REBECCAの楽曲はおおむねローランドで支えられている
ーー メジャーデビュー40周年を迎えたREBECCAの7年ぶりとなるライブツアー<REBECCA NOSTALGIC NEW WORLD TOUR 2024>も、東京ガーデンシアターでの追加公演(10月15日)を残すのみとなりました。
現状で、今回のツアーを振り返っていかがですか?
土橋 – 2年前にビルボード・ツアー<REBECCA Billboard Live 15th Anniversary Premium Live>を行っていて、その時は東京と横浜、大阪で7日間くらいでしたけど、結構いいグルーヴでバンドサウンドを構築できたんですよ。だから、本数が少なかったのがもったいないという感覚があって。
しかも、2年経っているけど、メンバーのみんなもビルボード・ツアーの感じを覚えていたので、じゃあ、あの時のセットリストを膨らませようということで、2年前の発展形というイメージでセットリストを組んでいきました。
ーー実際にツアーを拝見して、手弾きメインでシンセを生演奏する土橋さんのプレイスタイルに魅了されました。
土橋 – “80’s”な感じだったでしょ? しかも“ザ・ローランド”っていう感じのサウンドで。REBECCAの楽曲はおおむねローランドで支えられているところがあって、ローランドのシンセでないとライブが成り立たないという側面があるんですよ。多分、メンバーもそうしたサウンドに慣れていると思う。だって「MOON」のイントロは、「FANTASIA(※80年代にD-50で一世を風靡したプリセット音色)」じゃないと絶対にダメだし。
ーー 興味深かったのが、だからと言ってノスタルジックにD-50やJUPITER-8を使うのではなく、最新のローランド・シンセで現代的なサウンドを鳴らしながら、それがちゃんと往年のREBECCAを彷彿とさせる音になっている点でした。
土橋 – 自分でもそう思いますし、それを現代の最新シンセでやるっていうのがポイントです。だからステージ上でも、リアルタイムでボタンを押して音色を切り替えたり、すべてを手弾きしたりと、やってることは40年前と同じなんだけど、鳴らしているのは最新のサウンド。そこが僕のやりたい“New 80’s”であって、だからこそ“NOSTALGIC NEW WORLD”でもあって。
ーー まさにツアー・タイトルを体現されていたわけですね。
土橋 – だからこそ今回は、例えばビンテージのJUPITER-8ではなく、JUPITER-Xを使うという風に考えたんです。
新しいFANTOM 6 EXはオルガンの音がすごく良くなった
ーー メインでプレイされていたのは、FANTOM 6 EXとJUNO-Xですか?
土橋 – そうです。JUNO-Xで使っている音色はほとんどがXV(-5080)で、FANTOM 6 EXに関しては、ウェーブテーブル・オシレーター(Model Expansion n/zyme)のエグい音も使っています。新曲「アシデケトバセ」のパッドもウェーブテーブルだから、今までのFANTOMの音とは全然違うオシレーターを鳴らしている曲もあります。これらJUNO-XとFANTOM 6 EXをメインに据えて、SYSYTEM-8とJUPITERはXシリーズを組み合わせて。アナログっぽいリードを弾くために、当初はGAIA 2も考えたんですけど、今回はアナログシンセを使うことにして、9月28日から始まった宇都宮隆さんのツアー<Tour 2024 U_WAVE;Mix>で、GAIA 2を使うことにしたんです。
ーー REBECCAのステージではFANTOM 6 EXのパッドも活用されていましたね。
土橋 – サンプラーとして使いました。例えば、「MONOTONE BOY」のNOKKOの声やUFOの音、あとはオケヒットのようなワンショット・サウンドとか。そういった音って、やはりパッドを手で叩いて鳴らさないと生演奏のタイミングが合わないから。それにパフォーマンスとしてもね。
ーー SYSTEM-8ではどのような音色を?
