Sachiko:FLiPは、これまでの作品も「こういうアルバムを作ろう」とジャンル的なテーマを掲げたことはないんです。今回もそこは変わらずに、その時々で「私たちは、どういう音楽が作りたいのか」っていうことを考えながら曲を作っていったので、その都度、鳴らしたい音のニュアンスが変わってくるんです。だから、サウンド的なテーマはありませんでしたけど、精神的な部分では、”原点回帰”がテーマでした。前作(『XX emotion』)は、半分がいしわたり淳治さんにプロデュースしていただいて、半分はセルフ・プロデュースという形で作ったんですが、その制作を踏まえて、私たちがやりたいことが見えてきたんですよ。
Sachiko:FLiPがこれからステップ・アップしていくためには、ただ前に進んでいくだけではなく、一度このタイミングで初心に立ち返って、自分たちの音と向き合うことがすごく大切になるということです。バンドを結成した頃、歌詞に想いを込めて書いていた感覚であったり、どういうライブがしたいのか、FLiPの音でどういう空間を作りたいのか。そういった、バンドの根本に向き合うこと、それはつまり、FLiPの本質をさらけ出すという気持ちを4人で共有しながら、アルバムを作っていきました。
Sachiko:そうです。私が弾き語りで作った曲を、バンドで方向性を定めて、セッションしながら作っていくというのが、FLiPのスタンダードな曲作りです。それ以外だと、例えばリフから作っていくとか、メロディも何もない状態からオケ優先でセッションしながら形にしていく場合と、軽く各パートのフレーズをスケッチして、それを土台に楽曲へとブラッシュ・アップさせていくような時もあります。
Sachiko:この曲は、セッションをしつつ、同時進行でメロディも作っていきました。まず頭の中に、「こういう曲を作りたい」っていうイメージが最初にあったので、参考になるビートをYuumiに聴いてもらって、その上に乗ってくるサウンド感をみんなで共有しながら作っていきました。そうやって、セッションで組み立てていった曲に対して、即興でメロディを作っていったんです。
Sachiko:迫り来る曲が作りたかったんです。ただ、その”迫り来る感じ”というのは、音圧ではなくて、精神的なもの。精神に襲いかかってくる迫力のある曲が欲しかったんです。だから、何か特別にトリッキーだったり、激しい展開があるわけではないんですが、「私はこの曲にメッセージを乗せたいんだ」っていう気持ちがとても強くて、最初から、これはFLiPのスタンダード曲になるんだろうなっていう予感がありました。そういった”熱”であったり、FLiPらしいザラッとした質感や重みがあって、でもそれは、女にしか出せない味で包み込まれているような曲。それをイメージしながら、「カミングアウト」を作っていきました。
Yuumi:まず参考のビートを聴いてイメージを作りつつ、Sachikoがセッションしながら出してきたコードやメロディにハマりそうなフレーズを提案したりして。そういったやり取りをしている時点で、曲が持つ狂気や鋭さを強く感じたんです。歌詞がない状態でも、既にSachikoが叫んでいる感覚が伝わってきて。だから、イメージしやすかったですし、歌詞が完成して、風景描写がさらに鮮明になっていったという感じでした。
Sayaka:ベースは、今までだとルートを基本にして、ちょっとオカズを入れるっていうシンプルなベース・ラインを作ってきたんですけど、今回のアルバムは、”挑戦したい”という気持ちがすごく強かったんです。だから、「カミングアウト」のベースに関しても、今まで弾いたことのないフレーズを取り入れたくて。もしベースが、これまでのような”どストレート”なラインを弾いていたら、また違った雰囲気の曲になったと思います。
Sachiko:この曲のベースには、妖艶さがあるよね。
Sayaka:そういう感じも出したいなって思っていて。Aメロでは、ベースはかなり動いているんですけど、サビやインターでは、”ドーン”とストレートに疾走感を出せるように、その落差やバランスを考えながら作りました。
