演奏ではなく音作りからドラムを始めました
これまでの音楽歴は?
父親がミュージシャンなので、楽器とか機材とか、普通の家にはないようなものが周りにあったんです。だから、音楽をやろうと思えばいつでもできる環境だったんですけど、小さい頃から体を動かすのが好きで、いろんなスポーツをやっていました。高校時代はライフル射撃で3年連続インターハイに出ましたし、3年生のときには国体にも出場しました。
音楽は好きで聴いていたのですか?
中学に入るくらいまでは、父親が薦めるAORやブラック・ミュージックなど、王道系の音楽を聴いていました。その後、自分で開拓するようになって最初にハマったのが打ち込み、エレクトロニカ系で、射撃をやりながらDTMでドラムンベースを作っていました。特に発表するわけでもなく、自分が聴いて納得すればOKみたいな感じで。
ドラムとの出会いは?
家にあった楽器は一通りやってみたんですけど、どれもハマらなくて、ドラムは家で叩ける環境でもなかったのでずっとやっていなかったんです。でもドラムンベースではドラムの音色がすごく大事なので、よりリアルな音を求めて、スタジオに行って自分でドラムを録るようになったのが始まりでした。だから最初はちゃんと演奏できたわけではなく、チューニングや叩き方を変えて一発ずつ音を録るだけ。シンセも大好きだったので、“ここはサイン波じゃなくてノコギリ波だよな”というのを、生音で作っていました(笑)。普通の人とはだいぶ違うスタートでしたね。
では、実際にドラムを叩くようになったのは?
1曲にスネアだけでも60種類くらい使っていたので、作業がだんだん大変になっていったんです。これだったら自分で叩いた方が早いんじゃないかと思い始めて、やってみたら意外と叩けたので、これでいいやと。最初はハイハットだけ、スネアだけという感じで別々に叩いていたんですけど、そのうち全部一気に録れるんじゃないかと思って、練習するようになりました。
最も集中して練習した時期は?
大学時代ですね。スポーツ推薦で入学したんですけど、実は高校まで射撃はずっと個人でやっていたので、体育会系の雰囲気に馴染めなくて、1ヶ月くらいで射撃部を辞めてしまったんです。でも大学には在籍していられたので、じゃあ何をしようかと考えたときに、ドラムを大学の4年間本気で練習したらプロを目指せるんじゃないかと。それで軽音楽のサークルに入って、授業のない日は1日10~12時間、授業があっても6時間くらいは毎日欠かさず練習していました。そのうち、大学3年生くらいからドラムの仕事もいただくようになって、プロに必要なことを学ぶために村石雅行さんの道場に入って、さらにいろんな仕事をするようになり、現在に至るという感じです。
今回の受賞動画のように、生と電子楽器を組み合わせるようになったのは?
もともと打ち込みの音が好きだったので、エレクトロニックなものを取り入れるのは自然なことでした。トリガーもTM-2が発売されるとすぐに買いましたし、今はTM-6 PROがメインで、ライブはもちろんのこと、リハにも持って行きます。特にライブ・ハウスでは常設のドラムを使うことが多いので、会場の鳴りも含めてPAさんと相談しながら、出音を安定させるのに役立てています。特にキックの補強は必ずしていますね。低音がしっかり出ているとPAさんも楽なので。スネアもトリガーしてクラップを出したり、アタック成分を足したりと、トリガーは手放せないですね。
アコースティック・ドラムに『SPD-SX』や『TM-6PRO』を組み合わせたソロ・パフォーマンスで、ハイブリッド・ドラムの可能性を引き出してくださいました。
ドラマーもエフェクターや電子音を当たり前に使う時代に
受賞動画のソロはどのように作っているのか教えていただけますか?
あれはエレクトロニック・ミュージックのサンプリングを使っているんですけど、そこに入っているキックをあえて抜かずにそのまま活かして、アコースティック・ドラムの演奏を足すと面白いんじゃないかという発想です。スネアはRT-30HR でトリガーして、キックはRT-30Kを付けてそれぞれSPD-SXのトリガー・インに入力し、キックを踏んだりスネアを叩くとサンプルが鳴る。そのサンプル自体も、キックとスネアの交互で成立するように作っています。あとはSPD-SXのパッドで鳴らすサンプルと、シンバルも含めた生音を組み合わせた演奏になっていますけど、どうやって叩いたのかは覚えていません(笑)。
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スネアの上にボスのSD-1が載っていますが、あれは?
ヒップホップとかビート・ミュージックが大好きなので、そういう質感の音を出すためにドラムの上にいろんな物を置いて叩くことも多いんです。他のドラマーさんも、財布やスマートフォンなどを置いて叩いていたりしますけど、僕はエフェクターをよく使っています。重さ的にも、裏がゴムになっているのもちょうどいいんです。ボス以外のエフェクターを使うこともありますけど、今回はボスがいいだろうなと(笑)。ちなみに、SD-1を留めている紐は、僕が輸入代理店をやっているDRUMGEESというブランドのものです。
アコースティック・ドラムがA&Fのスネアとシライキートのキックという、生らしい音に振り切った楽器を選んでいるのもポイントですね。
エッジの効いた音はデジタルで出せるので、生音はアコースティックじゃないと出せないところを狙いました。デジタルの音だけだとソリッド過ぎて、いかにもパッドで演奏してますという感じになるんですけど、スネア、キック、シンバルの生音が入ると、人間が演奏している感が出るんです。そんなふうに、SPDのサンプルとドラムの音をきれいに調和させるのが今回のテーマでした。それぞれが少しずつ違う成分を出して、あまり被らないように、スネアもキックも極端なチューニングにしています。
そんな佐藤さんが、“こんな機材があったら使いたい”と思うものはありますか?
ドラム用のアナログ・エフェクターにはすごく可能性があると思います。実際はギター/ベース用のエフェクターも普通に使えますし、僕もペダル・ボードを2個持っているくらいですけど(笑)、機械が苦手なドラマーでも使いやすいものがあるといいですね。でも本当は、新しいものを作るというよりも、使い方をレクチャーして意識を変えることが必要なんじゃないかと思います。海外のドラマーだと、けっこうエフェクターを足元に並べていたりしますし。
佐藤響さんの最近のセットアップ。手元にTM-6PRO、足元にはエフェクターが置かれている。
佐藤響さんの自宅スタジオ。配信動画の多くはここで録られている。
普通にエフェクターを使いこなしているギタリストやベーシストも、電気や機械に特別詳しい人ばかりではないでしょうからね。
ハイブリッド・ドラムも、ハードルが高いと感じているドラマーは多いと思うんですけど、例えばSPDとか、使ってみたら決して難しくはないんですよね。今はSPD::OneやRT-MicSのように、導入しやすい製品もたくさんありますから。あとは、例えば演奏中にスティックで操作できるみたいな、両手両足がふさがっていても操作しやすい機材があると、ドラマーがエフェクターや電子音を当たり前に使う時代が来るんじゃないかなと思います。
ドラマーとしての活動以外にも幅広くその才能を発揮されている佐藤響さん。この時着用されていたTシャツもご自身がデザインされたもの。 オンライン販売 もされているので、気になる方はぜひチェックしてみてください。