タカハシ:前作(『Q&A』)から1年9ヶ月ぶりのフル・アルバムということで、曲を作って、ライブでお客さんと練り上げていく時間を持てたんです。だから、アルバムのために曲を作ったというよりも、ライブのために新しい曲を作って、その中から選び抜いた“ベスト盤”と言っていいような、この約2年間の集大成的なアルバムになりましたね。
カメダ:だから、曲作りに関しても、これまでとは少し違っていて。ライブでやろうと考えると、やっぱりシンプルな方が伝わりやすいこともあるんですよ。曲のテンポや長さに関しても、ライブでやってみて、初めて分かることも多くて。それがスタジオだけで作ると、どうしても曲をこねくり回してしまいがちだし、自分たちは「よし!」と思っても、お客さんの目の前に形として提示した時に、「ちょっと違う」ということもあるんです。そういったいろんなことが、ライブだとすぐに分かるんですね。だから新しいアルバムは、ライブで作っていった曲を、ライブの雰囲気そのままに音源化できて、さらにレコーディングで音を重ねることで、より世界を広げていけたという感覚です。
タカハシ:それでも、ダビングはかなり少なめです。音を重ねることでゴージャスにするのではなくて、まず4人でやっている姿、キーボードがいて、ドラムとベースがいて、そしてギター&ボーカルが歌っているというバンドの姿が、音から見えてくるようなものを作ろうと思いました。以前は、音を足して、コーラスを重ねてということがすごく好きだったんですよ。でも今回は、僕らの名刺というか、バンドの姿が伝わることを一番に考えて、ダビングに関しても、選び抜いた「これだ」というものだけを重ねるようにしました。
タカハシ:そう感じてくれたら嬉しいですね。それが理想でした。
タカハシ:デジタル・レコーディングだと、無音は空白、ゼロじゃないですか。何もない。でもアナログ・レコーディングって、無音部分も、音は鳴っていないけど空気が鳴っているというか、存在感がありますよね。例えば、レッド・ツェッペリンにしても、音数は少なくて、ジミー・ペイジもそんなにギターを重ねているわけじゃないけど、それで十分に成り立っているじゃないですか。もちろん僕らはデジタルでレコーディングしましたけど、そういうアナログのムードを、デジタルでも表現したかったんです。
カメダ:そこは、すごく意識しましたし、あえて弾かない部分を作ることで、鍵盤が入ってきた時、そのフレーズを際立たせるということも考えました。それに、メロディと歌詞が象徴的な曲が多かったので、そこを活かすために、音を抜く作業もして。具体的には、メロディ先行の曲の場合は、まずメロディにコードを重ねて、ここは裏メロがあってもいいなと思ったらフレーズを弾くという作り方でした。これまでは、とにかく全員が好きなことをやって、「さあ、どうだ」という作り方だったんですが、そこが今回、大きく変わりましたね。全員が同じ方向を向けたという感触は、今までで一番強かったです。
タカハシ:メロディ先行だったのは、例えば「サイハテソング」と「マーキュリー」の2曲。これらは、メロディや曲の世界観が最初にあって、それをより伝わりやすくするようにバンドで作っていきました。一方で、「マッチメイカー」のような曲は、セッションですね。確か、ギターのリフがあって、そこからスタジオで作っていきました。こういった、メロディ先行の曲とセッションで作る両方のバランスが、今回はうまく取れたんじゃないかと思っています。あと個人的には、歌、歌詞が伝わりやすいものにするということを軸に考えていて、そういった職人的なバンドのスキルを向上できたという達成感は、とても強いですね。
カメダ:実は「マーキュリー」って、2ndアルバム『イギー・ポップと讃美歌』の頃からあった曲なんです。
タカハシ:たぶん、アルバムの中では、一番古い曲ですね。