Sachiko:そのバランスも、セルフ・プロデュースだからこそ、これまで以上に意識できたんだと思います。例えば、「Yukoだったら、このメロディにどういうフレーズを乗せてくるかな?」とか、プレイヤーとしてもお互いに尊重し合いながら、ディスカッションも、これまで以上に多くできたと思っています。
Yuko:ギターであれば、例えば「a will」のベース・ラインを聴いた時は、「(ギターは)あまり弾かなくていいな」って思ったり。この曲は、ベース・ソロくらいの勢いで聴かせる曲にした方がカッコいいとか、そういうバランスは無意識に考えられましたね。「カミングアウト」に関しては、これまで私はストレートなプレイをすることが多かったんですが、そのスタイルのままこの曲を弾いたら、あまりにストレート過ぎてフックのないサウンドになると思ったんです。それで、イントロのフレーズなどは、かなり時間をかけて練り直しました。今回のアルバムを通して、私は”半音使い”が増えたんですよ。「カミングアウト」でも、半音使いをバンバン出すようにして。このくらい思い切ってやった方が、聴いていて”よい違和感”が出せると思ったんです。そうやって、ギター・アレンジを考えていきました。
Sachiko:FLiPの世界観としては、きれいさだけじゃ物足りないし、狂気だけじゃ怖過ぎる。そのバランスは、すごく大切にしています。だから、荒れ狂うところは荒れ狂うし、だけどその中に優しさがあったりすることで、人間味を出せるんだと思っているんです。人の感情の起伏も、そうじゃないですか。毎日怒ってばっかりじゃ疲れるけど、その感情の中に、一瞬、穏やかなシーンがあったり。そういうリアルな人間な感情の起伏みたいなもの、もっと極端に言えば、きれいな景色と、刺激のある狂気的なものが澱んだ景色を私たちの感性の中で混ぜ合わせることで、FLiPの音楽や歌詞が生まれてくるんです。そのバランスは、ずっと大切にしてきましたし、今回は、これまで以上に、そこを意識しました。
Sayaka:ベースで一番チャレンジした曲は、さっきYukoが言っていた「a will」です。最初はシンプルにまとめていたんですが、もっと奥の深い曲にしたかったし、Sachikoのメロディからも壮大さをイメージしていたので、この曲だけ唯一、チューニングをドロップDにしたんです。半音下げにして、ベースにしか出せない低い音で奥深さを表現したり、うねるフレーズを考えました。
Sachiko:プリプロの時点では、ほぼ8ビートの、UKっぽいシンプルなバラードっていう感じだったんですよ。でも、ベースが上モノの世界観を引き出すような土台を作ってくれて、さらに臨場感のある動きをしてくれたので、作曲時のイメージはそのままに、より曲の方向性を深めてくれました。
Yuko:私は楽器面で、ボスのスライサーSL-20を「Dear Miss Mirror」のAメロで初めて使ってみました。最初はグランジっぽい曲を作りたいねって話をしていたんですけど、でもそこにポップな要素も加えたくて、それだったら、スライサーのエレクトロな感じが合うんじゃないかと思ったんです。
Sachiko:使っているコードが、最初から最後まで、ほぼ同じな曲なんです。ルートがほとんど変わらない分、ギターの動きと音圧の影のつけ方で、うねりを生み出そうと考えました。Yukoがスライサーを使ったことで、その感じもうまく出せたし、セクションごとの落差も表現できましたね。
Yuumi:「カミングアウト」は、歌がない部分でかなり叩きまくっているんです。「いいのかな? 大丈夫かな?」と思いつつ(笑)、でもこの曲の破壊力を表現するには、ここでドラムが遠慮したら飛び抜けた曲にはならないと考えて。仕上がりを聴いて、やっぱり思い切り叩いてよかったなって思っています。あとは、アルバム・ラストの「Bat Boy! Bat Girl」。これは私のツインペダル・デビュー曲なんです!
