ピュアな電子音から受ける感動は、圧縮音源から得られるものとは次元が違う
土橋:やる前は、そんなに細かい打ち合わせもなくて、「どうなるのかな?」って思ってたけど、まぁ、何とかなるもんだなって(笑)。
浅倉:(笑)。『SynthJAM 2014』のそもそものきっかけっていうのが、2011年の「Roland SYNTHESIZER DAY」だったんですよ。その時は、JUPITER-80の発売記念イベントとして、松武(秀樹)さん、(齋藤)久師くんと僕ら4人でユニット的にパフォーマンスをやって。その時のみんなの温度感が、すごくよかったんですね。
土橋:そうそう。それで、同じ年の楽器フェアでも、4人でイベントをやって。そうしたら、同じステージに、別枠で氏家(克典)さんが出てたんだよね。
浅倉:そういう形で、ジワジワと横のつながりができてきて、松武さんを筆頭に、「ハードウェア・シンセサイザーの楽しみ方を、いろんな角度からアプローチすることができたら、楽しいイベントになるんじゃないか?」っていうことが、大元のスタートだったんです。実際に、僕は松武さんが作るサウンドを聴いて育った世代だから、やる側としても世代も超えているし、観る側としても、古きよきシンセサイザーから、最先端のサウンドまでが融合していて、電子音が好きな方に喜んでもらえるイベントになったんじゃないかと思っています。
土橋:たださ、2011年の楽器フェアの時っていうのは、イベントの性格的にも新製品が中心で、「これからまたハードウェア・シンセが面白くなってくるんじゃないか?」っていう感じだったけど、2012年に最初の『SynthJAM』をやった時は、初めて5人だけで、「どこまでやれるか?」っていうトライでもあって。それで、松武さんがビンテージの“タンス(MOOG IIIC)”を組んだりして、そこでアナログとデジタルの融合といった可能性を垣間見ることができた。だけどそれ以上に、今年が今までで一番、そこをきちんとした形で表現できたんじゃないかな。とにかく、音の説得力が、ものすごくあったと思っていて。
浅倉:そうでしたね。
土橋:イベントの冒頭で、松武さんがタンスで効果音を延々と鳴らしてたじゃない? あれって当初は、すぐに僕らもステージに入っていく予定だったんだよね。でも、何の間違いか、松武さんが10分くらい、ずっとタンスをいじることになって、ステージ袖で「そろそろ出て行った方がいいんじゃない?」ってなりながら(笑)、だけどその10分間っていうのが、アナログ・サウンドの独特な世界ができ上がっていて、これはすごいなって、改めて感じたんだよね。
浅倉:個人的にも、松武さんが出した音を、すごくレンジの広い会場のスピーカーで鳴らして、空気を通った音として体感できたことが一番の聴きどころでした。あの何の制約もなくて、素直に出てきたピュアな電子音の感動って、やっぱりMP3とかの圧縮音源から得られるものとは、次元が違うと思うんですよ。それが体感できたことが、『SynthJAM 2014』ならではじゃないかって思っていますね。
土橋:そうだね。シンセが出すあのレンジの広さっていうのは、絶対にレコードからも出せるものではないし、それをああいうシンセから鳴らせるっていうのは、音楽をも超えた、完全にひとつの音の世界だよね。その中で僕らは音を作っているっていう感覚を、今年の『SynthJAM 2014』を通して、改めて強く感じましたね。
浅倉:シンセの魅力って、テクノロジーが進化することで新しい音楽ジャンルが生まれてくるっていう、既成概念やセオリーに縛られずに自由で新しい音楽を作り続けられるところだと思うんです。今回世代もジャンルも関係なく、シンセサイザーの音で新しい表現をしようという発想で、「Heartbeat131」を作ることができて、すごく楽しかったです。シンセのインスト曲で5人がコラボレーションするって、なかなか無いことですよね。
土橋:そうだね。BPMだけ決めて。1人1人の曲はそんなに長くないけど、つなげたら10分超えちゃって(笑)。
浅倉:「Heartbeat131」の制作もそうだし、松武さんのタンスのように、ああいった古きよきアナログ・シンセサイザーが持つ音圧感、それを改めて目の当たりにして、僕も初心にかえりました。しかも、今回は冨田(勲)先生も登場されて(トークショー・コーナーに特別ゲストとして出演)、そのお話も含めて、音作りの初心にかえりつつ、大いに刺激を受けたイベントでしたね。
