうんですよ(笑)。大音量だとカッコいいと感じるのは当たり前で、小さい音で奥行きとか9面体である音楽の奥の奥が見える事が実はすごく大切。音量を上げなくても見事にその奥行きや、太さや深さみたいなものが感じられる。そしてすごくフィット感もいいから聴こえやすいですよね。帽子をしながらでも外の音が感じられなくなるフィット感があるから、聴きやすいし音量を上げなくて済むかな。プレートも付け替えられるので、そこはぜひファッションブランドなどともコラボしてほしいですね。

PROFILE

DJ Watusi/Lori FineとのユニットCOLDFEETのプログラマー/ベーシスト/DJ。98年初頭にSony Musicより1stシングル「Pussyfoot」をリリース。Cloud9(Nookie)、Ray Keith等をロンドンから迎えジャパンツアーを行い、映画『スワロウテイル』の制作チームが手がけた“Pussyfoot”のプロモーションビデオは、国内の音楽番組にてヘビ−ロテーションを獲得、また、MTVヨーロッパのプログラム『Party Zone』を通じて世界41カ国、6千万世帯に向けて放送された。国内では中島美嘉、hiro、安室奈美恵、BoA等を手がけ、またChristian Dior、Hermès、Cartie等ハイブランド系の海外をも含むパーティへのライブやDJも行う。07年リリースの「I Don’t Like Dancing」は、この年のパーティーアンセムとなり、アジア4都市を含む36カ所のツアーを開催。COLDFEETとしてこれまでに8枚のオリジナルアルバムをリリース。14年からは独自のテクノスタイルでのソロ作品を連続リリース、オリジナリティ溢れるソロアルバム『Technoca』を世界同時リリース。15年には“21世紀の正しいディスコ”をキーワードにユニット“Tokyo Discotheque Orchestra”をスタート。同時に屋敷豪太、Dub Master X、いとうせいこうなどとインストダブバンド“Dubforce”、“いとうせいこう is the poet”を結成。

https://www.coldfeet.net

https://twitter.com/watusi_coldfeet
@watusi_coldfeet

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