土橋:いや、これが全然なかったんです。
浅倉:ただ、TM NETWORK関連でね。宇都宮隆さんのバンドで、土橋さんがバンマスをされていたので。
土橋:そうそう。大ちゃん(浅倉)の曲自体は、UTSU(宇都宮隆)と一緒にやっていて、その時に大ちゃんの曲っていうのは、セットリストの中で、盛り上げどころで持ってくることが多くて。だから、大ちゃんの曲をここに演奏するためには、その前後をどうするかといった感じで、セットリストを考えていたんですよ。
土橋:“浅倉大介サウンド”には、独特なものがあると僕は思っています。当然、大ちゃんはTM NETWORKのマニピュレーターとしてキャリアをスタートさせているから、原点はそこだろうけど、でも、どんどん突っ込むようなちょっと過激なビート感、これは完全に“浅倉サウンド”特有のものだと思っていますよ。
浅倉:僕はもう、土橋さんのサウンドっていうのは、それこそ(自分が)アマチュア時代から、テレビで見て知っていたわけで。土橋さんは、80年代の、ニューロマンティック時代の洋楽テイストをお持ちになりつつ、それと同時に、当時の日本の歌謡曲というか、日本人が口ずさんで気持ちいいメロディ、そのバランスの取り方がすごいなと思っていて。音色はすごく尖がっているんだけど、メロディは一度耳にすると、すぐに口ずさめる。今回の『SynthJAM 2014』のセッションでも、僕は「フレンズ」のメロディをSYSTEM-1で弾きながら、すごくカラオケに行きたくなって仕方なかったんです(笑)。改めて、メロディの素晴らしさを感じましたし、それと音色との絶妙なバランス感は、土橋さんならではですよね。
土橋:まあ、どっちかと言うと僕は、“シンセシスト”って言うよりも、“メロディ・メーカー”だから。元々がバンドの人間だしね。当時はよく、音楽雑誌とかで、レベッカとTM NETWORKが比較されたりしたんだけど、コンセプトがまったく違ってたから。
浅倉:シンセをフィーチャリングしながらも、レベッカは「バンド」でしたし、TM NETWORKは「ユニット」という見せ方でしたよね。とは言え、やっぱり当時の音楽シーンでの二大巨塔ですよ。
土橋:そうですね。さらに言えば、僕は、ピアノやオルガンからスタートしたメロディ・メーカーだけど、大ちゃんは、もちろん鍵盤楽器の演奏技術は持っているけど、トラック・メーカーの原点の人と言えるんじゃないかな。しかも今って、むしろそっちが主流じゃないですか。僕らって、どちらかと言うと、ピアノだけを弾いているわけにはいかない音楽シーンの変化があって、シンセやDAWを使った音楽制作にいかざるを得ない状況だったわけだけど、今や、音楽を始める人のスタート地点が、DAWだったりするわけで。だから、今のトラック・メーカーたちからすると、大ちゃんって、本当に神様みたいな存在だと思うよ。
浅倉:いやいや、何をおっしゃいますか(笑)。ただ確かに、僕がシンセを始めたタイミングでMIDIが規格化されて、とにかくいろんな機材をつないで、そこからシンセの世界を広げていけましたから、恵まれた環境ではありましたね。
土橋:その最初の世代が大ちゃんで、さらに今は、ピアノやオルガンすら通過せずに、シンセをバンバン弾く連中がたくさん生まれてきていて。そうなると、僕らと同じシンセを使っていても、彼らはキーボーディストではなくて、どちらかと言うと、トラック・メーカーだよね。
浅倉:ただ、現状を見ていると、トラック・メーカーになると、なかなか人前に出てくる機会が少なくなりますよね。やっぱりライブで、生の音で聴き手に感動を与えるためには、自宅でDAWをいじっているだけでは難しくて、そこにパフォーマンスが付いてくることが必須で。そういう視点で見ても、ようやく最近になって、DAWでやっているようなことをステージに持ち出せるようになって、トラック・メーカーが、リアルタイムにパフォーマンスが行えるハードウェアが誕生し始めてきたという流れになってきましたよね。
土橋:そうだね。
浅倉:DJがかける曲に合わせて、シンセやエフェクターをステージに持ち込んだりして、トラック・メーカーが、新しいパフォーマンスをライブで披露できる時代になってきたと思います。
浅倉:これまでは、レコーディングに便利で、スタジオで使いこなしやすい機材がたくさん開発されてきたと思っています。ただ、それをそのままライブで使おうとした時に、例えばモードの概念だとかは、そもそもライブでプレイしている人間にとっては関係のないものであって、「どうしてパターンをRecしながら、すぐにPlayできないの?」と感じる部分もたくさんありました。機材の使用に、そういう“制限”があると、事前に仕込みが必要になったり、ライブの現場ではすぐに対応できないことも出てきて、それがストレスになっていたわけです。そういったことが、ローランドであれば、新しく誕生したAIRAシリーズでモードの概念が丸々なくなって、すべてがリアルタイムで動かせるようになったわけです。やりたいことが、その場ですぐにできるようになった。メーカーを問わず、こういうタイプの楽器が少しずつ登場し始めてきて、これってすごく面白い、楽しい傾向だと僕は感じています。
土橋:うんうん。結局さ、スペック重視で、行き着くつくところまで行っちゃったんだよね。おそらく。
浅倉:スペックの“足し算”が、やり尽くされたんですよ。だから今からは、用途に合わせた“引き算”じゃないかって思っているんです。もちろん、レコーディング用の機材としては、とことん高性能で、いろんな用途に対応できる、それこそINTEGRA-7のような音源の存在は、本当に重宝します。ただ、これがライブで使う機材となると、もっと引き算が大切になってきて、その発想から生まれてきたのが、AIRAシリーズなのではないかと思っているんです。
土橋:そう考えると、“足し算”で一番奥深くまで行き着いたのは、やっぱりJUPITER-80かな?
