【Artist】高山 博 氏 SOUND Canvasを語る

DTM音源の名機「SOUND Canvas」シリーズを知り尽くした作曲家 高山 博 氏が語る、懐かしの思い出とSC-VAの魅力。

高山 博 氏
SOUND Canvasを語る

【PROFILE】
大阪芸術大学を卒業後より、作編曲家として仕事をはじめ、CM、コンサート・イベント、CD作品への楽曲提供で活躍。「Logic Pro X for Macintosh徹底活用ガイド」「ビートルズの作曲法」などの著書も多数。東京藝術大学大学院や美学校音楽講座で講師も務める。2015年は泉 陸奥彦 氏(g)や菅沼孝三氏(ds)らと高校時代に活動していたプログレッシブ・バンドCHARISMAを復活させ、アルバム「邂逅」をリリースした。

DTM音源の名機「SOUND Canvas」シリーズを知り尽くした作曲家 高山 博 氏に、SOUND Canvasに関する思い出を伺いながら、ソフトウェア・シンセサイザー化によって再び注目を集めている「SOUND Canvas VA」を使って楽曲を制作頂きました。

SOUND Canvasシリーズとの出会い

僕が大阪出身ということもあり、Rolandさんには20代の頃からずいぶんお世話になっています。芸術大学を出たものの、案の定就職できないので(笑)、デモ演奏などのバイトをさせていただきました。まだ住之江に工場や研究所があったころですね。そのうちに徐々に開発の方にも声をかけてもらうようになり、ミュージくん/ミュージ郎シリーズでは、製品の評価やデモ・データの作成などをさせていただきました。その後、DTM音源はMT-32からCM-64、そしてSOUND Canvasシリーズへとつながるのですが、その間、デモンストレーションやセミナーなどで全国を駆け巡ったり、また、力作コンテストの審査員を担当したのもいい思い出です。

僕が大学を出た頃は、ちょうど「打ち込み」やMIDI音源を使った音楽制作の始まった頃でした。初期の頃は、シーケンサーの容量も小さく、音源もアナログ・シンセサイザーが中心だったので、打ち込みというと、もっぱらテクノポップなどの機械っぽさを前面に出した音楽のイメージが強かったと思います。しかし、パソコンやサンプラーの発達とともに、オーケストラ楽器やドラム、ベースなどの生楽器のパートでも使用できるようになりました。といっても、当初は高価なサンプラーやPCMシンセを何台も並べる必要があって、レコーディングのたびに大量の機材を運搬していました。それが、またたく間に高機能化そして小型化し、SC-55が発売されたときは、アンサンブルに必要な音色がこんな小さな“箱”から出てくることに、衝撃を受けました。MIDI規格が発表されて10年目だったのも印象に残っています。

“SOUND Canvas”と“パソコン通信”で培ったMIDIテクニック

SOUND Canvasシリーズは、その頃やっていたコマーシャルや劇伴などの仕事でも重宝しました。Rolandの音源は、音色に一貫性があるので、簡単に扱えるSOUND Canvasシリーズでデモを作って、その後サンプラーのS-770や大容量PCMシンセのJVシリーズなどに差し替えるなんて手法も多かったですね。また、ちょうどその頃は、パソコン通信が盛んになった時期でした。現代で言う“インターネット”のはしりなんですが、その中心は同じ趣味を持つ人が集まる“掲示板”でした。今だとFacebookのグループのような感じでしょうか。掲示板には、映画や音楽、旅行など、さまざまな種類があったのですが、DTMのカテゴリーもあって、さまざまな人が自分で作ったMIDIデータをアップロードしていました。こちらはYouTubeの投稿などにあたりますね。

そこには、本当に様々なデータがありました。「初めて作りました」なんて微笑ましい習作から、音大の先生の作品、時間と手間を惜しまずに丁寧に作りこまれたシミュレーション、なかにはSCシリーズでこんな音出るの?なんて大胆に音色エディットしまくった作品も。ジャンルも、ポップスからクラシック、民族音楽まで様々。もちろん既成曲のコピーや、クラシックの名曲、さらにはオリジナルもあり、そのオリジナルも多様な曲調のものがありました。僕も度々作品をダウンロードして楽しみました。先にYouTubeと書きましたが、ちょっと違うのは、アップされていたのがMIDIデータというところです。完璧にできあがった音声(オーディオ)データと違って、自分のDAWソフトでトラックごとに開いてみることができるので、その作品がどうやって作ってあるのか、コード進行やボイシングがどうなっているかを、細かく見ることができます。僕も、いい作品があったら、実際に開いてみて、どのように作られているかを研究したものです。

