ーー 最新アルバム『サイコブレイク』は、どのようなイメージで制作したのですか?
ADAM at – まず入れたい曲があって、そこから前後を膨らませていくように作っていきました。その1曲というのが、タイトル曲にもなっている「サイコブレイク」です。ADAM atって、ジャンル的には“ジャズ”にカテゴライズされることが多いですが、この曲自体は、ジャズとはまったく違うテイストなので、「なぜこの曲が入っているのか?」とならないように、さらに違ったジャンルの曲を入れたりと、トータル的に考えながら作ったアルバムなんです。確かに「サイコブレイク」って、アルバムの中で特殊な曲ではあると思うんですが、それに寄せた曲を他にも作ってしまうと、「サイコブレイク」の特殊感がなくなってしまうので、そのバランスを考えながら、前後の曲を考えていきました。
ーー アルバムの核となる「サイコブレイク」が完成したのは、いつ頃ですか?
ADAM at – 2017年5月くらいだったと思います。昨年の1月に前作『Echo Night』を作って、そのリリース・ツアー中に作ったんです。
ーー では、その“特殊な曲”である「サイコブレイク」を活かすために、次にポイントとなった曲を挙げると?
ADAM at – 「エウロパ」ですね。静かなバラードで、「サイコブレイク」の激しさと、「エウロパ」の繊細さが、曲調としていいコントラストになったと思います。同時に、ピアノの見せ方、表現としても、上手く対比を付けられたと思っていて。そもそも「サイコブレイク」は、ピアノをカッコよくみせたいと思って作った曲なんですよ。僕は、幼少期からピアノを習っていたんですが、小さい頃って、ピアノ教室は女の子が多いから、男の子がピアノを弾いていると、何となく“カッコ悪い”って思われがちじゃないですか。しかも中高生になって周りがバンドを始めるようになると、みんなギターやベースを弾きたがって、キーボードやりたがる男子はいない。だいたい、イケメンのモテるヤツがボーカルかギターをやって、“通”っぽいのがベースを弾いて、ドラムはちょっと、お笑い担当だったりして(笑)。
ーー あははは(笑)。何となく、分かるような気がします(笑)。
ADAM at – でもキーボードって、笑いも出てこないような感じなわけですよ(苦笑)。だから、ピアノで思いっきりロックをやって、それでセンター・ポジションに立てたら、すごくカッコいいんじゃないかっていう、そんなイメージで「サイコブレイク」を作ったんです。ただ、ピアノのよさってそれだけではないので、対極的に、音色や繊細な響きの素晴らしさを際立たせようということで「エウロパ」を作りました。
ーー なるほど。だからかもしれませんが、新作を聴いて、単に「ピアニストがメインのアルバムです」というピアノの主張の仕方ではなく、時に激しく、時には静かに、まるでピアノが歌っているかのように表現されている作品だと感じました。
ADAM at – それは嬉しいです。僕はいつも、「この曲は、あの人っぽいな」と感じてもらいたいと思いながら曲を作っているんです。ボーカルの方って、声質や歌い方で、いくら曲調が変わっても「あの人の曲だ」って分かるじゃないですか。でも、インスト・バンドだと、ピアノはもちろん、ギターやサックスでも、そのプレイヤーの個性をどこで見せるかが重要だと思っていて。そのために、僕の場合は、まず聴き手の頭に入ってくるメロディであること、そして好きなリズム・パターンと、好きなコード進行、この3要素が合わせて、曲のタイトルやアーティスト名が分からなくても、「ADAM atっぽいな」って思ってもらいたいと考えているんです。たとえばテレビのBGMで、それこそ桑田佳祐さんの歌が流れたら、曲を知らなくても、「あっ、桑田さんの曲だ」って思うじゃないですか。それと同じように、「ADAM atっぽいな」って思ってもらいたい。そういう意味では、確かに歌うような感覚で、メロディを作っていると思います。
ーー では、具体的にどのように曲を作っているのか、その方法を教えてください。
ADAM at – 自宅にいる時に、特に練習というわけでもなく、デタラメにピアノを弾くんです。その際に、デジタル・ピアノだからこそできる方法ですが、目隠しをして、適当にトランスポーズ(移調)をするんですよ。つまり、キーを変える。そうした状態で弾くと、たとえ自分の手癖でも、普段は思い浮ばないフレーズが生まれてきたりするんです。それで、「あっ、今のいいな」と思ったら、そのフレーズを記憶して、キーを元に戻してから、「さて、今のフレーズ、どう弾けばいいんだ?」って探していくわけです(笑)。ここ2、3年は、こうして曲を作ることが多いですね。
ーー それはとても面白いアイデアですね。
ADAM at – 僕って、曲を作りやすいキーが“E”なんです。そうすると、どうしてもキーが“E”の曲に偏ってしまうし、リズム・パターンも好きなものを使いがちなので、そのままだと、結局、似たような曲ばかりになってしまうんです。それを避けるために、たとえ手癖であっても、想像の範囲では考えつかないようなフレーズを生み出せるように、最近は、この手法で曲を作っています。そうやって作った簡単なデモをメンバーに投げて、“餅は餅屋スタイル”で、各パートをそれぞれのメンバーにアレンジしてもらいます。
ーー まず、強いメロディを作って、そこからバンドでアレンジしていく、と。だからこそ、ソロ・アーティストの作品という色合いよりも、とてもバンド感の強い作品に仕上がっているわけですね。
ADAM at – バンドサウンドにこだわっている面は強いですね。僕はADAM atをライブバンドだと思っていますから。
ーー 今回の新譜制作からRD-2000を使い始めたそうですが、レコーディングでは、曲によってはグランドピアノもプレイしたのですか?