浅倉:JUPITER-80のスペックは、ものすごいですからね。
土橋:究極まで到達したのがJUPITER-80で、そこからINTEGRA-7で、少し戻ってきて。
浅倉:そうして、SYSTEM-1で一気に戻ってきた。だってSYSTEM-1って、メモリーできるのは、たった8音色ですからね(笑)。でも、リアルタイム・シンセとしては、それで十分な使い勝手なんですよ。だから、ローランドがこのタイミングでAIRAシリーズを出してきたというのは、言葉にするのが難しいですけど……「おかえりなさい!」という感覚ですね。これは、いい意味に受け取ってくれたら、嬉しいですけど。
土橋:うん、すごくよく分かる。「おかえりなさい!」だよね。
浅倉:僕がAIRAシリーズから感じたことは、開発者や、それこそローランド社員の1人1人が、「こういう楽器が欲しかったから、形にしてみました」という意志なんですよ。だからこそ、僕にしてみれば、思いもしなかった新しい発想で。だって、TR-808もTR-909も、TB-303までフル・デジタル化して、さらに新しい機能を加えることで、復刻モデル以上の楽器を生み出したわけですからね。
土橋:僕も、オリジナルのTR-808とTR-909は両方とも持っているんだけど、AIRAシリーズのTR-8はやっぱりそれとは違っていて、“最新の音”という気がする。しかも、オリジナル・モデル以上に、いろんなことが可能になっていて。そこがいいですよね。TB-3も、本当に面白いし。
浅倉:よくできていますよね。僕はすごく好きです。最近は、一度TB-3を触り始めると、ずっとTB-3で遊んでしまうんですよ。そもそも、なぜその時にTB-3を触ろうと思ったのか、きっかけも忘れちゃうくらい没頭してしまうんです(笑)。
土橋:忘れちゃうよね(笑)。
浅倉:気持ちいいですからね。
土橋:まさに“オモチャ”だよね。今の時代って、いろんな物がどんどんバーチャルになっていって、ハードウェアをいじるという感覚が、どんどん減っているじゃないですか。でも、(楽器の)作り手と使い手のコミュニケーション、つまり楽器をいじって音を鳴らすという行為は絶対に必要だと思うし、そういう意味でも、ハードウェアのシンセって、今、すごく面白いんじゃないかな。
浅倉:“オモチャ”と言っても、デジタルで安価な物という意味ではないので、違う表現をすると……“大人のホビー”ですよね。手で触れて、演奏することで脳からアドレナリンが出てきて、その音やグルーヴに満たされる感覚。そこで気持ちよくなれれば、必然的に作り出した音やグルーヴは気持ちいいものになるはずだし、それが聴き手に伝われば、すごくいい音の空間を生み出せるわけで。
土橋:そこにね、ローランドはもちろん、多くのシンセ・メーカーが気付き始めてくれたことは、すごくいい流れだと思う。だってさ、海外のシンセ・メーカーだとか、絶対にそうだよね。「面白そうだから、これ作ってみました」みたいな発想で。
浅倉:そもそも、ガレージ・メーカーなんて、マーケティングで楽器を作りませんからね。彼らは、シンセ・マニアの集団で、自分たちが欲しい楽器を作っているわけですから。今の時代って、家電でも何でも、「マーケティングでユーザーの意見を聞いて、それを上手くまとめてみました」という製品が出てきても、誰も魅力的に感じないんですよ。だけどAIRAシリーズには、いわばガレージ・メーカー的な「これ、面白いと思ったんです!」っていう感覚が、すごく伝わってくるんです。
土橋:そのガレージ・メーカー感覚を持って、シンセ・メーカーの大手であるローランドが作ったっていうことが、すごく重要だよね。
土橋:そういう意味では、ここ最近、ローランドに限らず、メーカーごとの個性が、これまでよりも出てきたように感じますね。
浅倉:『SynthJAM 2014』って、まさにそういう感覚のイベントだと思うんですよ。メーカーの垣根を越えながら、それぞれのアプローチが、いい形でつながっていければいいなというイベントだったし、出演者としても、そういう気持ちは強いです。
