【ARTIST】三柴理が語るFAシリーズ

日本ロック界屈指のピアニスト三柴理が、4年ぶりとなるソロ・アルバム『AKEBONO』を完成させた。新作には、映画『忍性』サウンドトラックを含む全25曲が収録されており、それらはいずれも、INTEGRA-7、FA-06、JD-Xiなどを駆使した“手弾き”で制作されたと言う。今回、その制作過程と楽曲に込められたストーリーを紐解いてもらうと同時に、“三柴流ローランド・シンセ活用術”をたっぷりと語ってもらった。

三柴理
打ち込みはゼロ。FA-06を駆使した“手弾き命”のレコーディングだった。

サウンドトラックは、映像を見ながら手弾きしてオーディオ録音していった

最新作『AKEBONO』は、どのようなイメージで制作していったのですか?

三柴 – これまでのソロ・アルバムは、『Pianism』というシリーズで、ピアノを中心とした作品を作ってきたんですが、今回は、INTEGRA-7やFA-06、JD-XA、JD-Xi、V-Synth GTなどを使って作った映画『忍性』のサウンドトラックも収録したいということもあって、少し雰囲気の軽い、聴きやすいアルバムにしたいなと考えたんです。そこで、1曲を短めにして、それぞれの曲が、人が生きている時のサウンドトラックになればいいなという気持ちで作りました。

アルバムのタイトル曲にもなっている「AKEBONO」は、かつてFantom-Xのデモ・ソングとしてご提供いただいた作品だそうですね。

三柴 – そうなんです。当時、評判もよかったですし、僕にとっても大事な曲でしたので、今回、CD化しました。そのきっかけも、映画『忍性』なんです。この映画は、主演の和泉元彌さん(狂言師)が熱演されていて、最初に届いた映像が、和泉さんが着物のまま、野原をものすごい勢いで走るものだったんです。でも、無我夢中で走っているのに、狂言師の方ですから、上半身がまったくブレないんですね。その映像を見た時に、少し憂いのある曲で、日本的な音階を使っている「AKEBONO」が合うんじゃないかと感じたんです。そこから制作を始めて、「AKEBONO」を中心に、アルバムの1曲目が「AKEBONO Prologue」、そして最後に「AKEBONO Epilogue」という構成にしました。

「AKEBONO」のようなピアノ曲に加えて、シンフォニックなサウンドトラック、そして打ち込みのリズム・トラックやシンセ・サウンドをフィーチャーした楽曲と、バラエティに富んだ内容となりましたね。

三柴 – 『忍性』のサウンドトラックは、僕とClara(THE金鶴)で作ったんですが、台本を読み込み、映像を100回くらい見て、登場人物の動きや心情に合わせて作っていきました。しかも、クリックなどは使わずに、僕とClaraで、リアルタイムに映像を見ながら“せーの!”で演奏して、それをMIDIではなく、オーディオで録音していったんです。だから、映像とタイミングがズレたら、合うまで何度でも弾き直すという方式で、コンピューターで打ち込みをした曲は、ほぼゼロです。

では、「Plot」や「Wild Work」のような、リズム・トラックがある楽曲は?

三柴 – リズム・トラックは、ピコ太郎の師匠でもある高見眞介さんが作ってくれたもので、それをFA-06のサンプル・パッドにインポートして、パッドを叩いて演奏しました。ですから、高見さんは打ち込みでリズム・トラックを作ったのかもしれませんが、僕はリアルタイムにそれを鳴らして、曲の頭から最後まで、1曲を通してオーディオで録っていったというわけです。

シンセを使いつつも、すべて生演奏でレコーディングしていったのですね。

三柴 – 僕もClaraも“手弾き命”のレコーディングでした(笑)。たとえば、「デュークとボルシチ」だと、だいたいの構成を決めておいて、あとはClaraが弾き出すと、それに合わせて僕が弾いて、いい具合に盛り上がったから、「じゃあ、そろそろ終わろうか」みたいな感じで。音をフェード・イン/アウトさせる時も、リアルタイムにINTEGRA-7のボリュームを手で回すんですよ。今だと、そういったことが、すべて波形編集でコントロールできるじゃないですか。でも、それだと不自然になる場合があるんです。

音量の上げ下げに至るまで、すべてが“生演奏”だった、と。

三柴 – そうなんです。音色に関しても、FA-06の「スタジオ・セット」を使えば、16パートまで音色を重ねて弾けるじゃないですか。この機能を活用して、ほぼすべて、何種類かのトーンを重ねて使いました。重ねずに弾いたのは、「Punishment」と「Borscht(ボルシチ)」のオルガンくらいだったかな。

シンセ以外に、マイクを立てて録った楽器もあるのですか?