ADAM at – いえ、すべてRD-2000の、しかも先のアップデート(バージョン1.50)で追加された音色『at Stage』だけを使ってレコーディングしました。
ーー 『at Stage』は、まさにADAM atさんがプロデュースした最新音色ですね。この音色は、どのようにして生み出したのですか?
ADAM at – 僕がバンドサウンドにこだわるのは、ライブ感を出したいからなんですが、僕らのバンドってギターが2本いて、ベース、ドラムもいるので、その中で、クラシック的な“きれいなピアノ音色”だと、バンドの大音量に負けちゃうし、他のパートと音がぶつかってしまう部分があるんです。RD-2000を使い始めた当初は、『S01:Stage Grand』が気に入って使っていたんですが、ソロで弾くと素晴らしい響きだけど、自分のバンドの中では他の楽器が強くて、高音域のメロディが少し聴き取りづらいんです。だからと言ってPAさんに上げてもらうと、今度は高音が出すぎて硬くなってしまう。そういったことを、ローランドの笹森さん(RD-2000開発スタッフ)に相談して、高音域が硬くならずに、でも通る音に調整してもらったのが『at Stage』なんです。
ADAM at – 低音域に関しても、一般的なジャズのプレイヤーって、中低音域でルートを抜いた和音を弾くんですが、僕は左手で、思いっきりもっと下の音域を弾くんです。それは、中低音域のコードはギターが弾いてくれるからなんですが、その下を弾くと、今度はベースとぶつかってしまう。ベースって、バンドのグルーヴを作ってくれていますから、その帯域ってすごく重要で、バンドメンバーがよく「(モニターの)ピアノのローを下げて欲しい」と言っていたんです。もちろん、客席でも低音が重なって過剰にでてしまう。『at Stage』では、そこも微調整してもらいました。
笹森 – 最初にADAM atさんからご相談いただいた時、ADAM atのバンドサウンドに対して、ちょっと窮屈なのかなと感じたんです。もっと、こういったインスト・バンドの中でのびのびとプレイできる音色を新しく作りたいと考えて、何度も現場に足を運んで、他のパートのオイシイ部分と、ここはピアノにいて欲しい部分というのを身体で覚えて、それを“ピアノデザイナー”などのV-Pianoテクノロジーを使い、1音ずつのキャラクターを見定めて、何度も試行錯誤を繰り返しながら音色を調整していきました。特に、響き、音のキャラクター、音の立ち方、倍音の伸び具合を重視しながら、細かく作り込んでいったんです。
ADAM at – しかも、僕だけでなく、バンドメンバーの意見も汲み取っていただけて、おかげで、バンドサウンドに負けずに、かつ見事にバンドサウンドと融合する音色が作れたと思っています。
笹森 – ADAM atさんはもちろん、メンバーのみなさんも本当に素晴らしくて、2つの視点を持っていることに驚きました。ひとつは、ピアノの音を成り立たせるという視点で、自分たちはどう演奏したいというお話しをしてくれるんです。そしてもうひとつ、それを成り立たせるために、ステージ上でモニターする音として、ピアノの音がどうあって欲しいと意見を言ってくださって。そこは、とても勉強になりました。
ーー そうした音色面に加えて、機能面や演奏性で、RD-2000の気に入った点があれば教えてください。
