Vol.22 Part-1 UQiYO
今年3月にアルバム『TWiLiGHT』をリリースして、4月から6月にかけて全国ツアー『UQiYO 2015 Tour TWiLiGHT~夕陽と雨と虹とキラキラと~』を行いましたが、改めて振り返って、今回のツアーはいかがでしたか?
Yuqi: 大変でしたね。全国各地をすべて車で移動したという大変さもありましたし、その間にいろんなことが起こって忙しかったし、本当にたくさんのことを考えながら行ったツアーでした。だから、トータル2ヶ月くらいの期間でしたけど、1年分くらい歳を取ったような感覚でした。
そうしたツアーを経て、アルバムの楽曲たちが変化していく、いわゆる”育つ”といった感覚はありましたか?
Yuqi: まったく違うものに変わったということはありませんが、今までに各地で撒いてきた種を、もう一度そこに訪れることで、”点”と”点”が”線”になるような意味合いでの変化はあったように思います。▲Yuqi(Vo, Gt, Pf&Loop Prog, Mix, Mastering)
Phantao: 僕はツアーのブッキングなどもやっていましたから、どちらかと言うと、ライブ会場に行くまでが大変でした。ライブ日程の調整はもちろん、会場への連絡から集客まで、ほとんど自分たちでやったんです。それが大変でしたね。ただ、得る事もたくさんあって。やっぱり、その場所に行かないとダメなんだなと思いました。
それはどういうことですか?
Phantao: 正直に言うと、大変な思いをして遠くまで行ってライブをすることに、どれくらいの意味があるのか、よく分かってなかったんですよ。だけど今回、やっぱりその場所に行って、そこに住んでいる人たちの前でライブをしないとダメだということを強く感じて。今回のツアーではいろんな場所に行って、中でも福岡と札幌は、2度目のライブだったんです。でも実際に行ったからこそ、福岡や札幌の人たちとつながれたというか。東京でCDを出しているだけでは、やっぱり福岡や札幌の人からすると、「東京で活動しているミュージシャン」なんですよね。それ以上にコアなファンにはなってもらえないんだということが、今回のツアー、はっきりと分かりました。
実際にその土地へ足を運んで、ひとつの空間でファンとリアルに接することで、より一層、音楽のつながりがグッと強まるわけですね。
Phantao: まさにおっしゃる通りで、それが実感として理解できたことは大きかったですし、言い換えると、これまでの反省点でもありました。今回は、アルバムのリリースをきっかけとして全国を周りましたが、きっかけ自体はいろいろと作れますからね、今後も、いろんな所でライブをしたいと思っています ▲Phantao(Pf&Key)
島田: 僕も、人との出会い、再会が多くて、しかも「またおいで」という反応は、とても嬉しかったですね。ツアー後も、RISING SUN ROCK FESTIVAL 2015 in EZOであったりと、今年だけで3回も北海道でライブができたりして、先ほどYuqiさんが言っていたように、”点”と”点”が”線”になるということを実感できたツアーでした。
いろんな場所を周ったことで、土地ごとのお客さんのリアクションの違いなどは感じましたか?
Yuqi: かなり違いました。僕らの場合、変な言い方をすると「UQiYOの音楽は、こういうノリなんだよ」と、良くも悪くも、お客さんにノリを強制しないんですよ。だから、勝手にお客さんが大騒ぎになる土地もあれば、「大丈夫かな? 怒ってるのかな?」っていうくらいムスッと聴いている土地もあって。でも、ライブが終わると、「メッチャよかったっす!」とか言ってくれたりして(笑)。そういう意味では、面白い企画をやったんですよ。「Drums of Atacama」という曲で、クラップ音をスネア的に使うんですが、せっかく全国各地を周るので、それぞれの会場の人たちにクラップをしてもらって、それをその場でサンプラーに録って、その音で演奏したんです。
それは面白いアイデアですね!