土橋 – Plug-Out音源としてJUPITER-8のマッピングで使っているので、アナログ・リード系のソロを弾いたり、パッド系を鳴らしています。ピアノなどのPCM音色系はFANTOM 6 EX。ただ、新しいFANTOM 6 EXはオルガンの音がすごく良くなったから、オルガンとピアノが出てくる曲だと、FANTOM 6 EXでオルガンを弾いて、ピアノはJUNO-Xという風にプレイしています。
REBECCAの曲って、一曲を通してピアノを弾くようなスタイルではないし、個人的にダンパーペダルがあまり好きではないので、どちらかと言うと置きたくなくて。なので、FANTOM 6 EX側にはダンパーペダルを置いてないんです。
ーー 確かに、ピアノが入っていたとしても全編入っているわけではなく、印象的なフレーズで出てくることが多いですよね。
土橋 – 「RASPBERRY DREAM」のイントロとかね。あの曲はピアノが欠かせない。だけど、FANTOM 6 EXはオルガンで使いたいから、じゃあイントロのピアノはJUNO-Xで弾こうとか、そういう風に、ピアノは曲によって、FANTOM 6 EXとJUNO-Xで自然に割り振っていきました。
昔から継承するローランドのイメージと最新機種とを上手く組み合わせられた
ーー FANTOM 6 EXの左側に配置されていたJUPITER-Xは、SE的な使い方ですか?
土橋 – 曲間のSEっぽいソロとかで思いっきり弾いています。本当は、FANTOM 6 EXと同時に弾こうとすると、配置的にどうしてもJUPITER-Xは左手に限定されてしまうから、なかなか難しいところもあったんですが、JUPITER-Xはこの位置にあった方が視覚的にもインパクトがあるし。それに今回のツアーでは、JUPITER-Xは弾きまくると言うよりも、存在感を示すような使い方をしたので、こういうレイアウトになりました。「CHEAP HIPPIES」が始まる前とか、スクリーンに映し出される映像に合わせてフィルターをいじりながら弾いたりして。そういうSE的な役割でもJUPITER-Xを使いました。
そういうパフォーマンス性も考えると、やっぱりJUPITER-Xはこのポジションじゃないとダメなんですよ。2015年のREBECCA再結成ライブではJUPITER-8を使いました。スタッフやローディに、「土橋さんと言えば、JUPITER-8がないとダメでしょ」って言われて。僕としては「えっ、そうなの?」って感じだったんだけど(笑)、それとJD-Xaや当時のFAを使いました。だけどビンテージだと、現実的に使い勝手がかなり大変で。それで2017年のツアーでSYSTEM-8と入れ替えて、その時のリードはJD-Xa。そして今回、JUPITER-Xで“NOSTALGIC NEW WORLD”を表現して。そうやってすべてトータル的に、昔から継承しているローランドのイメージと新しいハードシンセとを上手く組み合わせたセットを組めたかなと思っています。
でも、すごく狙ってそうしたと言うよりも、僕がローランド好きだから、自然とこうなったという部分も大きいんですけどね(笑)。
ーー 本番前にステージ機材の撮影をさせていただくまで、ハードシンセ以外に、外部音源も使われているのかと思っていました。
土橋 -確かに世の中的には、今はそういうスタイルも多いですよね。だけどREBECCAのライブで、例えばSYSTEM-8でソフトシンセを鳴らしたって何の意味もないわけです。それは絶対に違う、やっぱりハードシンセを弾かないと。
ツアーでは、自分に染み付いているものをいかに今風に料理するかを考えた
ーー ステージを拝見して、改めて「シンセってプレイする楽器なんだ」という、その魅力、カッコよさを再認識しました。
土橋 – そうですね。正しい……というか、ハードシンセ本来の使い方ですよね。もちろん、シーケンスを鳴らす曲もありますが、基本的にはシンク(同期)のない曲が多いので。「London Boy」も「真夏の雨」も全部手弾き。REBECCAの曲って、基本的にやっていることはシンプルなんですよ。それをいかにカッコよくやるか。80年代当時から、生演奏でやっている曲が60%、シーケンスが40%くらいの割合なんです。生演奏のグルーヴを大切に手弾きしながら、シーケンスを使う曲もある、というような感じ。バンドで、「この曲はシーケンスを使わない方がいい」と話したり、「シーケンスを使って、その上でグルーヴしよう」というスタイルも、今も昔もまったく変わらないですね。
ーー 40年の間に、世の中の音楽制作の手法やライブ・システムは大きく変わったと思いますが、今、当時と変わらないREBECCAスタイルでライブを行って、懐かしさのようなものを感じたりもするのでしょうか?