Yuumi:今までも持っていたんですけど、FLiPでは、なかなか合う曲がなくて。でも、そろそろ使いたいなと思っていて、そのタイミングと、この曲の雰囲気が上手くマッチしました。
Yuumi:はい。ただ、女の子っぽくならないようには、ならないように気をつけました。
Yuumi:ああ、そうです!(一同爆笑) でも、一度は「女の子っぽくならないように」という部分も、通過しているんですよ。男らしさを出さないと、ツインペダルはカッコよくないと思って。でも、それをやったうえで、「ちゃんと女性らしさも残さないと」っていうことを意識しながら、プレイしました。
Sachiko:それはもう、「カミングアウト」ですよ。アルバムの収録曲の中で、最初に歌詞を書いた曲なんです。オケを作っている時から、「カミングアウト」をリード曲にしたいと考えていましたし、最初に歌詞を書くなら、やっぱりこの曲だろうって思ってました。その気持ちは、メンバー全員で共有できていたし、だからこそ、この曲の中に自分らしい狂気をどうぶちまけるか、だけどその中に、愛らしさも欲しいとか、楽曲のスリリングさを歌詞でより増幅できるように、すごく考えて歌詞を書いたんです。「カミングアウト」の歌詞ができたからこそ、この曲を軸に、他の曲をどう広げていくかを考えられたし、『LOVE TOXiCiTY』っていうアルバム・タイトルも生まれて、愛や毒性のバランスが取れたアルバムに仕上げられたと思っています。
Sayaka:はい。フランジャーは、視界を少し”グワーッン”とゆがませたいような時に、ベースにかけています。例えば「カザーナ」という曲のインター部分だとか、カオス感を出したい時に踏みますね。ボスのフランジャーBF-3は、音がキラキラしていて、私が持っているタイプとは、まったくニュアンスが違いました。ベース・オーバードライブODB-3の歪みは、まろやかというか、きめが細かくて、粒立ちがいい歪みというイメージ。私の印象では、クランチ的な感じで、いろんな用途で使いやすそうに感じました。ここぞという時に、単体で強く歪ませてもカッコよさそうですし、軽く歪ませてベース・サウンドの土台を作ると、ボトムをしっかり支えられそうに思いました。
Yuko:高校生の頃に使っていましたが、その時以来で、あまりに進化しすぎていて、驚きました(笑)。エフェクトだけじゃなくて、モデリング・アンプも入っているじゃないですか。試してみたいと思うアンプ・タイプがすべて入っていましたし、エフェクトも、ちょうど最近、ファズやトレモロが欲しいなと思っていたんですが、それらがいろんなバリエーションで入っていて、とても便利ですね。使い方も、一度覚えてしまえば、操作は全然楽でしたよ。
Yuko:よくレコーディングでは、ギターを2本重ねてダブルにしているんですが、ライブで再現する場合、今まではディレイを使って重ねていたんです。でもGT-100があれば、アンプ・タイプを同時に2台使えるので、ステレオでダブルが再現できますよね。あと、先ほど「Dear Miss Mirror」でスライサーを使ったって言いましたけど、レコーディングでは、スライサーを踏みながらオクターブ上げるプレイをしているんですよ。それがGT-100だと、ピッチをオクターブ上げるのに、エクスプレッション・ペダルではなく、タイムを設定してフットスイッチを踏むだけで上げられるので、これはすごく便利。しかも内蔵のスライサーが、必ずフレーズの頭から音をスライスしてくれるので、これは素晴らしいと思いました。GT-100を使うことで、いろんな新しい音作りやプレイに挑戦できそうですね。
Sachiko:アダプティブ・ディストーションDA-2が、すごくいいです。めちゃくちゃ好きな歪みなので、実はもう、ライブで使っているんです。
Sachiko:これまでの一般的な歪みと比べて、すごくハイファイに感じました。例えば、ボスのブルース・ドライバーBD-2って、丸みのある歪みで、名前の通りにブルース的な、ちょっと土臭い音色じゃないですか。もちろん、それがブルース・ドライバーの持ち味だと思うんですけど、それとはまったくタイプの違う歪み。[A-DIST]ツマミでの歪みのコントロールも万能ですし、EQで[HI]と[LOW]がいじれるのもいいですね。音圧を出したい時に、普通は中域が強調されて”ミーッ”っていう音色の歪みになる印象があるんですが、これは高域をガツッと持ち上げられますし、ボトムもしっかり鳴ってくれます。だから、音の壁をすごく作りやすくて、アッパーな曲のサビをブーストしたい時とか、”ここぞ!”という時に、ギターを押し出してくれます。バッキング用のディストーションとして、すごくいいんじゃないかな。主張は強いけど、他のパートの邪魔はしません。レコーディングでは使っていないんですが、最近のライブでは、「Dear Miss Mirror」のサビなどで使っています。あとライブだと、デジタル・ディレイDD-7も使っています。これって、ペダルの長押しでタップに切り替えられるのがすごく便利。私はアナログ・モードで使っているんですが、ディレイ音の立ち上がりがすごくよくて、粘っこい感じではなく、サラッとしたキラキラ感があるので、繊細な曲にピッタリなディレイだと思います。
