中嶋:前回のファイナルも渋谷CLUB QUATTROだったんですけど、その時とはまったく違う気持ちでやれました。特に今回は、演出面でも、今までで一番こだわったので、そういう意味でのいい緊張感もあって。ツアー・ファイナルって、いつもはホーム感というか、「みんな仲間」っていう空気が強かったんですけど、『T H E』というアルバム自体、自分たちの中では「カッコよく見せたい」という気持ちがあったので、よりアルバムのイメージに沿った、今までよりも一段階上の演出や雰囲気を実現できて、それがよかったなと思っています。
キダ:回数を重ねるごとに、tricotを知ってくれている人、ライブを楽しみにしてくれている人が増えてきて、そんなお客さんの熱量に負けないように、「かましてやろう!」という気持ちで臨んだツアーでした。
ヒロミ:アルバムそのものが、現時点でのtricotの集大成という形で、『T H E』には結成初期の曲も入っているんです。そういう曲は、普通の対バン形式ライブだと、30分程度の持ち時間の中にはなかなか入れられないんですが、そんな曲も含めて、ワンマンでいろんな曲をお客さんに聴いてもらえたことが、嬉しいことでした。だからお客さんも、tricotに対して持っているイメージ、例えば、MVがある「99.974℃」や「爆裂パニエさん」といった曲から受けたイメージを、いい意味で、さらに幅を広げてもらえたんじゃないかって思っています。
komaki♂:特にファイナルは、今までのライブの中でも、レスポンスのスピードが一番早かったように感じました。僕らの演出やテンションに、直球で返してくれるような感覚で、お客さんと一緒にライブを作れたという印象が強かったですね。
ヒロミ:私は、小さい頃にピアノを習っていて。でも、ライブでキーボードを弾くことはなかったんですが、急にアコースティックでやることになったので、ツアー先のホテルで、猛練習しました。
中嶋:私が自宅で曲作り用に使っているJUNO-Gを急遽持ってきて。まさかJUNO-Gを人前で使うことになるとは、思ってませんでした(笑)。
中嶋:本当に計算とかではなくて、スタジオに集まって、セッションで作っています。ほぼすべて、ギターのリフから広げていって、みんなで「今のは、サビっぽい」とか、「これは、Aメロにしたら?」みたいな感じで。
キダ:そうですね。その時に弾きたいやつを。家で考えてきたフレーズという場合もありますけど、だいたいは、その場の気分で出てきたリフを使います。
中嶋:誰が仕切るとかもないし、逆に何も言わない人もいない。すごくいいバランスで、曲を作れていると思います。そうやって、まずインストだけ聴いてもカッコイイ状態を作って、そこに後から歌を乗せて、さらにカッコよくするというような作り方です。
komaki♂:だから、オケを作っている段階では、どんな歌が乗ってくるのか、まったく分からないんですよ。「多分、ここがサビになるだろうな」くらいの気持ちで。
中嶋:セッションで曲を作っている最中は、いい意味で、歌は完全に無視されてますので(笑)。後から私が作るメロディや歌詞についても、ほとんど何も口出しをされたことはありません。そこはほったらかしで、自由にやらせてもらっています(笑)。
中嶋:ただ、インスト曲に歌を乗せるという感覚よりも、ギターが主だと思っているので、ギターの音色にメロディが引き出されてくるんです。だから、無理に歌を考えるのではなく、自然とメロディが生まれてくる感じなんです。
中嶋:そもそも、4人ともポップな人間なので、カッコよくしたいんですけど、小難しくなって、つまんない音楽になるのは嫌なんです。ちゃんと、人に届く範囲で遊びたくて。もちろん、めちゃくちゃに振り切った曲があったり、その幅はあっていいと思うんですけど、音楽として「いいな」と思える曲が、私は好きですね。
komaki♂:僕は、プログレとかフュージョンも好きなんです。ただ、「スゴイことをやってますよ」的な感じには、したくないんです。結果的に、ちょっと小難しくなることはあっても、そこを見せたいわけじゃなくて、もっと音楽が生み出す雰囲気とか空気感を表現するために、自然と変拍子や激しい展開が当てはまっていく、そういうような音楽を作りたいと思っています。
中嶋:ギターに関しては、tricotの前にソロ活動をしていた時からなので、4年くらいです。以前に組んでいたバンドではボーカルでしたが、曲は作ったことがなくて。そのバンドが解散した後も、音楽を続けようと思って、コードも何も分からない状態で、初心者向けの1~2万円のギターを買って、曲を作り始めたんです。tricotでも、去年くらいまでは、そのギターを使っていました(笑)。
