ヤノ:バンド結成15周年イヤーを締めくくるライブでしたが、程よい緊張感を持ちつつも、リラックスして臨めたツアーでした。選曲も、アルバム『Weeeeeeeeee!!!』の曲が中心ですが、メンバーで「みんな、どの曲が聴きたいかな?」という話をして、ベスト的なセットリストが組めたと思っています。
ヤノ:トピックが多いツアーでしたね(笑)。
ヤノ:ステージのフロントに立ってギターを弾いて、初めて分かったことが、本当にたくさんありました。何よりも大きな収穫だったのは、ギターを弾くことと、ドラムを叩くことって、意外とつながっているんだと分かったことです。ドラムは両手両足で演奏しますが、ギターも身体全体でリズムを取るし、右手のストロークはハイハット的な動きで、左手でコードを押さえるタイミングは、言ってみればスネアを叩く感覚に近いんです。それが分かったことで、ドラムを叩く時もギターの聴こえ方が変わりましたし、ギタリストがドラムの何を聴いているのかということも勉強になりました。
ヤノ:そうなんです。安定したリズムを、きちんと音で聴かせる大切さを痛感しました。こう言うと当たり前の話と思われるかもしれませんが、ドラムのキック、スネア、ハイハットという3点の音とリズムがいかに重要か、これまでも頭では分かっていましたが、ギターをプレイしてみて、初めて実感できました。
ヤノ:もっとドラムを上達したいと考えた時に、ふと、ドラムから距離を置いてみようと思ったんです。上手く説明できないんですが、一度ドラムを客観視することで、何かが得られるような気がして、それで他の楽器を習得しようと考えました。実際に、ギターを練習したことで、ドラムに対してフラットになれたというか、もっと周りに目を向けられるようになりました。ちょうどそういったタイミングで、“燃えよギター”の企画が持ち上がりまして(笑)。しかも今回は、飛び道具としてではなく、ギタリストとして知識と実力を付けていくという目的でしたから、本当に濃いツアーでしたよ。ずっと、ギターの練習してましたもん(笑)。
ヤノ:はい。小学生の頃はブラスバンドでトランペットをやっていたんですが、中学校でサッカーを始めてからは、音楽とは無縁の生活を送っていました。でも、体調を崩してサッカーをやめて、そこで音楽を始めたんです。
ヤノ:ちょっと話が遡りますが、小学校の音楽の先生が、ピアノも弾けて、歌も上手くて、トランペットも吹けて、ドラムも叩くっていう、すごく多才な方だったんです。その先生が、音楽室の机をスティックで叩いてロールしている姿だとか、行進をしている時にBGMが止まってしまって、そうしたらその先生がマーチング・スネアを叩き始めたといった印象がすごく強くて。スネアの音色そのものも衝撃的でしたし。そういうこともあって、サッカーをやめて次に何をしようかと考えた時に、真っ先にドラムが思い浮かんだんです。その後、高校に入学して、学園祭の時に先輩がドラムを探していたことが、ドラムを叩くきっかけでした。
ヤノ:高校を卒業する時です。もともとは、卒業したら調理の専門学校に進む予定だったんですよ。でも、その時に「音楽の道に進みたい」と思って、それで東京の音楽専門学校に通い始めました。その時は、ここまで来たからには、音楽で生活できるようになりたいという気持ちでしたね。ただ、現実に向き合うと、心が折れそうなこともありつつ、といった感じでしたけど。
ヤノ:影響を受けたドラマーと言うと、最初にドラムを叩いたのが、D’ERLANGERのコピーでしたから、やっぱりTetsuさんの存在は大きかったですね。あと、L’Arc~en~Cielのyukihiroさんや元メンバーのsakuraさんもそうです。ただ、パンクからジャズまで、素敵で素晴らしいドラマーはたくさんいるので、本当にいろんな人から影響を受けていると思っています。
ヤノ:アマチュア時代は、自分が楽しいことが一番でした。単純に、ドラムを叩けて嬉しかったし、お客さんがいなくても、仲間と一緒にいるのが楽しかったり。それがプロになってからは、意識を向ける方向が、お客さんだったり、周りの人たちに変わりました。自分が上達して、いい演奏をすることで、みんなが笑顔になってくれる。それが、今の僕の喜びになっています。お客さんが喜んでくれることはもちろん嬉しいですし、ハヤシさんやフミさんが、「今日は演奏しやすかったよ」って言ってくれたら、もうそれだけで一杯呑めるくらい(笑)。そういった、自分と周りとの関係性を重視するようになりましたね。