ADAM at – たとえば曲中で一ヶ所だけ、あるいは1音だけにディレイをかけたりといったことが、とてもやりやすいですよね。つまり、レコーディングで作り込んだ音源をライブでも再現しやすい。実際に新譜でも、「Hang New’s High」「エウロパ」「シエノとレイン20形」の3曲で、そうしたプレイをしています。ちなみに「シエノとレイン20形」は、昨年出したミニ・アルバムにも収録している曲ですが、今回、『at Stage』の音色で再録しました。そして、RD-2000は鍵盤がとてもいい。僕はゴーストノート感がとても好きで、よく暇な時に、音が鳴るか鳴らないかのギリギリのところまで鍵盤を押して、「セーフ!」とかって遊んでいるんですが(笑)、そのフィーリングがとてもいいですし、象牙調仕上げで、指に優しい点はとても嬉しいですね。本当に弾きやすい鍵盤だと思います。あと、ステージではスプリット機能もよく使っていて、音域を分けてピアノ音色とシンセ音色を弾いたりもするんですが、そのバランスをスライダーですぐに調整できたりと、とても使いやすいです。まだまだRD-2000の実力を使いこなせていない部分も多いですが、少なくとも新譜では、『at Stage』の1音色だけで、すべてのピアノを演奏したのは事実ですから、『at Stage』は、どんなジャンルでも通用する音色だと思っています。
ーー さらにADAM atさんは、RD-700GXの音色が出るエクスパンション・ボードもお試しになったそうですね。
ADAM at – はい。RD-700GXのピアノ音色『ExpressivGrd(RD-EXP04収録/詳しくはAxialを参照)』はすごく気に入りました。ソロにはとてもいいと思います。そもそも、いろんなキーボーディストの方がRD-700GXを気に入っていて、今でも使っている方が多いですから。渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)さんも、この話に飛びついてきて(笑)。
笹森 – RD-2000に搭載されている拡張音色スロット(EXP)の仕組みを利用すれば、初代RD-1000から、すべてのRDシリーズのサウンドを選んで演奏できるようになります。ときどき、「昔の機種の音色は必要なのか?」というご意見もいただきますが、同じ曲でも、音色が変わると、曲の雰囲気って随分変わってしまうんですね。つまり、その時代、そのアーティスト、その曲に合った音色があるわけで、RD-2000ではこれまで30年に渡る歴史を振り返って時代時代の音色を使えるようにしたかったのです。それと同時に、ADAM atさんのように、これまでのRDシリーズに馴染みがない方に弾いていただけることで、『at Stage』のように、また新しい音色を生み出すことにもつながってくる。そうした歴史が重なっていくことが、楽器として素晴らしいことですし、RDシリーズとして進化を続けていく事になります。そういう意味でも『at Stage』は、RDシリーズの歴史に、ひとつのページを加えてくださったと思っています。
ーー インタビューの冒頭で、幼少期からピアノを習い始めたとおっしゃっていましたが、何歳くらいからピアノを弾き始めたのですか?
ADAM at – 5歳から、クラシックピアノの教室に通って、好きでもない曲を延々と弾かされていました(笑)。
ーー ということは、自分の意思ではなく?(笑)
ADAM at – はい。親に言われるがままに(笑)。結局、高校生の頃まで通っていましたが、クラシックピアノは中学1、2年生の頃でやめて、それ以降は、好きな曲を弾きたいということで、ポップスを弾いていました。まぁ、今になってみると、ちゃんとクラシックピアノを練習しておけばよかったなって思ってますけど(笑)。
ーー そうした中で、ジャズとはどのように出会ったのですか?