カメダ:ただ、アレンジを何度もやり直して。サビのコード進行も、最初にタカハシくんが作ってきたものとは、ちょっと違っているんです。その頃に僕が好きだった、半音階を上下するようなコード進行を足してみたら、シンプルすぎずに、しかもフワッとした雰囲気が出せて、それから曲の全体的なイメージが固まっていきました。アレンジで悩んで、レコーディングでようやく形になった曲でしたね。
タカハシ:アレンジが二転三転して、すごく時間がかかった「マーキュリー」に対して、「サイハテソング」は一番新しい曲で、しかもアレンジも、ほぼ一発で決まったんです。どちらも、アルバムの入口と言える重要な曲なんですけど、僕らにとっては、対極的なアプローチで作った2曲でしたね。
カメダ:エレクトリック・ピアノでもオルガンでも、アタックの速さは、すごく意識しています。あと、テンポの速い曲やファンキーな曲、リズムがハネている曲を弾く時は、なるだけベタ弾きをせずに、隙間にカッティングを入れていく感覚でプレイしています。さらに最近は、キーボードにもワウや歪みをかけて、なるべく音が立つように心がけているんです。そうじゃないと、どうしてもギターに負けてしまいますから。キーボードは、ライブでも使っているJUNO-Gがメインで、もっとオルガンをリッチに聴かせたい時に、VK-7を使っています。ただ、「マッチメイカー」のオルガンは、JUNO-Gです。
カメダ:ボスのBass OverDrive ODB-3などを使っています。あと、ボスのDigital Delay DD-6を2台持っていて、1台はディレイ、もう1台はホールド用に使っています。ホールドは、ライブで曲間に音色を切り替えなきゃいけない時に、前の音色をホールドさせて、それをオフにして次の曲を弾き始めるといった使い方や、あとはステージで暴れたくなった時に、音をホールドしたりしています(笑)。
タカハシ:僕は、ボスHarmonist PS-6がとても気に入っていて、前作に入っている「ちぎってはなげる」っていう曲で、初めてこれを使いました。その時は、オーソドックスに曲の全編でハモらせるような使い方だったんですけど、今回は、すごく変わったボイシングになるような設定にして、「L」を作りました。だから「L」は、PS-6があったから生まれた曲だし、これがなかったら、ライブで再現できない曲なんです。
タカハシ:レコーディングでは、クランチくらいであれば、基本的にはアンプで作りますが、曲によっては、エフェクターで作ることもあります。僕が今使っている歪みは、オーバードライブとプリアンプ、あとソロでファズを踏んでいます。ただ、抜けがいい感じのブースターを持っていないので、今回試奏させてもらったボスの新しいOverdrive OD-1XやDistortion DS-1Xは、すごくよかったです。ソロで使うともう一歩前に出ていけそうな気がしますし、どちらもレンジ感がすごく広いので、とてもクリアというか、CDにレコーディングされた歪みサウンドのような印象でした。
カメダ:まず、見た目がカッコいいよね。「何だコレ!?」って思うくらい(笑)。
タカハシ:本当にカッコいい。
タカハシ:OD-1Xは、音の太さもあって、バッキングによさそうですね。スタンダードに使いやすい歪みでもあるし、[DRIVE]ツマミを上げていくと、ディストーションくらいまで激しく歪んで。それでも、コード感がしっかりと出ますね。DS-1Xは、すごく好きな歪みでした。これはいいですね。往年のディストーションという雰囲気もありつつ、音作りの幅がすごく広いあたりは、今の時代にマッチした歪みだという感じがします。
タカハシ:どちらも好きですね。悩ましいところだなぁ(笑)。元々の好みとしては、僕はオーバードライブが好きなんですよ。ディストーションの、高域がシャリシャリする感じが、実はあまり好きではなくて。でもDS-1Xは、激しく歪ませても高域が嫌な感じにならないし、上の音の粒がすごくよくて、バランスがいいですね。ライブでも、音抜けがよさそうに感じました。最近は、ベースやキックが強力だから、その中でギターを歪ませると、なかなか抜けてこないんですよ。そこに対応しているあたりも、今風だなっていう気がしました。もし僕が使うとしたら、OD-1Xは単音弾きのソロ、DS-1Xはコード弾きで、より前に一歩出るような時に踏みたいですね。