キダ:私は、中学2年生の頃に、家にあったアコギを弾き始めて、高校で軽音楽部に入りました。中学時代は、ACIDMANやナンバーガールを聴いていて、椎名林檎さんやaikoさんも好きでした。そうしたら、軽音楽部の顧問の先生が、「洋楽を聴け」っていう人で、イーグルスやエリック・クラプトンを聴くようになって。
ヒロミ:そうです。高校から始めたので、8年目くらい。高校の軽音楽部に入って弦楽器をやりたいと思っていたんですが、やっぱりギターはものすごく人気があって。ベースを希望する人は少なかったので、ギターよりもいっぱい弾けると思って、ベースを選びました。最初は女の子3人でバンドを組んで、サウンドスケジュールや椎名林檎さん、ストレイテナー、エルレガーデンのコピーをやっていました。
komaki♂:友達に「いいバンドがあるよ」って紹介されて、とりあえずスタジオに入ってみようというところから始まりました。だから、もともとは接点がなったんです。でも、そのスタジオで、「このバンドをやってみたい」と思って、最初はサポートで手伝って、2011年に正式加入しました。ドラム自体は、中学1年生の時に吹奏楽部で始めたので、もう15年くらい経ちましたね。
中嶋:昨日のツアー・ファイナルでも、まだkomaki♂が入る前に作った曲もやりました。3人でtricotを組んだ時から、もう変拍子だとか、今みたいな感じの曲を作っていたんです。
キダ:私のギター・サウンドは、基本的に歪みと空間系の2つで、広がりを持たせたい時や、場面展開したい時に、ボスのデジタル・ディレイDD-5を踏んで、ディレイをかけています。歪みは、オーバードライブ程度です。
中嶋:私はほとんどがクリーン・トーンで、盛り上がる場面でエフェクターを踏んで、ちょっとだけ持ち上げるくらいです。ただ、先輩(キダ)のギターと混ざらないように、感覚的ですけど、先輩の音を聴いて「私はここやな」っていうように、帯域が重ならないように気を付けています。
キダ:RC-20XLを持っていて、ライブでも使いますが、スタジオで曲を作る時に、浮かんだフレーズをループさせて、それにコードを付けたりといった時にも活用しています。
キダ:TE-2は、面白かったです!
中嶋:音が「宇宙!」って感じ(笑)。
キダ:普通の空間系と違う、初めて使うタイプのエフェクトでしたけど、アイデア次第で、面白い使い方ができそうに感じました。赤坂BLITZ(2014年3月20日のワンマンライブ)で、使ってみようかな(笑)。これは、どちらかと言うと、飛び道具的な使い方になるかもしれませんが、MO-2は、今、ライブで演奏しているtricotの曲でも、単音弾きのフレーズにオクターブを重ねたらどんな感じになるかなって思っていたので、そういう時に、便利そうだと思いました。単にオクターブの上下が重なるだけじゃなくて、コード弾きにも対応するところが、すごいですね。
ヒロミ:ライブでは、私はコンプをかけっ放しにしています。楽器自体の音が気に入っているので、あまり歪ませずに、グッと持ち上げてくれるタイプのコンプを使っていて、あとはフレーズによって、歪みを踏んだり、本当にピンポイントで、遊ぶようにフェイザーをかけたりすることもあります。
komaki♂:僕の中で、「ハイハットの扱いが上手い人は、ドラムが上手い人」っていうイメージがあって。ロック系の人って、ハイハットのオープン/クローズがルーズ気味な人も多いですけど、僕はハイハットで細かいフレーズを入れたり、そこでキレよく聴かせたいということを意識していて、ハイハット・ワークは、いろいろと研究中です。
komaki♂:Vハイハットは、めちゃくちゃイイですね。単にオープン/クローズだけじゃなくて、クローズからさらに踏み込んだ感じもきちんと表現できるし。全体的に、とにかく叩いていて何も感じずに、気持ちよくプレイできました。いい意味で、普段と同じ感覚で、違和感がありません。僕は以前にヒップホップのバンドをやっていて、その時は、スネアにクラップの音を足したりだとか、そういうプレイを考えていました。だから当時、それこそV-Drumsのようなエレクトロニック・ドラムがすごく欲しくて、バイトやってお金を貯めていたんですよ。でも、お金が貯まる前に、そのバンドをやめちゃって(笑)。それにしても、最新のV-Drumsは、本当にスゴイですね。
