【特別対談】松下マサナオ(Yasei Collective)×高島夏来(東北新社)〜例の動画を語る〜

オンライン動画のコンテスト「BrainOnlineVideoAward」の応募作品『屁、怒り、愛、そして』。関係者を爆笑の渦にまきこんだ、コンテストだからこそ作れる、斬新なクリエイティブを作り上げた高島夏来ディレクターと、センス溢れるドラミングで動画のBGMを支えたドラマーの松下マサナオさんの特別対談です。

例の動画を語る。
松下マサナオ(Yasei Collective)
高島夏来(東北新社)

広告・デザインをはじめ、プロダクト、パッケージ、ファッション、アートなどマーケティング・コミュニケーションに関わるあらゆるクリエイティブ事例が満載の専門誌「ブレーン」(宣伝会議)が主催する、オンライン動画のコンテスト「BrainOnlineVideoAward」(BOVA=ボバ)。 3回目の開催となるBOVA2016では、ローランドも協賛企業として参加し、「ドラム」をテーマに楽器と音楽の未来を創造するクリエイティブを募集しました。
様々なクリエイティブの応募がある中、ひときわ異彩を放っていた動画「屁、怒り、愛、そして」は惜しくも受賞を逃しましたが、高い企画力と構成、出演者の熱演は見る人を引き込む独特の世界観を持っており、関係者の中だけでも大きな話題となりました。
「これを眠らせておくのはもったいない…」ということで、同アワードでは日の目を見なかったこの作品を紹介するとともに、メガホンを取った東北新社の高島氏と、動画中で素晴らしいドラミングを披露してくださったYasei collectiveの松下マサナオ氏の特別対談を掲載します。

▼例の動画

“新鮮に見えるのはコントだな”という発想

まず、今回の動画を制作した経緯を教えてください。

高島 – いろんな企業が協賛していているコンペ(BOVA2016)がありまして。ボールペンや石けんとか、いろんな商品があった中で、「ドラム」というお題は、企画の幅を広げていけそうで、「他の人と被らない、面白い企画を作れそうだ」っていう匂いを一瞬感じたんです。私自身は、小さい時にピアノを習っていたものの、音楽はほぼド素人なんですが、最近、(松下)マサナオさんが所属している“GENTLE FOREST JAZZ BAND”のMVを作らせてもらっていたので、「あ、ドラマーの知り合いがいる」ということもあって(笑)。

松下 – (笑)。それで直接メールが来て、企画が面白そうでしたから。『バードマン』って、ドラム・ソロでサウンドトラックを作っている映画があったじゃないですか。あれを超えるものをつくりたいというオファーで。

高島 – 「ドラムという楽器だけで、どこまで出来るか?」ということを企画にして、あくまでも「バードマン」とは全然違う表現をしたいというところが出発点でした。それでまず、コントと映画、ドラマ風の3種類のテスト動画を作ったんです。すると、映画とドラマはどうしても「バードマン」みたくなってしまう。じゃあ、新鮮に見えるのはコントだなということで、先にコント映像を作って、マサナオさんには、それを見ながら現場で即興で叩いてとお願いして。

松下 – だけど、「あまり先に映像を見て欲しくない」と言われて。予習せずに、その場でアドリブ的に演奏して欲しいという話だったんだけど、実際は、ガチンコにストーリー性のあるキメキメの映像で、「ここでスパンとスネア入れてください」みたいな感じだったから、現場で「え?これマジ、出来るかな?」って慌てて(笑)。

高島 – もうちょっとイメージっぽい映像だと思ってたんですか?

松下 – そうそう。しかも、用意されたドラムが、TD-1Kじゃないですか。電子ドラムでも、もっとグレードの高いモデルなら、ダイナミクスの幅も広くて、タムだけ音量を上げたりといったこともできるけど、これはそれができない。そこが、すごく難しかった。

オナラもドラムで表現

高島 – 確かに、1テイク目が終わった時に、ちょっと微妙な空気になりましたね(笑)。

松下 – 「えっと…どうしましょうか…」みたいな(笑)。だからその場で、絵的にも面白くて、この楽器で出来るベストなフレーズを考えたんです。現時点では、2016年で一番大変な現場でしたね(笑)。でも、一番コンパクトなこのモデルでやったというのは、今思えば、すごく面白かったし、勉強になりましたね。

高島 – オナラを“トゥーン”っていう音で表現できたのは、電子ドラムならではでしたよね。そもそもローランドさんからのお題は、「見終った時に楽器をやってみたいと思える映像」だけで、電子ドラムを使うかどうかも自由だったんですよ。でも、オナラを表現出来た時、本当に電子ドラムを使ってよかったなと思いました。