カメダ:今年の1月に製品が発表された時から、ずっと気になっていたんです。僕は自宅にDigital Piano FP-7Fを持っているんですが、鍵盤のタッチ感が近いですね。
カメダ:鍵盤タッチが、重すぎず、軽すぎず、とてもいい感じです。しかも表面が滑らないようになっているので、指先に馴染む感触で、すごく弾きやすかったです。サウンドは、さすがSuperNATURAL Sound Module INTEGRA-7直系の音源エンジンだけあって、どの音色も音が太くて、内蔵音源だけでも、本チャンと同等のクオリティでデモが作れそうです。これなら、後で音色を差し替える必要もなさそうですね。あと、16トラックの内蔵シーケンサーで、各トラックで個別のエフェクトが使えるのがいいですね。今使っているJUNO-Gはエフェクトが3系統までだったので、FAシリーズなら、かなり快適に作業できそう。SP-404SXクラスのサンプラーも搭載されていて、ライブはもちろん、制作も、どちらでもいけそうなワークステーションだと思います。
カメダ:鍵盤タッチが、重すぎず、軽すぎず、とてもいい感じです。しかも表面が滑らないようになっているので、指先に馴染む感触で、すごく弾きやすかったです。サウンドは、さすがSuperNATURAL Sound Module INTEGRA-7直系の音源エンジンだけあって、どの音色も音が太くて、内蔵音源だけでも、本チャンと同等のクオリティでデモが作れそうです。これなら、後で音色を差し替える必要もなさそうですね。あと、16トラックの内蔵シーケンサーで、各トラックで個別のエフェクトが使えるのがいいですね。今使っているJUNO-Gはエフェクトが3系統までだったので、FAシリーズなら、かなり快適に作業できそう。SP-404SXクラスのサンプラーも搭載されていて、ライブはもちろん、制作も、どちらでもいけそうなワークステーションだと思います。
カメダ:パネルが意外とシンプルで、左側のツマミで音色をすぐにコントロールできますし、エディットも、メニューの深い階層に潜らなくていいので、使いやすいと思います。ツマミを動かすと、その値がディスプレイに表示されたりする点は、デジタルのメリットですよね。そのディスプレイのスクリーン・セーバーには、ちょっとビックリしました(笑)。あと、フット・ペダル端子が、ホールドだけじゃなくて、ちゃんと3つ用意されている点が嬉しいです。ピアノとして演奏する時はもちろんですが、オルガンを弾く際も、3つあるとロータリー・エフェクトを足元でコントロールできたりするので、便利なんですよ。88鍵モデルとしてはコンパクトだし、持ち運べる重さだとか、サイズ感もなかなかいいと思います。
タカハシ:何となくですけど、曲を作った時点で、鍵盤の雰囲気も僕の頭の中にあるんです。そもそも僕は、ドアーズとかが好きでしたから、オルガンや鍵盤がいるバンドでロックをやりたくて。だから、そういったイメージを言葉で伝えて、カメダくんなりに表現してもらうことが多いです。ただ、僕の頭の中で鳴っている音は、オルガンやエレクトリック・ピアノといったアナログなもの。シンセだとか、ハイファイなサウンドは僕の発想にはないので、そこをカメダくんに作り出してもらうという感じです。
カメダ:タカハシくんがどういう音をイメージしているのか、それは曲や歌詞の内容から、何となくは分かります。だから、まずはオルガンやエレクトリック・ピアノを当ててみて、「いい曲だけど、普通だな」と感じたら、音色を変えていきます。やっぱり、オワリカラの面白さは、ちょっとぶっ飛んだ感じや、ひねくれた部にあると思っていますから。例えば「L」も、最初はエレクトリック・ピアノが基本だったんですよ。サビはオルガンで。だけど、「何か物足りない」と思って、エレクトリック・ピアノにポルタメントをかけたんです。