土橋 – いや、そこは完全に自然体ですね。デビュー当時から40年の時間が経ったと言っても、結局、自分の中ではずっと存在し続けてきたものだし、潜在的に自分に染みついている部分でもあるので。しかも、自分が作った曲じゃないですか。人が作ったものを演奏するというスタイルではないので、そもそも自分が出来ることしかやっていないわけですから。
ーー REBECCAの音楽は、土橋さんの一部であり、内包されているものだ、と。
土橋 – その自分に染み付いているものを、いかに今風に料理するか、そこは考えました。
でも、だからと言ってすべてをデータにしてライブをやるようなことはしない。今でもほとんど手弾きだし、曲中にボタンを押してパッチも切り替えるし。何かのライブで一度、MIDIのプログラムチェンジでパッチを切り替えるシステムを組んだことがあって。でも結局、ちゃんと切り替わるかどうか、ずっとシンセを見ちゃって。「よし、変わった!」って。だったら「自分でボタン押せよ!」ってことじゃないですか。 もちろん、ツアーを何本もやればボタンを押し間違えることもあるけど(笑)、でもそこも含めて「ライブ」だと思っているので、楽しんでいますよ。
REBECCAの曲は音の隙間、空間が特徴的。だから楽器の個性も重要になる
ーー REBECCAの楽曲では、シンセがギターとハモったり、ユニゾンのフレーズが多いですよね。その際、シンセの音作りでギターとのマッチングはどのくらい意識しているのでしょうか?
土橋 – いや、そこはあまり考えてないですね。REBECCAの曲って、確かにキーボードとギターがツインでハモるフレーズが昔から割と多くて。そこが特徴になっている側面もあると思います。例えば、「Cotton Time」や「CHEAP HIPPIES」とか、結構そういう曲が多いんですよ。だけど、お互いに強力な音で主張し合えばいいと思ってるので、混ざり合うように音を作るといったようなことは、特に考えていないんです。
ーー だからこそ生まれるシンセとギターの融合感、あるいは分離感も、REBECCAサウンドの個性になっているんですね。
土橋 – REBECCAって、基本的にリズムとボーカルのバンドだと思うんですよ。そこにベースがボトムを支えて、キーボードとギターが乗っかるという感じなので、言ってしまえば音の隙間が多いんです。スカスカと言うか、あまり分厚くない。でも今って、もう何が鳴ってるかわからないくらい、サウンドがぶ厚くて隙間のない音楽が多いじゃないですか。そのグジャッとしたところがカッコいいというのもわかるし、それが今風な音なんだろうけど、誤解を恐れずに言えば、例えばK-POPとかって、すごく音はスカスカなのに、めちゃくちゃカッコいいじゃないですか。まあ、それとは違うんだけど、REBECCAの曲っていうのも、音の隙間、空間が特徴的で。ドラムとパーカッションのグルーヴにNOKKOの強力なボーカルが乗るっていう基軸がまずあって。だから、一般的なギターバンドのように、ギターとボーカルでガーンと持っていく音楽ではないんです。やっぱり、リズム隊とボーカルのバンド。それは昔からそうですね。
ーー なるほど。だからこそ、各パートのフレーズがきちんと聴き手に伝わってくるし、キーボードのバッキングにしても、黒子的な脇役ではなく、ちゃんと存在感をもって聴こえてくるんですね。
土橋 – そうなると、楽器の個性も重要になってくるわけで、紛れもなくREBECCAの音楽はローランド・サウンドが定着しちゃっている。昔は他のメーカーのシンセも使ってましたけど、いろいろと長年やっていくうちに、ローランドが大半を占めるようになっていったわけです。
完成されたローランド・サウンドで、より完成度の高いREBECCAサウンドを構築していくというスタイル
ーー ローランドのサウンド自体も、新モデルが誕生すると、進化したり、新しいサウンドが登場したりしますよね。だけれども、REBECCAの音楽と同じように、進化し、新しくなりつつも、変わらずに脈々と継承している部分というのをお感じになりますか?
