バイノーラルってなんだ?
バイノーラルとは?
尚美学園大学 芸術情報学部 音楽表現学科
教授 古山俊一
バイノーラルとは難しい言葉で言えば「両耳効果」と呼ばれ、この方式を使って録音すると音の3D体験ができる興味深いものです。今3D映像が注目されていますが、バイノーラル・サウンドはいわば音の3Dです。
バイノーラル録音は、人間の鼓膜に近いところにマイクを配置して録音し、音の再生はヘッドホンで行います。まるでそこの現場にいるような、臨場感の高い音を聴くことができます。
どうしてこのよう聞こえるのでしょうか。一つは人間の耳に音が到達するまでには、例えば耳の凹凸など、体の各部に音が反射したり回折する独特の音の癖を持っていることです。これは難しい言葉で言えば、頭部伝達関数(HRTFと略される)と呼ばれます。 人間はこの反射や回折によって変化した音を両耳の鼓膜で拾い、複雑な耳の器官を通じて脳に伝えられます。脳では左右の音量差、到達時間の差などをもとに音源の位置や音の鳴っている空間を認識しています。そのため人間の耳独特の、音の癖の付いた鼓膜の付近の音を録音してヘッドホンで聞けば、あたかも録ったときそのままの音が再現されます。
もしバイノーラル録音した音源をスピーカーで再生するとどのようになるのかといえば、本来左あるいは右の耳だけに到達して欲しいのに左の耳には右の音、右の耳には左の音が聞こえてしまい、バイノーラル独特の立体感は得られません。比較的スピーカーに近いところで聴いているなら、鼻の辺りに下敷きやボール紙など薄くて硬い板を垂直に立てて左右のスピーカーの音が左右の耳に到達するようにすると、バイノーラル効果が出てきます。スピーカーでバイノーラル・サウンドを楽しむには、トランゾーラル処理(※)を行う必要があります。
※トランゾーラル処理:右の信号に逆位相の左の音、左の信号に逆位相の右の音をそれぞれごくわずかのディレイを持たせてミックスすることによって、スイート・スポットでバイノーラル・サウンドを聴くことができる。
イヤフォンでもマイクでもある[CS-10EM]
CS-10EMはカナルタイプ・ヘッドフォン型のバイノーラル・マイクです。一般的にバイノーラル録音はダミーヘッドを用います。ダミーヘッドは人間の頭部を模した人形で、耳の部分にマイクを埋め込んだ機器です。これはかなり高価な機器であり、誰でも手軽にバイノーラル録音を楽しむことはできませんでした。
CS-10EMは、ヘッドホンの外側に無指向性のエレクトレット・コンデンサー・マイクを取り付けたタイプの、バイノーラル・マイクです。このマイクを通常のヘッドホンのように耳に取り付けるだけで、ダミーヘッドのようにバイノーラル・サウンドの録音ができます。価格も手ごろでコンパクトであるため、誰でも手軽にバイノーラル録音を楽しむことができます。もちろん高品位なヘッドホンとしても使えるので、録音したバイノーラル・サウンドをすぐに確かめることができます。
バイノーラルで楽しもう
CS-10EMをローランドのハイレゾリューション・オーディオレコーダー「R-07」と組み合わせると、手軽に3Dサウンド・ハンティングが行えます。外に持ち出して気軽にレコーディングしましょう。録った音は友達に聞かせて驚かせるのも良いし、サンプリングの素材や音楽、映像作品に使っても面白い効果があるでしょう。
町の音
何気なく聴いている町のノイズも音源として面白いです。開かれた空間、高い建物に囲まれた空間、建物の中等々、様々な場所の空気感の違いがわかります。車などの通過音、群集のざわめき、虫の声なども面白いと思います。
飛行場
バイノーラル録音では前後左右だけでなく、音の上下もうまく再現します。飛行機の発着や飛行音などを録音するのも面白いでしょう。鉄道など音の3Dといえば交通機関の録音が最適です。ホームで電車が到着するところや鉄橋を通過するところ、踏切などで電車がこちらに向かってくるところなど、通常のステレオ録音では得られない臨場感が得られます。ビデオと組み合わせると面白いでしょう。新しい「録り鉄」スタイルです。
音楽
ホールでの録音に使うと、コンサート会場の座席での音が収録されますので、演奏だけでなく拍手や周りの観客のノイズも高い臨場感で収録されます。発想を変えて演奏家にバイノーラル・マイクを付けて録音するのも面白いでしょう。たとえばピアニストに付けてもらえば、演奏しているときどのように聞こえているのかがわかります。
解説:尚美学園大学 芸術情報学部 音楽表現学科
教授 古山俊一
有名アーティストも作品に取り入れている、バイノーラル・サウンド。ローランドのCS-10EMは低コストで、普段の音楽に新しいエッセンスを加えられる飛び道具的な製品です。興味を持たれたかたは、ぜひ取り扱いの販売店でお試ししてみてはいかがでしょうか?