ヤノ:個性ですか? ……あまり、自覚がないんですが(笑)。
ヤノ:えっ、そうですか。それはすごく嬉しいです。でも……何なんでしょうね?(笑) アマチュア時代にこだわっていたことと言えば……昔は、好きなドラマーになり切ろうと考えていたように思います。それも、特定の人だけではなくて、いろんなドラマーになり切ろうとしていました。当時は、いろんなジャンルのバンドをやっていたので、グルーヴィーさだったり、正確さ、歌うようなプレイと、バンドによって求められるものが違ったんです。だからその時々で、そういうタイプのドラマーになり切ろうと思っていました。だから僕は、音楽的には雑食だと思いますし、いろんなドラマーに対して、「好き嫌い」で捉えずに、スゴイと思うポイントを探して、そこを好きになっていたんだと思います。
ヤノ:そこは意識をしていますね。テンポに関わらず、しっかりと音を鳴らそうと考えています。それはもちろん、お客さんに音を届けるためではあるんですが、やっぱりドラムがしっかり鳴っていると、メンバーも演奏しやすいですし、PAさんもミックスしやすいですから。海外ツアーにいくと、モニター環境が悪いステージも珍しくないので、そういう意味合いも含めて、ドラムをしっかりと叩くということは、大前提に考えています。
ヤノ:POLYSICSはシーケンスも一緒に鳴るので、ドラムの居場所と言うか、ドラム・サウンドがきちんと聴こえるスペースが、一般的なギター・バンドに比べて少ないんですよ。しかも、ベースやギターの居場所も、ちょっと独特ですから、そういったアンサンブルの中で、ドラムがしっかり聴こえる位置はどこなのかを考えながら、チューニングを行うようにしています。やっぱり、“10”叩いているのに、“5”しか聴こえていなかったら、それはあまりにもったいないですからね。きちんとドラムを聴かせるための理屈と、プレイヤーとしての感情のバランスをイーブンで演奏できるように心がけています。
ヤノ:ああ、それはPOLYSICSに入ってからなんです。POLYSICSに入る前は、歌モノを演奏することが多くて、すごく強弱をつけて、歌うように叩いてました。でも、それがPOLYSICSのサウンドに合わなくて、8年かかって、一定の強さで叩けるようになったという感覚です。ダイナミクスに関しては、テンポが速くても遅くても、ムラが出ないように気を付けています。POLYSICSで僕が理想としているドラムは、細かいパルスを繰り返すようなリズムのイメージなんです。そういうドラムの方が、ギターも自由に弾けると思いますし、実際に今回、自分がギターを弾いてみても、そう感じました。……今、改めてアマチュア時代を振り返ると、昔はすごく表情豊かにドラムを叩いていたような気がしますね(笑)。
ヤノ:そう言ってもらえると、嬉しいですね。よく「クリックに合わせてキッチリ叩くドラムは感情がない」って言われますけど、僕は、そうじゃないって思っていて。クリックとクリックの間に、感情や表情を込められると考えているんです。もちろん、入れ込める幅はすごく狭いですけど、その狭間に感情を込めつつ、キッチリと正確に演奏することが、僕はカッコいいと感じますし、それがPOLYSICSにおける、僕のドラム・スタイルなんじゃないかなって思っています。
ヤノ:十数年前に買ったTD-10を、今でも持っています。アマチュア時代に、練習に使うスタジオ代を考えて、家で練習するために買いました。当時は、とにかく音がきれいで、タッチ感がよくて、ビックリしましたね。それに、いろんな設定ができるじゃないですか。よくリバーブをかけて、アリーナで演奏しているようなイメージで練習してました(笑)。その頃にやっていたバンドでも、アコースティック・ドラムにV-Drumsを組み込んでライブもやっていたんです。