Sachiko:私だったら、ブースターとして使うかな? エフェクターって、ツマミが多すぎると分かりづらいですが、3~4個のツマミで簡単にサウンドがコントロールできると、初心者でも理解しやすいですよね。ボスのコンパクト・エフェクターって、だからこそ使いやすいと思うし、ギタリストやベーシストがみんな持っている意味が、改めて分かりました。あと、オーバードライブOD-3は、実は高校時代に持っていて、一度手放したんですけど、今回改めて使ってみたら、この個性がよく分かりました。私は、ズンズンと歪ませるよりもクランチ的に使うんですけど、先ほどのDA-2とは真逆な存在で、どんなシーンでもバッキングを支えてくれそうな音色だと思います。一度離れちゃったOD-3ですけど、久しぶりに会ったら、実はなかなかイイ奴だった、みたいな感覚でしたね(笑)。
Yuumi:本来ドラムって、とてもアナログというか、自分で音を作っていくしかない楽器だと思っていて、チューニングにしても、音色選びにしても、すごく時間のかかる楽器なんです。でも、V-Drumsを使えば、そういった作業にかかる時間を大幅に短縮できるというのは、大きなメリットですよね。普段、ドラムの練習でスタジオを1時間使うとしても、その時間内で試せることって、本当に少ないんです。でもV-Drumsなら、1時間あればいろんなことが試せるから、まずそこがすごいと思いました。サウンドに関しても、私が知らなかったような音色や、FLiPではこれまで使う機会がなかった楽器の音とか、エフェクティブな音までいろいろと入っているじゃないですか。そういう音色を聴くことで、「この音なら、こういうフィルが合うかも」っていう新しい発想が生まれてきて、プレイ自体の幅が広がりますね。正直に言うと、実際にV-Drumsを触ってみるまで、ただ単に音色をいろいろと切り替えられるだけだと思っていたんですよ。でも、ヘッドのテンションを変えたらスティックの跳ね返り具合も変わりますし、音の反応もすごく速くて、力の入れ具合でゴーストだとかのニュアンスも細かく表現できるので、本当にビックリしました。
Yuumi:演奏ニュアンスにしても音色にしても、レコーディングでは、最高の仕上がりをCDにしていますが、それをライブで再現するのって、やっぱり難しいんです。でもV-Drumsだったら、ライブでもレコーディングと同じ音で演奏できますし、自分が追求したい細かな部分まで追い込んでいけるのが、すごくいいなと思いました。しかも、音がすごくクリアで、アンビエンス成分まで調整できるじゃないですか。ライブの演奏を音源本体で録音して、それを再生して聴いてみたら、CDみたいな音で本当に驚きました。
Sachiko:ライブでの音作りという意味だと、ボスのボーカル・プロセッサーVE-20も面白いですよね。最近はこれを試していて、ラジオ・ボイスとディレイの2パターンを、自分のタイミングで足元でかけるようにしているんです。普段、こういったボーカル用のエフェクトって、PAさんにお願いしないとかけられなかったじゃないですか。それを感覚的に、歌いながら自分で操作できるので、声を、より楽器的に使える感覚になりました。エフェクトの種類もたくさん内蔵されていますし、本当に声で遊べますね。
Yuumi:ドラムは”タイトさ”です。セクションごとに緩急の差をつけたり、キメをしっかりと決めることで、次の展開にスムーズに入れます。そのためには、音符の長さを意識してタイトに演奏すれば、自然とカッコいいニュアンスが出せるようになると思います。
Sayaka:ベースも、Aメロ、Bメロ、サビで、演奏のニュアンスを変えているんです。Aメロは、少しうねり感を出して、ひとつひとつの音がつながるように、スムーズに弾くことを心がけています。Bメロは優しさを表現して、サビでは勢いを出すためにずっとダウン・ピッキング。こうやって、セクションごとにメリハリを出すことが大切ですね。
Yuko:ギターも同じで、イントロは、音をつなげる部分はつなげる、切るところは切る、それをしっかりやるように気を付けています。ただ、セクションごとに展開が大きく違うんですけど、それがツギハギっぽくならないように、滑らかに切り替えられるように演奏してもらうといいと思います。細かい部分だと、1Aはドラムにアクセントを合わせて、2Aはベースに絡んで、サビはみんなで同じアクセントを出す。そこで、いかに4人で一体感を出せるかが、この曲では重要です。
Sachiko:私のギター・パートをコピーする際は、ドラムの8ビート感にタイトに合わせながら、バッキングをしっかり弾くことに意識を置くといいと思います。Aメロでは、歌いながらカッティングをしたり、単音弾きをしているので、そこで出すところは出す、切るところは切るというミュートのメリハリをしっかりと出す。そのうえで、流れていくメロディをしっかりと歌うことがポイントです。その時に力み過ぎると、音域的にも歌が窮屈なものになってしまいがちなので、どれだけのびのびと声を出せるかも、「カミングアウト」を演奏する際の大切な要素です。バンドをやっている人だったら、7月から始まるツアーで、そういった部分もぜひ観てください!