Yuqi: しかも、それをどんどん蓄積していって、ツアー・ファイナルでは、全国12ヶ所分の、全員のクラップをすべて鳴らして。クラップを録る時も、その土地の個性が出るんですよ。
Phantao: 大人しい所もあれば、訳が分からなくなるくらい盛り上がる所もあって(笑)。
Yuqi: あと、上手い所と、バラバラな所があったりね(笑)。
先のツアーでは、いわゆるライブハウスとは違う環境でも、ライブを行ったそうですね。
Phantao: そうなんです。普通のライブハウスだけでなく、コワーキング・スペースだとか、雑貨店だとか、いろんな場所でライブをやりました。
島田: 酒蔵とかね。
Phantao: そうそう、酒蔵もやったし、ギャラリーでもやりました。そういった変わったスペースでもライブをやったこともあって、先ほど話の出たクラップに関しても、会場の空気感を音楽に取り込めて、この企画はよかったなと思っています。
Yuqi: それと、お客さんとの距離が近くて、同じ目線でやる時と、ライブハウスのように、少し高いステージの上で、お客さんと距離がある場所では、やり方を変えないとダメなんだということは、とても勉強になりました。たとえば京都では、お客さんとすごく距離が近いカフェでやったんですよ。これが大ウケで、それに味をしめて(笑)、大阪でも同じノリでライブをやったんです。でも、大阪はシャングリアっていう結構大きなライブハウスで、お客さんと距離があったから、まったく対話的な雰囲気にならないんですね。そうなると、どんどん焦ってしまって、やたらとMCが長くなってしまうという負のスパイラルに陥ったりして(笑)。
(笑)。そういった、さまざまな環境でライブを行う時に、どのようなポイントを意識しているのですか?
Yuqi: 僕らの音楽って、言っても”歌モノ”ですし、その歌って、フレットや鍵盤がある訳ではない無限音階のものですから、簡単に音痴になったりしてしまう”楽器”じゃないですか。ですから僕は、丁寧に歌える環境を確保できるようにと、いつも心がけています。特にUQiYOのライブでは、ギターを弾いたり、キーボードを弾いたり、ルーパーを使ったりと、やることが多いですから、何かがトラブると、ものすごく分かりやすくそっちに脳ミソが使われてしまうんです。すると、歌に使うメモリー容量がどんどん絞られて、あっという間に音痴になる(笑)。それを避けるために、歌以外のことは自動運転くらいにこなせるようにして、できるだけ丁寧に歌うことを意識しています。
歌は、もっともアコースティックな”楽器”ですから、心理状態がそのまま出てしまうというわけですね。
Yuqi: 出ちゃいますね。その時は上手く歌えた気でいても、後から録音を聴くと、「あぁ、この時は確かにダメだった」っていうこともありますし。もちろん、ピアノだとか他の楽器でも同じことが言えるでしょうけど、ダメな歌って、一番聴き苦しいですからね、余計に大切に考えています。
Phantao: 僕は、常にプレイヤーという意識で演奏しているので、ステージでは、いつも「その場に合った演奏を」と考えていますが……演奏面以外の要素だと、特に今回は、どうやったら面白いライブにできるかという工夫をしましたし、そこをよく考えました。単に会場に行って、音楽をやるだけではなく、そこに何かのプラスがないと、お客さんには届かないというか。気仙沼ではコワーキング・スペースでライブをやらせてもらったんですけど、そこの人と「どういうイベントにしましょう?」というとこから話を始めて、いろんなルールを盛り込んだライブにしたんです。
たとえば、どういうルールを?
Phantao: その時は、まず1セット目のライブがあって、2セット目との間に、みんなで「カレーを食べる会」をやったんです。
カレーですか!?
Phantao: そこでみんなでワイワイとしてから、おもむろにまた演奏を始めたりして。ライブハウスとは違う、そういうスペースだからこその面白いライブの作り方という点は、かなり工夫もしたし、面白くできたんじゃないかと思っています。
とてもユニークな視点でライブを行っているんですね。そもそも『TWiLiGHT』は、まずさまざまなプロジェクトがベースにあって、そこから派生した音楽で構成されている作品ということですから、これまでにお話くださったようなアプローチで会場の空気感までもプラスしたツアーが行えたことで、より”総合芸術感”がアップしたのではないでしょうか?