しかも、セリフがドラムで語られるというアプローチが面白かったです。

高島 – ありがとうございます。まさにそれがやりたかったんです。セリフもそうだし、その時の感情など、すべてをドラムだけで表現したいという企画でしたから。最初は、生ドラムでやるか迷ったし、生ドラムの方が最終的な仕上げもいいんじゃないかって思ったんですけど、「でも、それって普通だな」と感じて。それよりも、電子ドラムの可能性の中でどこまで出来るかという実験をやった方が、企画として面白いだろうと考えて、あえて電子ドラムを選びました。

松下 – 電子ドラムが家にあったら、絶対に楽しいと思いますよ。僕はレッスンの仕事もしているけど、初心者のレッスンとか、全然これで十分。むしろ、普通の生ドラムは音が大きくてうるさいから、それで耳を悪くしちゃうくらいなら、聴きやすい音量できちんとリズムを勉強する方がいいと思う。

高島 – プロから見ると、そういうふうに考えられるんですね。

松下 – みんな思ってますよ。言わないだけで。僕は言っちゃうけど(笑)。ドラムって、結局はガムテープを貼ったりしてミュートするじゃないですか。鳴ればいいってものじゃない。しかも、ライブではPAで音を出すわけで、ドラムって生音が大きい必要はないんです。だから、「鳴らない楽器を作る」という視点でも、電子ドラムは魅力的だし、ようやくそういった楽器が生まれてきたなと思ってます。

高島 – 深い話だなぁ。

松下 – 関係ない話で、すみません(笑)。

音楽的な映像編集

いえいえ、とても興味深いお話でした。では最後に、髙島さんが一番苦労した点を教えてください。

高島 – やっぱり編集ですね。最初は、ずっとコントに音が付いていて、最後にドラマーが映って、実は即興演奏だったんですっていうオチを考えていて。でも、1分ほどコントだけが続く編集にしたら、間延びして、退屈に感じたんです。それで、冒頭で「映像を見ながら即興演奏している」ということが分かるように編集を変えたんです。だけど、編集し過ぎると即興性が薄れてしまうので、そのバランスを考えながら、さらに「何だこれ?見たことない感じだ」という既視感のない映像を作りたくて。しかも、「面白いCMだね」っていう、広告っぽさを出したくなくて。そうしたいろんな想いを叶えるためにはどう編集したらいいか、そこは結構悩みました。

松下 – でも髙島さんの編集って、映像だけでも、すごくテンポ感が出ますよね。

高島 – 本当ですか?

松下 – 最初に話が出た“GENTLE FOREST JAZZ BAND”のMVでも、普通ならここで(カットを)割るだろうなっていうリズムじゃない、シンコペーションしたところで映像が切り替わったり。今回のもそう。

高島 – ああ、そうかもしれない。私はたぶん、“裏打ち”が好きなんです。表(拍)で“タンタン”ときれいに切り替えていくよりは、“ンタンタ”みたいな。「ここかな?」っていう所と一歩ずらすのが好きで。だから、MVを作った時は、カット点をいっぱい直されました(笑)。

松下 – それは、バンド側は「ミュージシャン視点」っていうか、音楽を聴きながら映像を見ているからなんですよ。映像を見ながら音楽を聴くんじゃなくて。

高島 – なるほど! 今の話、とても新鮮。勉強になりました。

松下 – でも今回の映像は、本当にスゲェ面白いから、アマチュアの人が好きに叩いた演奏を聴いてみたいですよね。

高島 – そういう遊び方を提案ができたらいいなということも考えていました。「この映像に、あなたはどういうドラムを付けますか?」みたいな。

松下 – でも、同じTD-1Kしか使っちゃダメ。高級なTD-30KV-Sとか使ったら、それはズルですから。どれだけ僕が現場で大変だったか(笑)。

高島 – みなさんにも演奏してもらうことで、「オレの凄さが分かるだろ」ってね(笑)。

PROFILE

高島夏来(東北新社)

美大でグラフィックデザインを学んだのち、2009年からディレクターとして活動。男性的な視点と女性的な美的センスが混ざった、不思議な世界観を得意とし、「13人のクレイジーな日本人ディレクター」として海外のサイトにも取り上げられる。国内のCMの演出を中心に、日本科学未来館主催のコンペで賞をとるなど活動の幅を広げている。

松下マサナオ(Yasei Collective)

17歳でドラムを始め、アメリカで2年間武者修行、2009年に自身のバンドYasei Collectiveを結成、その後FUJI ROCKFESTIVAL出演、NEW PONTA BOXと異色のツインドラムセッション、ピエール中野氏のソロプロジェクト『Chaotic VibesOrchestra』、他にも各セッションバンドへの参加など、精力的に活動。2016年にはマーク・ジュリアナとの対談、8月に行われたベニー・グレブの初来日公演ではオープニングアクトに抜擢されるなど、将来を嘱望されているドラマーの一人。

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