また、掲示板では、こんな工夫をしてデータを作ったか、また上手に打ち込むにはどうすればいいかといった話題が、熱く語られていました。それを見ているうちに、これって考えてみたら、ごく当たり前の楽器の演奏、それが上達することの歓びなんだな、と気がつきました。ピアノやギターのような楽器と同様に、多くの人がSC-55という同じ楽器を前に、演奏や音楽を切磋琢磨して高めている、そんな姿に、電子楽器もこんな風に成熟していくのだと、ちょっと感動しました。その後、SOUND Canvasシリーズは55から55 mkII、88・・・と進化していきますが、挙動や基本的な音色の互換性が保たれていたので、そこで培ったノウハウやテクニックが無駄にならず、DTMシーンは大きく盛り上がり、僕もワクワクしながらその様子をみていました。そのころ得たテクニックは、今も僕の財産になっています。

S-760

JV-2080

集大成の名にふさわしいSOUND Canvas VA

まずは、ルックスにニンマリですね。独特のオレンジがかった黄色いディスプレイとグレーの配色、音色名のフォントなど、実機への愛が感じられます。また、初めて触る人でも、マルチティンバーの発音状態をコンパクトに表示しているので、視認性もいいんじゃないでしょうか。もちろん、実機とは違う部分もあって、一番違うのはパートや音色のエディットの部分でしょう。こちらは、必要に応じて拡張表示を開いて行う形。パートのバランスは16パート同時に見ながらできますし、音色のエディットもパートごとにパラメータを一覧しながらエディットできるので簡単ですね。昔だと、エディターソフトを使うか、コツコツとエクスクルーシブデータを打ち込んでやってたことが、簡単にできちゃいます。もちろん、新たに使う人は普通のシンセサイザー音源と同じ感覚でエディットが行えます。音色選択も、リストから簡単に選べますね。

音色の方は、あのSOUND Canvasシリーズそのものといっていい感じです。ただ、実機よりはずっとハイファイになっていて、無理なく発音している感じですね。素直なサウンドはそのままに、高品位化しているので、他のプラグイン音源と併用しても違和感がない音源に仕上がっています。このあたりは、今のDAW環境にうまくあわせてきたな、と好感触です。
 実機用に作られたSMFも、ほぼ問題なく再現できますし、何よりも、これまでありそうでなかった、エクスクルーシブを含めて挙動をサポートするソフトウェアGM/GS音源ということで、まさに一家に一台的な音源だと思いました。

SC-VA

“実機を思わせる配色、デザインにニンマリ。”

SC-VA_mixer

“ミキサー感覚でパートバランスが調節できるのが便利。”

SC-VA_edit

“普通にエディットできちゃいます。”

癖のないサウンドだからこそ、イマジネーションを掻き立てる

僕もそうなのですが、作曲の最初の段階では、あまり個性のある音源は使いたくないんですね。作曲にピアノを使うのもそういう意味なんですが、あまり個性的な音色だとそっちにイメージが引っ張られてしまいがちです。もちろん、シンセをメインに使う場合は音色から発想することもあるのですが、まずは曲やアレンジから発想して、そこに必要な音色を、なんてときに、SOUND Canvasシリーズ、SOUND Canvas VAはちょうどいい感じです。

既存の楽器音の音色の場合、確かに大容量サンプル音源はリアルなんですが、大容量ということは奏法の特徴も含めてサンプリングされていて、それを切り替えながら使うことになりますね。そういった細かい作りこみは後回しにして、とりあえずあたりをつけておくなんてのには、この素直な音色はいいですね。これでスケッチを作った後、フレーズや奏法に応じた音色に置き換えるのもいいですし、自分のバンドなんかでは今でもGS音源でデモを作ることがあります。そうすることで、プレイヤーの発想をしばらないように、曲の骨組みだけを提示できるんです。

また、SOUND Canvas VAを手に入れたら、ネットにある名MIDIデータの数々をぜひ再生して、中身をみてください。単なる打ち込みテクニックだけでなく、きっと演奏や音楽の組み立て方の参考になると思います。

データ解説

オーケストラと中国楽器による華やかな曲です。もともとは、90年代に芸術祭参加の舞台作品のために作った曲です。SOUND Canvas VAのまとまりのいいサウンドと、民族楽器などの多彩な音色を楽しんでもらえれば幸いです。

管楽器と打楽器用、弦楽器用、中国楽器用に、3基のSOUND Canvas VAを使用しています。入力では、金管楽器に”ティンバーシフト”という手法を使っています。これは、ピッチベンドを上げっぱなしにして、音源のキーをあげた状態で、その分だけ低く打ち込むテクニック。こうすることで、サンプルの割り当てを高くすることができ、ブライトで素早い立ち上がりのサウンドになります。フレンチホルンやチューバのバリっとしたサウンドはこうして作っています。また、ストリングスでは、アタックのゴリっとしたVelo Stringsと、レガートな音色のBright Strの2音色で、弓の動きを再現しています。

メインウィンドウと3基のSCVAは、それぞれ管楽器と打楽器用、弦楽器用、中国楽器用。

SC-VA_logic01

オーケストラのスコアを打ち込み。

SC-VA_logic01

モジュレーション、ピッチベンド、エクスプレッションで細かく表情をつけています。

SC-VA_logic01

デモ曲Audio再生

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