Yuqi: これは、ずっと考えていたんですけど……作品に関してはおっしゃる通りで、本当にUQiYOの総合芸術と言うか、ほとんどすべての曲が、まず何らかの企画や動画といった目的があって、それに曲が付くような形で生まれたものでして、そういった曲の集大成的なアルバムです。だから音楽的に言うと、いろんなジャンルをまたいでいたりしていて、多彩な音楽を作れたと思っているんです。ただそれとは逆に、僕がツアーのステージで演奏しながら、「こういう曲だと、みんなのノリがよくて楽しい」とか、「こういう曲は、グッと入り込んで聴いてくれる」といったみなさんのリアクションを見ていると、だんだん音楽的な統一感をもっと出していきたいという欲求が、ツアーを経て生まれてきたんです。
「音楽的な統一感に対する欲求」という部分を、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?
Yuqi: 一般的なアルバムって、たとえば「これはダンス・ミュージックです」とか、テーマであったり、音楽のジャンルであったり、各曲に何らかの共通要素を持たせるじゃないですか。だけど『TWiLiGHT』の場合は、プロジェクト・ベースの作品でしたから、音楽的な部分での共通要素ではなかったんですね。ですから、これは次のアルバムにつながる話なんですが、音楽的な共通要素を明確に持つ作品を一度作ってみたいなという欲求が、ツアーを終えて生まれてきているところです。
そういう意味を含めても、『TWiLiGHT』というアルバムと今回のツアーは、今後、UQiYOが生み出す音楽に、大きな影響を与えるものとなったのかもしれませんね。
Yuqi: そうかもしれないですね。いろんな意味で、このアルバムは振り切った作品になりました。しかも、全国各地のラジオでもオンエアしてもらったりと、マスにも食い込み始めているという感覚を持っています。すると、マスを相手に活動している人たちが、どうしてそういうことをやっていたのかが、僕らにも分かるようになってきましたし、じゃあ僕らは、一体何をやるべきなのかということ問わないといけない時期だと思っていて。
島田: これまでは、分かりやすく言うと、非ライブハウスでのライブというのがUQiYOの主な活動の場でしたが、これからは、もうちょっと音楽シーンに殴り込みをかけなきゃなっていうタイミングでもあると思うんです。だから、ライブに関しても、Yuqiさんが言うような統一感を持たせた新しいコンセプトであったり、そういったニュアンスが含まれた新しいものが作れると面白いですよね。たとえば、踊れる曲だけにするとか、あるいは、完全にラウンジ系に特化したものというのも、今後はあり得るかもしれませんし。▲島田悟志(サポート・メンバー/Dr)
Yuqi: そういったこともあって、実はツアー・ファイナルが終わった後、2週間くらいで8曲ほど作ったんですよ。ただ、その8曲の存在というのは、具体的にリリースがどうこうというものではなく、これが始まりだという感覚なんです。そこから今は、また少しずつ、その延長上で進化していっているという状態ですね。
それだけの手応えを感じている、と。
Yuqi: はい。もちろん、これからもプロジェクト・ベースで曲を作ったり、総合芸術としてお客さんにライブを体験してもらうということは、おそらく僕らの命題と言うか、今後もやっていかなきゃいけないことだと思っています。しかも当然ですが、やりたいからやるということが一番大切で、それらをすべて確実に踏まえたうえで、次にどんな曲をリリースして、どういう風に進化をして、音楽的な統一感を生み出していくのか。そういったことを、まさに今、考えているところです。その中で、楽器に関しても、何か新しい物を取り入れたいと思っているんですよ。TR-8のようなリズム系の楽器でもいいし、SP-404SXのようなサンプラーでもいいかもしれない。つまり、リズム的な要素を組み立てる方法論を変えることで、何か今までとは違う、面白い世界が見えてくるんじゃないかっていう、ちょっとした期待を持っています。それができた時に、どういった表現が生まれて、どんな新たな欲求が出てくるのか、そこはすごく楽しみにしています。