土橋:そうだね。少し話が戻っちゃうけど、『SynthJAM 2014』のオープニングで、松武さんがタンス(MOOG IIIC)を鳴らし始めた時って、これはすごい世界だなと思ったの。松武さんが作り出したアナログ・サウンドの世界の中に、僕らのデジタル・シンセが加わっていって、それらが次第にぐにゃぐにゃとカオスになっていく感じが、新しい音の世界だって思ったんですよ。しかもそれって、ギターや生ドラムにも勝る強烈なインパクトがあったと、僕は感じていて。これって、シンセという楽器が本来持っている魅力だとか、音の世界に直結する話なんですよ。僕自身も、ここ5~6年で考え方が変わってきていて。それこそピアノからやっていた人間で、メロディ・メーカーとして、バンドの中での1パートを奏でるキーボーディストという感覚から、バンドだとか、音楽をも超えた、シンセで作り出せる1つの音の新しい世界があるんだと、どんどん感じるようになっていて。実は今、自分の中で密かに盛り上がっているんですよ。
浅倉:そういう世界を生み出せる、凝りに凝ったシンセの本当の音を、できるだけ多くの人に、きちんと聴いて欲しいですよね。今の世の中で溢れている音って、言ってしまえば、ほとんどがシンセで作られているわけじゃないですか。カラオケだって、アイドル・グループのバックで流れている音楽だって、ほとんどがシンセで作ってるわけですよ。だけどその中で、シンセを極めた「本当のシンセの音」というものを、『SynthJAM 2014』のようなイベントで、実際に体感して、発見してもらえると嬉しいです。僕自身、『SynthJAM 2014』で何が面白かったかって言うと、松武さんのタンスに、(齋藤)久師くんのTR-8から外部トリガーを送って、アナログ・シーケンサーのグルーヴを跳ねさせたことなんです。
土橋:あれは、すごかったね。
浅倉:普通だと、アナログ・シーケンサーだから、「デデデデ…」っていう平坦なリズムになるじゃないですか? そこに最新のTR-8を組み合わせることで、アナログのシーケンサーを跳ねさせたグルーヴを作り出したわけです。これは横で間近に見ていて、本当に鳥肌が立ちました。
土橋:(頷きながら)つまりね、曲の中でのシンセのポジションっていうのが、これまで僕は、ギターやベースだとかと同じように、あくまでも曲を際立たせる楽器のひとつだという考え方で接していたんですよ。だけど、もう言ってしまえば、曲すらもどうでもよくて、そこに乗っていくシンセ・サウンドのインパクトというものを、ものすごく強く感じたんです。だから、“AD/DA”のパフォーマンスでも、あくまでも「曲」は「素材」であって、その上にどうシンセが乗っていくか。その面白さを、今回初めて感じました。今までは、曲を活かすためのシンセだったけど、曲を超えた部分でのシンセのすごさや面白さというものを、『SynthJAM 2014』のステージで、一瞬、垣間見たような気がしています。
浅倉:僕は、設計者や技術者が、「こんな音の発振のさせ方を見つけたんだけど、楽器になるかな?」っていうものを形にして欲しいですね。「これで、どんな新しい音楽が生み出せるんだろう?」っていうワクワクする楽器。これまで長く活動してきて、あらゆる楽器を見てきた中で、やっぱりワクワクしたり、ドキドキする物には、自然と掻き立てられますから。
土橋:ワクワクする楽器は、絶対に作って欲しいよね。そのうえで、作り手側から「これどう?」みたいなね、「こんな楽器、面白くないですか?」っていうような前向きな提案を、ローランドにはずっとし続けて欲しいと思うし、ローランドは、それをやらなくちゃいけないと思う。
土橋:そうそう。そういった状況が生まれれば、音楽は、これから先もどんどん面白くなっていくと思いますよ。
浅倉:それこそが、シンセという楽器が持つ、一番の醍醐味ですよね。だって、聴いたことのない音源システムが生まれることで、そこから新しい音楽ジャンルが生まれるわけですから。言ってしまえば、TR-909だって、発売当初は「何だこの音は?」って思われていたわけじゃないですか。でも、ある人がその独特な音色を前面に押し出してハウス・ミュージックを生み出したことで、TR-909のサウンドは「カッコいい!」となったわけで。
土橋:そういう可能性を秘めた、新しい音を作り出して欲しいですね。
浅倉:そのためには、やっぱり無難に“置きにいく楽器”だと、シーンや時代を作るのは難しいんですよね。もちろん、いろんな方向性の楽器があっていいと思いますが、楽器が新しい音楽を生み出すためには、どこか少しでも、既成のモデルにはないユニークさや、過激な要素が入ってないと、刺激を受けませんから。
土橋:そうだよね。“無難な楽器”ではなく、新しい音楽が生まれる可能性を感じさせてくれる楽器、それがこれからもどんどん生まれてくることを楽しみにしていますし、そういう意味でも、ローランドにはとても期待しています。