ADAM at – 僕は、ジャズがとにかく嫌いだったんです(笑)。父がジャズ大好き人間だったので、僕が嫌いになったっていう(笑)。それが、SOIL&”PIMP”SESSIONSに出会って、「なんてカッコいいんだ!」って。そこから、スペアザ(SPECIAL OTHERS)も聴くようになって、いつかこういう音楽ができればいいなって思ったんです。ただその時は、具体的には何も考えてなかったんですが、ある日、ADAM atを始めようと思った時に、SOILやスペアザみたいなインストをやってみようと始めたんです。
ーー 間接的にジャズの影響を受けつつ、いろんな音楽に触れていたわけですね。
ADAM at – その中でも、当時僕はメタルが好きだったんですよ。“重量感こそ正義”みたいな(笑)。ピアノの重低音域って、基本的にはあまり使わないじゃないですか。でも、この“悪(ワル)”な響きが、僕はたまらなくて。それで「この音が成立するのはメタルだな」って思って(笑)。
ーー それで「サイコブレイク」が生まれんですね! そういったお話を聞くと、アルバムの深みも増しますし、改めて、本当にいろんなピアノの響きが凝縮されたアルバムだなと感じます。
ADAM at – ありがとうございます。ピアノの音って、たぶん「嫌いだ!」っていう人は、ほとんどいないと思うんですよ。物心ついた時から多くの人が耳にして。「最初に聴いた楽器はメタルギターだ」っていう人は、あんまりいないだろうし(笑)。だからピアノって、実はたくさんの人に馴染みのある楽器なのに、とはいえみなさん、なかなか弾くところまでは至らない。習うことはあって、続けるには至らない。それは、楽しさがわからないからだと思うんです。あるいは、楽しさを教えきれていないのかもしれません。
ーー 確かにピアノ教育に、そうした側面があることは否めませんね。
ADAM at – ピアノ教室で習うクラシック曲って、ある意味で「懐石料理」に近いと思うんですよ。あの美味しさって、大人にならないとなかなかわからない。ジャズにもその傾向があって、僕の中では「春菊」なんです(笑)。
ーー ああ、その例え、すごくよくわかります(笑)。
ADAM at – だから、「アンパンマンのマーチ」だとか、子供に馴染みのある曲から練習が始められたら、もっとピアノが好きになるんじゃないかなって思っているんですよ。僕自身、嫌々弾いていたピアノが好きになったのも、ビートルズが好きになって、父が買ってくれたビートルズのピアノ譜を弾いたことからなんです。曲が頭の中に入っているわけですから、やっぱり好きな曲が弾けると楽しいし、弾きたいって思うじゃないですか。だから、小さいお子さんは、「チューリップ」でもいいので、知っている曲から始めて、その間に、たまに練習曲としてクラシック曲を弾くくらいのバランスでもいいんじゃないかって思うんです。
ーー そうやってピアノを弾き続けてきた今、改めて振り返って、やってよかったと思うような練習方法はありますか?
ADAM at – 練習方法ではないんですが、僕はバンドが好きだったということもあって、ピアノ譜ではなく、バンドスコアを買って、それを弾いていたんです。しかも、キーボード・パートではなく、ボーカル(メロディ)やギター・ソロを弾いて、ベースは左手で弾いて。それを、当時はシンセサイザーを使っていろんなパートを弾いて、ニヤニヤしてたんですね(笑)。先ほどの話につながりますが、好きなフレーズって、どんなに難しくても弾きたくなるし、弾けるようになるまで練習するんです。基礎練習って、本当に大事なんですけど、でも基礎だけだと楽しくない。「病院食」と同じで。
ーー 健康にはいいけど、美味しいものじゃないですもんね。
ADAM at – いくら食べても幸せにはならないんです。だからと言って、美味しい物だけ食べていると、身体にはよろしくない。そう思った時に基礎練習すればよくて。だけど現実は、逆なんですよね。「ここまで基礎が身についたから、好きな曲を弾いていいですよ」って。僕は、「好きな曲を弾いて、弾けなかったら基礎練習をしましょう」という考え方の方がいいんじゃないかって思っています。僕は去年、公式のピアノ譜を出版したんですが、あの楽譜も、「僕はこう弾いています」というものであって、あれが必ずしもみなさんにとって「正解」であるとは限らない。弾いてくれた方、それぞれの演奏が「正解」なんです。だから、とにかく楽しくピアノを弾いて欲しいと思っています。楽しくなきゃ意味がないですから。
RD-2000
RD-2000は、2つの独立したサウンド・エンジン、プレミアム・アクション、そして高度なコントロール機能を融合して誕生した、次世代ステージ・ピアノ。ライブやレコーディングで比類なきパフォーマンスを実現します。業界標準”RD”は、今、新たな次元へ。
RD-2000 システム・プログラム (Ver.1.50)
インタビューにも登場した音色『at Stage』が追加されたRD-2000のアップデータ。
PROFILE
2017年タワーレコード・ジャズ・セールスで邦人一位となった前作アルバム『Echo Night』から1年半振りのフル・アルバムをリリースする話題のピアノ・インストゥルメンタル・ユニット、ADAM at。リズム・セクションに固定メンバー化しつつある、JABBERLOOPのベーシスト永田雄樹、TRI4THのドラマー伊藤隆郎を迎えた鉄壁のアンサンブルで、おしゃれなポップ・チューンからラウドなロック・チューンまで披露する。5/9より絶賛発売中。
LIVE SCHEDULE
<サイコブレイクツアー2018>
9月15日(土) 愛知・名古屋CLUB QUATTRO
9月22日(土) 神奈川・横浜F.A.D
10月21日(日) 宮城・仙台enn 2nd
10月27日(土) 北海道・札幌BESSIE HALL
11月10日(土) 福岡・福岡INSA
11月11日(日) 広島・広島Cave-Be
12月08日(土) 静岡・浜松窓枠
12月15日(土) 大阪・心斎橋JANUS
12月24日(月・祝) 東京・恵比寿LIQUIDROOM