ヤノ:とにかく、Vハイハットがスゴイと思いました。単に開閉するだけじゃなくて、スティックのショルダーで叩いた時と、チップで叩いた時にニュアンスの違いも出せるし、ハイハットをクローズで叩いて、そこからさらにペダルを踏み込んだ時に音がタイトになる感じ、これには驚きました。スネアも、プレス・ロールがすごく自然に鳴らせるし、リムショットも、ヘッドとリムのバランスで、ちゃんと音色が変わってくれる。ここまで来ると、アコースティック・ドラムと表現力に違いはないですよね。プリプロは当然、ライブでも何の問題もなく使えると思います。POLYSICSで一緒にライブをしたザ・ダムドとか、海外のバンドって、結構V-Drumsを使っているんですよ。その理由が分かる気がしました。楽器屋さんで流れているV-Drumsのムービーで、オマー・ハキムがプレイしていますけど、オマー・ハキムって、ロックなドラムを叩くこともあれば、すごく繊細なプレイもするじゃないですか。その両方にV-Drumsが付いていっているのが、すごいと思いました。
ヤノ:いわゆる、“人力ドラムンベース”のようなプレイですよね。そういうのって、本当に面白いし、新しいスタイルですよね。これまで打ち込みでしかできなかったことが、リアルタイムに、しかもドラマーのグルーヴで叩けるということは、大きな意味があると思います。今は、手軽にリズムを組めるソフトがたくさんあって、正直、ドラマーの需要が減ってきているという感覚を持っているんです。でも、V-Drumsのような楽器があることで、そこを共存させられると思うんですよ。歴史のあるドラムという楽器と、新しい音色やリズムのアプローチの両方が実現できる。そこがすごく魅力的だと思います。あとV-Drumsって、エフェクトが強力じゃないですか。ヘッドホンだと、めちゃくちゃ入り込めて、もう気分はスタジアム・プレイヤー(笑)。そういったイメージって、練習でも大切ですよね。
ヤノ:ドラマーが楽しくプレイできるだけじゃなくて、そうやってエンジニアさんやPAさん目線でも作られているという点が、V-Drumsならではの部分ですよね。
ヤノ:そういったチューニング的なことや、マイキング、アンビエンスでドラム・サウンドがどう変わるかを、自宅にいながら無限に試せるので、アマチュアがドラムの音作りを勉強するのにも、すごくいいと思います。海外のドラマーが、どうしてV-Drumsを使うのかを考えると、例えば日本に来た時に、いつもと同じドラム・セットを使えなくて、それでバンド・アンサンブルのバランスを毎回作っていくのが難しかったりすることが、ひとつの大きな理由じゃないかと思うんです。その大変さは、僕も海外ツアーで経験していますが、V-Drumsだったら、どの国でも、どの会場でも、まったく同じバランスで演奏できるじゃないですか。それって、すごく画期的だと思うし、リハーサルの時間も、かなり短縮できそうな気がします。
ヤノ:あっ、それはスゴイ! そのアイデアは、まったく思い付きませんでした(笑)。ライブという点では、デザインが最高ですよね。キット全体のバランスがいいし、Vシンバルもスパークルっぽい仕上げになっていて、照明が当って光る感じもカッコいい。スタンドなどのハードウェアも頑丈ですよね。音はもちろんですけど、セッティングも含めて“見せる”ということも、ドラマーの個性ですから、カッコいいというのは大切だと思います。Vシンバルの揺れなども、相当考えて開発したんだろうなって感じます。V-Drums単独で使ってもいいし、トリガー・ピックアップを使って、生音と音源を組み合わせてもいい。サウンドも、ドラマー自身が音源モジュール内部で作り込んでもいいし、パラ・アウトでPAに送って、これまで通りエンジニアさんにお任せしてもいい。V-Drumsを使うことで、いろんなことの選択肢の幅が、大きく広げられると思いますし、その進化具合が、ハンパじゃないですよね。
ヤノ:まずは自宅で、アンビエンスを調整してアリーナ気分に浸ったり、メタル・サウンドでプレイしたりと、ドラムでやってみたいことを、ひと通り全部やります(笑)。そのうえで、やっぱり僕は、ライブの現場で使ってみたいですね。活用の仕方はいろいろあると思いますが、確実に音楽の幅を広げられると思います。曲によっても、今まではできなかった領域に踏み込めますし、曲作りの段階での発想も広げられるんじゃないでしょうか。V-Drumsを使うことで、ドラムという楽器の概念自体を変えられるような、そんな気持ちにさせてくれる楽器だと思います。