浅倉:2人のイニシャルが“AD”と“DA”だって気付いたのは、前回の『SynthJAM』でしたよね。
土橋:うん。「アナログ/デジタルだ」って。そこから、「これって、オーディオ・インターフェースだ」って思ったのは、今回だったよね。
土橋:2012年の時は、各人でパフォーマンスをやったんですけど、今回は事前のミーティングで、ユニットを作ってコンパクトに演奏するのも面白いんじゃないかっていう話が出て、じゃあ僕と大ちゃん(浅倉)でやろうと。それで、まずはお互いの曲をやって、あともう1曲はカバーをやろうかっていう話をしたんだよね。それで、僕は「フレンズ」、大ちゃんは「techno beethoven」、それともう1曲「call name “future”」を出してくれて。あとは、カバー曲をどうしようかって考えて。僕らは80年代のエレクトロ・ポップをよく聴いていたから、あの頃のシンセサイザーの雰囲気、あの感じがフィーチャリングされた曲を今やったらカッコいいんじゃないかと思って。それで、「Sweet Dreams(Eurythmics)」の、ある意味、すごくシンプルなアルペジオの感じとか、すごくいいんじゃないかと思ったんです。
土橋:僕のメインはFA-08でした。そもそも僕は、JUPITER-80の音は好きなんですが、トーンを重ねて、それをアッパーとロワーに……って、JUPITER-80の音作りって、ものすごく深すぎるじゃないですか? それを、もっとシンプルに使えるのがINTEGRA-7だと考えていて、この鍵盤付きモデルが欲しいとずっと思っていたんですよ。だからFA-08が、まさにそれで。SuperNATURALシンセ・トーンも好きだし、PCM音源も入っているし、FA-08は気に入ってますよ。もちろん、JUPITER-80も別のライブでは使っています。ルックスがいいしね。
浅倉:JUPITER-80は、仕込めばすごいことができるんですよね。あのスペックは、ものすごいですから。
土橋:この曲は、最初に自分で縛りを作ったんですよ。自分のスタジオにあるJUPITER-8と、JUNO-106、Prophet-5っていうビンテージのアナログと、AIRAだけで作ろうと考えたんです。結果的には、ベースにはMKS-80を使いましたけど、面白かったですよ。もっと強い音が欲しいと思っても、縛りの中の音だけで我慢して作ってみると、改めてJUPITER-8のリード音とか、すごく太い音だなと改めて気づいたりして。
浅倉:僕は今、TB-3をリアルタイムで打ち込むことが、とにかく楽しくて。春のツアーでは、例えば手弾きの演奏ではない音色で、だけどキーボーティストがプレイするという部分で、何か面白いシーケンスであったり、ダブ・フレーズを表現できないかなと考えていたんです。その時に、ちょうどTB-3が発売されて、BPMだけ合わせて同期させながら、ステージ上でフレーズ打ち込んで、フィルターで音を作っていくっていう、ライブならではのプレイをしたんです。そこにSCATTER機能を使うと、かなり面白いパフォーマンスができるので、そういった“シーケンス・ダブ”の際に、TB-3は大活躍しています。SYSTEM-1は、まだ使い始めたばかりで、春のツアー終盤と『SynthJAM 2014』でしか使ってないんですが、何か新しい奏法が生み出せそうな予感がしています。たとえば、アルペジエーターをオン/オフさせながら、SCATTER機能で展開させていったり。
浅倉:みなさんは、TR-8を「リズム・マシン」として認知していると思うんですが、僕はシンセをTR-8に入力して、サイドチェイン機能で、コンプをかけながらプレイするために使ったんです。こういった、かつてのトランス・サウンドとは違う、アタックをコンプで潰したようなEDM寄りのサイドチェインのサウンドって、レコーディングで作るのは簡単なんですが、ライブで実現するのはなかなか難しかったんです。それを今回、TR-8のサイドチェイン機能を使って、そのまま生で同期させればいいんじゃないかと思ったわけです。普通に手弾きするだけだとトランスになってしまうフレーズも、サイドチェインをかけることで、2014年のEDM風味にプレイできるんですよ。あと他に、SYSTEM-1とGAIA SH-01、JUPITER-80は、いわゆるシンセとして自分で音を作って、プレイしました。