komaki♂:今のアコースティックのキットに組み込んで、例えば、4つ打ちの曲で、キックにエレクトリックな音を重ねたり、大サビの一番盛り上がるところで銅鑼の音を混ぜてみたり、そういう遊び方を試してみたいですね。あと、僕はオールドな音色が好きで、コーテッド・ヘッドを張ったり、80年代のシンバルを使ったりするんです。ただライブの現場だと、PA的には、もう少しアタックが欲しかったりという場合もあると思うんですね。そういう時に、V-Drumsの音源で、生音をサポートするような使い方ができると、もっと大きなステージでも、よりよく聴かせられるでしょうね。それこそ、バンドの爆音の中で、V-Drumsの音源を利用して、リム・ショットをクリアに鳴らしたり。そういった使い方は、ぜひ検討してみたいと思いました。
中嶋:「タメ」と「ブレイク」、これは練習でも、めっちゃ厳しいですね。
komaki♂:よくあるのが、サビ前の1拍ブレイクですよね。ブレイクあって、次にバーンとバンドで入るパターン。
中嶋:私たちは、クリックを使って練習したことがほとんどなくて。レコーディングでも、クリックは使わないんですよ。
komaki♂:ベーシックのレコーディングは、クリックなしで、「せーの!」の一発録りなんです。
中嶋:だから、そもそもテンポも決まってないような感じで、その時に気持ちいいタメやブレイクじゃないと、みんなから怒られるんです(笑)。もしかしたら、前日の練習とはタメと長さが違うかもしれないけど、それでも「(今日は)このくらいタメたい」とかっていうことが、その都度あって。そこがtricotの曲の気持ちいいところだと思っているので、「タメ」、「ブレイク」、「キメ」、これさえ決められれば、あとは楽しめればいいってくらいの気持ちはありますね。
中嶋:全然、違ったりしますね。『小学生と宇宙』という2ndミニ・アルバムに「G.N.S」っていう曲が入っているんですけど、この曲は、初期の頃に作ったライブ会場限定シングル用としても、一度録ってるんです。それを後で聴いたら、テンポがめちゃめちゃ遅く感じて、それで、『小学生と宇宙』のレコーディングでは、同じ曲なのに、めっちゃ速いテンポで演奏しました。この曲は、ずっとライブでやってますけど、今はちょうど中間くらいのテンポでやっています。そのくらい、テンポの感覚って、その時々で変わるもんだと思っています。
komaki♂:まさに、そういう感じです。
中嶋:ライブでやって、「こっち(のテンポやアレンジ)の方がカッコいいやん!」っていうように、だんだんと演奏もアレンジも変わっていっちゃう。
komaki♂:しかも、お客さんのレスポンスを直接に感じながらやっていく中で、「これがベストだ」っていう演奏が、だんだんと固まっていくんです。
中嶋:はい。「タメをがんばれ!」(笑)。
中嶋:今までの作品って、音源もライブ感を意識して作ることが多かったんです。でも、今回のアルバムは、音源として何回でも繰り返して聴ける作品にできたかなって思っています。前までは、「やっぱりtricotは、ライブの方がいいね」っていう声を、よく耳にしていて。音源を聴いても、やっぱりライブが観たいっていう。でも『T H E』は、音源として「めっちゃイイ!」って思ってくれた人が多くて、それでいて、ライブはライブですごくイイっていう、いい意味で、アルバムとライブを分けられるようになったかなって感じています。そういった、tricotの成長っぷりを感じてもらえると嬉しいです(笑)。
キダ:私は、全曲のコーラスを聴いて欲しいですね。
キダ:そうなんです。コーラス・フェチなので。
中嶋:イーグルス!
キダ:そう、イーグルスの影響で。
中嶋:ここで、まさかのイーグルスからの影響が表れているという(笑)。
ヒロミ:アルバムとして聴いてもらった時に、曲そのものや音色面はもちろんなんですけど、曲順や曲間まで、すごくこだわって作りました。みんなで「(曲間を)あと0.5秒短くしよう」とか、細かいところまで意識して仕上げたアルバムなので、できればいい音の環境で、1枚を通して聴いて欲しいですね。
komaki♂:それに、1曲ごとに曲のストーリーがハッキリしていて、僕はこのアルバムが完成した時に、本当に映画1本分くらいのボリュームがあると感じたんです。だから、ちょっと部屋を暗くして、「映画を1本見てから寝ようか」っていうような感じで聴いてもらってもいいし、もちろん、「ロックバンドのCDを聴くぜ!」っていうイメージで聴いてもらってもいいし、いろんな聴き方を楽しんで欲しいです。車で音量を上げて聴いたりだとか、シチュエーションによっても、全然違った、いろんな聴こえ方がするアルバムになっているので、そういう楽しみ方も、ぜひ試してみてください!