必要となる映画の劇中曲制作
益田さんは作曲/アレンジ、ライブのマニピュレーター、映画や舞台向けの楽曲/劇伴制作など、かなり多岐にわたって仕事をされていますね。
益田:
そうですね。仕事の割合はその年によって違うんですけど、去年は映画の仕事が多くて、中国に1ヶ月近く滞在しました。その間も、みやぞんさんのCMの曲を作ったり、chayやNao Yoshiokaのライブのマニピュレーターを担当したり、いろいろやっていました。
一昨年公開された宮藤官九郎監督の映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』では、劇中曲の作曲/アレンジも手がけられていましたね。
益田:
舞台の仕事では主に劇伴制作がメインになるんですけど、映画の仕事ですと自分の場合は歌ものを作ることが多いんです。映画の挿入歌作りって、かなり特殊な仕事で、J-POP的な曲作りのスキルに加えて、映像やストーリーに対する解釈も必要になる。舞台の仕事で経験があるので、映画の撮影現場でも役者さんに歌唱指導や演奏指導をする場合もあるのですが、こういったことも今までの経験でやらせていただいています。海外で撮影する場合は、僕が現地で録音させてもらうこともあります。
監督からは細かいリクエストがあるのですか?
益田:
具体的な曲調というよりも、大まかなイメージだったり、シーンの意味などを伝えられることが多いかも知れません。その打ち合わせの内容から想像して曲を作っていく。犬童一心監督も宮藤官九郎監督も、大変な才能をお持ちの方々で、もの凄くクリエイティブ。“音楽はこうあるべき”という固定概念が無い。だからJ-POPの楽曲制作とは違って、音楽そのものの意味を自由にイチから作り上げる感じです。個人的にはそこが凄くおもしろかったりします。
リスナーの側からすると、楽曲自体はJ-POPとそんなに違わない感じがするのですが、どのあたりが一番違いますか?
益田:
いろいろありますけど、例えば役者さんが歌う場合は、音域だけでなく、役者さんのセリフの節回しというかサウンドを考えながら、どのメロディーが一番良いかを考えて作ったりとか。あとは同じ曲でもバージョン違いをたくさん作る必要があったり。現在、犬童一心監督の『猫は抱くもの』(6月23日全国公開)という映画で使われている曲を2曲作っているんですけど、主演の沢尻エリカちゃんが元アイドル・グループに所属していたという設定で、そのグループの代表曲となる『ロマンス交差点』という曲を作ったんです。その曲は劇中、何回か流れるんですが、流れるたびにアレンジや構成、ミックスが違う。ただ流れるだけじゃなく、もっとシーンと一体になっているんです。そんな感じで映画のシーンによってバージョンが変わってくるので、撮影が進行して初めて全体が掴めるようになったり、撮影現場に行かせてもらって初めて分かることも多いんです。なので、J-POPの仕事とはかなり違いますね。
今日は益田さんが作業中のスタジオにお邪魔してインタビューを行なっているわけですが、レコーディング・ブース内にDAWがセッティングされていますね。
益田:
許されれば僕は歌い手さんと同じ部屋で録音するのが好きなんです。同じ部屋で録音すると、歌い手さんとすぐにコミュニケーションが取れますし、生の声の出方、発声などの“肌感”も伝わってくる。もちろん、ノイズ的な面などマイナス面もあるんですけど、それ以上にメリットの方が大きいと思っています。ディレクションがまったく違ってくるんです。今回の映画の曲でも、現場で歌唱指導しながらその場で割としっかりした仮歌を録っておく。そうすると、歌い手さんがそれを記憶してくれて後々いいパフォーマンスに繋がるんです。