三柴 – 元・特撮の高橋竜さんに、「A Sleeping Dog」でフレットレス・ベースを弾いていただきました。「Lone Wolf」の口笛も、高橋さんです。この曲のギター2本と「My Failure」のギターはClaraが弾きました。あと、「My Failure」のリコーダーは、アルト・リコーダーのパートがシンセで、ソプラノとソプラニーノが生のリコーダーです。最初は3本ともシンセで録音したんですけど、この曲の意図として、「みんなできちんと演奏していたところに、変な人が飛び込んでくる」という設定だったので、生も混ぜようということになって、Claraがスタジオで吹いたんですよ。

中盤のマーチング・ドラムとリコーダーだけになる部分ですか?

三柴 – バンド編成になる2コーラス目の途中からです。あのマーチング・ドラムも、打ち込みではなく、FA-06のドラム・キットを、鍵盤で弾いているんです。そもそもこの曲は、僕が筋肉少女帯に入る前に組んでいたバンド「新東京正義乃士」の時代に作った曲なんです。曲の冒頭、ちょっと勇ましく始まるじゃないですか。それは、僕が18歳くらいの頃に、こういう音楽で世の中を変えてやるんだと燃えて作った曲だからなんです。そのブラス・セクションも、最初はFA-06で一度に鳴らせる音色を作ったんですけど、パートを分けて、重ねて録っていきました。ただ、そうやって頑張ってきたけど、音楽で世の中を変えるのは無理だったなと、だんだん気弱になっていくわけです。それで、曲のタイトルが「My Failure」。つまり、「私の失敗」で、初めは勇ましいんだけど、だんだんショボいリコーダーになって(笑)、最後はピアノ・ソロで悲しく終わるっていう。

そういうストーリーがあったんですね。

三柴 – だからこのアルバムは、25曲、すべてが標題音楽なんです。標題音楽の大家であるリヒャルト・シュトラウスが、その昔に、「どんなネタでも音楽にしてやる」と豪語したと言われていますけど、同じような意識で作っていきました。ですから、曲名とリンクさせて曲を聴いてもらえると、より楽しんでいただけるかなと思っています。たとえば、「GOOD LUCK」という曲は、SF作家・神林長平先生の作品タイトルで、『戦闘妖精・雪風』の続編『グッドラック戦闘妖精・雪風』から名付けたんです。僕は、これらがOVA化された時にサウンドトラックを担当しました。大好きな作品でしたから、今回はOVAのオープニング曲「Engage」の続編となるような音楽を収録したんです。「Longing」も、神林先生の「膚(はだえ)の下」という小説があって、その中に出てくる“サンク”という名の人造犬へのオマージュなんです。あと「Plot」は、とんでもない陰謀に引っかかっているのに、それに何も気付いていないというイメージで、爽やかなピアノを入れたりね。

制作時のイメージを伺うと、曲を聴いた時の印象がより広がりますね。そのピアノに相対するような、「Plot」のベース音は?

三柴 – 陰謀のイメージを表現するために、太くて生きた音がするJD-Xiのアナログ音源で、手弾きしました。そのベースと、リズム・トラック以外のシンセ・サウンドはJD-XAです。JD-XAは、「Plot」のほかに、「In the Darkness」でも弾いています。

JD-XiとXAには、アナログ音源とデジタル音源の両方が搭載されていますが、やはりアナログ音源を使うことが多いのですか?

三柴 – いえ、JDシリーズは音のよさが気に入っているので、特に「アナログ音源を使ってやろう」という意識はないんですよ。そういう意味だと、JD-Xiにはドラム・キットも入っているじゃないですか。「Borscht」では、僕がJD-XiのJazz Kitを鍵盤で手弾きして、そのリズムに合わせてClaraがエレピを“せーの!”で演奏したんです。そのあと、FA-06のオルガンを入れました。

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