浅倉:SYSTEM-1とGAIA SH-01って、パッと見だと印象が近いかもしれませんが、SYSTEM-1は、リアルタイムで縦横無尽に音作りができますから、そういったパフォーマンス的に使って、一方のGAIA SH-01は3系統のシンセサイザーをユニゾンで鳴らしたりできますから、3オシレーターのレイヤー感を活かした、ちょっと凝った音作りをしました。JUPITER-80でプレイした音色は、完全に自分でプログラミングしたものばかりです。
浅倉:ひと言でいうなら、accessならではの、スピード感のあるEDMサウンドですね。今の時代ならではのサウンドを、いろいろと試行錯誤しながら作っていったんですけど、とても気持ちいい曲に仕上がったと思っています。意外と長くなってしまって、今どき珍しく、6分を超えるシングル曲なんですけどね。
土橋:大丈夫だよ。「Heartbeat131」みたく10分超えなきゃ(一同爆笑)。
浅倉:ですよね(笑)。もう、シンセ全開のEDMサウンドが鳴りまくっていますから、ぜひ多くのみなさんに聴いて欲しいです。制作ではソフト・シンセをメインに使いましたけど、ライブでは、AIRAシリーズやJUPITER-80など、ローランド・シンセが大活躍すると思います。先ほど話した春のツアーでは、ボーカル(貴水博之)と僕の2人だけで全部やったんですけど、夏のツアーは、ギターとドラムも入れたバンド編成なんです。そのバンド・サウンドも含めて、ルーパーとかを使って、生音をリアルタイムでリミックスをしようかと思っていて。
土橋:へぇ。それはすごいね! 面白そうだなぁ。
浅倉:以前は生演奏では出来ないことでしたからね。今なら、リフを1回弾いて、それをループさせたり、スライサーをかけたりと、いろんな面白いことができますから、そういった斬新なライブ・リミックス的なことをやってみたいと思っています。
土橋:はい。制作はもう終わっていて、8月に映画が公開されます。
浅倉:かなり大変だったんじゃないですか? 映画のサウンドトラックって、曲数が多いですから。
土橋:でも、テレビ・ドラマほどではないから。テレビだと、70曲くらい必要だったりするけど、今回は30曲くらい。だけど、『頭文字D』に関しては、僕は音楽以上に、車だったり、『頭文字D』そのものに思い入れがあるから(笑)。
土橋:そうです。ソフト・シンセとギターで作りました。ただシンセというより、ギターをフィーチャーしつつ、あえて、バーチャルな音と、リアルなギター・サウンドをミックスしたりして、独特な音像感やスピード感を作り出しています。いずれ、サントラ盤も出せればと考えていますので、まずは映画を楽しんで欲しいですね。
浅倉:いや、何も押し付けるつもりはないですね。その世代はその世代で、世界がちゃんと形作られているから、僕らが知っている流儀をもって「こうしなさい」というようなことはありません。「キーボードの練習はした方がいい」って言うのも、頑固親父みたいで嫌だし(笑)。
土橋:本当に、そうだよね。今だとさ、トラック制作からシンセに入ってきて、「知らない間に(鍵盤を)弾けちゃった」みたいな人もいるじゃない? それって僕らからすると、考えられないようなすごい技術だと思うし、それも十分に“アリ”だと思うんだよね。ただ1つだけ言うなら、シンセを使うなら、「シンセの仕組みを知ると、もっと楽しくなるよ」ということくらいかな。
浅倉:確かにそうですね。基本は知っておいた方が、絶対に楽しい。
土橋:基本を覚えておくと、シンセをもっと深く、面白く楽しめる。どのメーカーの、どのシンセでも、基本は同じだから。
浅倉:そういう意味だと、内蔵されている数千種類のプリセット音色の中から1つを選んで、「これでいいかな?」ではなくて、自分の鳴らしたい音、イメージした音をとことん追求して、音を作って欲しいですね。そうでないと、みんな同じような音になっちゃいますから。
土橋:うん。基本さえ押さえていれば、どんどん自分で世界を広げていけるからね。そこが、シンセの面白いとことなんじゃないかな。
(次回、《後編》へつづく)