カメダ:そういう音が好きなんですよ。エレクトリック・ピアノから音を作ると、まずアタックが出せるんです。ただ、そのままではちょっと違うと感じたので、ピッチ・ベンドを使って弾いてみて。でも、それだと左手が追い付かなくて(笑)、そこでポルタメント思い付いたんです。そうしたら、いい具合に幾何学感が出せて、しかもアンニュイな雰囲気にハマりました。こういった点で、僕はデジタルの恩恵を受けまくってますね。
タカハシ:前のアルバムを作った後くらいに、カメダくんから「最近、ギター・ヒーロー感がない」って言われたんですよ。僕は元々、ジミ・ヘンドリックスがすごく好きで、そこからニューウェイブの幾何学的なプレイもするようになって、じゃあ今回は、ちょっといなたいソロも積極的に入れてみよう、と。往年のロックの興奮というか、その感じは意識しましたね。ストレートに、泣きのソロを弾こうって。
カメダ:それが似合うと思ったんですよ。サビを歌い切った後に、ファズを踏んでギター・ソロを弾くっていう。
タカハシ:そこも、ライブで曲を作っていったという影響が大きかったかもしれませんね。やっぱりライブだと、ソロはファズをガッと踏んで前に出ていきたいという気持ちがありますから。そういう欲望をストレートに反映させた、快楽中枢に誠実に作ったアルバムですね(笑)。
カメダ:いろいろ考えて、わざと変なことをするのではなく、自分たちの王道を素直に出そうと。
タカハシ:今回のアルバムは、ライブで曲を作っていったと言っても、その時のライブでは、お客さんにとっては初めて聴く曲だったわけで、いくらいい曲であっても、やっぱりみんな、ポカンとして聴いているわけですよ(笑)。でも今回のリリース・ツアーは、お客さんが曲を知ってくれている中で演奏できるから、ここは手を挙げて歌おうぜとか、ここは踊ろうといったことが伝わると思うので、そこは楽しみですね。
カメダ:その中で、みんながより面白がれる方向に、変化していくかもしれないし。アレンジではないけど、ギター・ソロを長くしたりだとか、ここからは、もうやり放題で(笑)。
タカハシ:あと、昔の曲もアレンジを変えてやりたいですね。普通は、昔の曲もCDのアレンジのままで聴きたいのかもしれないけど、でもデビッド・ボウイのライブ・アルバムを聴くと、ツアーごとにアレンジが全然変わっていて、ああいう感じが僕は好きなんですよ。同じ曲でも、その時々のバンドを表現するアレンジ。そういったこともやっていきたいと思っています。
タカハシ:そうですね。今回は、アルバム全体のテーマとして、1人の世界というか、孤独だけど前に進んでいくというエネルギーを表現したんですが、同じところに留まっていても仕方ありませんから。歌詞に関して言えば、より踏み込んで、胸ぐらを掴むくらいの感じにいきたいと思ってますし、サウンドについても、今回はオワリカラ流のロックを突き詰めたので、次は、僕の勝手なイメージとしては、オワリカラ流のソウルをやりたいと思っています。……実際にやるかどうかは分かりませんけど(笑)、でも今は、そういう気持ちですね。「MUSIC SLIDER」という曲が、アーバンなシティ・ポップ調で、意外とこの曲が、次作の予告編になっていたら面白いんじゃないかなって、そういういう気がしています。あと、歌のキーを下げたいと思っていて。
タカハシ:別に、自分が歌えないからではなくて(笑)。今、世の中で流れている音楽って、すごくキーが高いじゃないですか。ロックのキーがどんどん高くなっていくことに、とてもウンザリしていて。だから逆に、もっと低いキーでカッコいい曲を作りたいんです。キーは低いけど、気持ちがアガる曲。そこは職人的なハードルとして、挑戦したいと思っています。裏切り続けるという意味でも、本流ではないけれど、王道をいっている、そういう音楽を作り続けていけたらなと思っています。