土橋 – 僕自身の中で完成されているローランド・サウンドによって、より完成度の高いREBECCAサウンドを構築していくというスタイルが自分の中で定着しつつあります。
ローランドのサウンドも、脈々と続く歴史、時代の中で作られてきたんだなという感覚がありますね。やっぱり、最初からこうだったわけではないですから。80年代に作った「真夏の雨」のシンセパッドは、JUPITER-8の音以外には考えられない。だけど、今回のツアーで実際に鳴らしているのはJUPITER-8ではなくて、それでもこの曲が成り立っているのは、やっぱりJUPITER-8を継承するローランドの音だからなんだなと思います。オブリの音も、SYSTEM-8で弾きましたけど、あれもローランドの音だなってすごく感じるし。これを、「80年代に作った曲だから」と、例えば80年代の他社のアナログシンセで弾いても、それはやっぱり「違うな」と感じるわけです。
ーー 80年代当時、音色ありきでフレーズを作ったりもしていたのですか?
土橋 – いや、そうとも限らないけど、でも例えば「WILD EYES」のシーケンスとかは、当時、JUNO-106をシーケンサーで走らせながら作りました。そう考えると、REBECCAのシーケンス音はローランドで鳴らして作ることが多かったですね。MKS-80とか。
今までのREBECCAにないものと、まさにREBECCAというべき2曲の新曲
ーー 貴重なエピソードを伺ったところで、ツアーでも披露され、10月16日にリリースされる最新曲「アシデケトバセ」「Daisy Chain」の2曲についても話を聞かせてください。
土橋 – 「アシデケトバセ」は、自分的にはあまりキーボードを意識せずにメンバー全員でアレンジした曲なんです。後からピアノで味付けをしていって。だから、どちらかというとプログレにも近いような、今までのREBECCAにない曲を作れました。
一方の「Daisy Chain」は、サウンド、構成ともに、まさにREBECCA。サビ前のキラキラ系はローランド・サウンドだし、サビのシンセブラスもローランド。あえてそれを狙いました。と言うのは、今ってみんな、飽きてしまうと1曲を丸々聴かずに、イントロや間奏をスキップで飛ばすじゃないですか。挙句の果てに、作る方も1曲が2分とか3分と短くなって。個人的にはそういう世の中の流れと真逆で、おもしろいなと思ったんです。REBECCAの曲は基本的にちゃんとイントロがあって、Aメロ、Bメロ、サビときて、シンセ・ソロかギター・ソロがあって。「アシデケトバセ」は、最初の8小節はドラムのビートだけで、そこからイントロが始まる。歌に入るまでものすごく長いから、普通ならスキップされる可能性は高いです(笑)。
でも、よく考えてみれば、REBECCAファンのみんなは、ちゃんと飛ばさず、あの緊張感のあるビートを聴いてくれるはずです。この2曲は、今回のツアーにおける名刺代わりとして作ったわけだから、ああいう長いイントロがあっても全然問題ないわけで。
ーー むしろ「このイントロがないと」と思わせるような楽曲ですよね。
土橋 – そう。そういうファンとの信頼関係のうえで成り立っている曲だし、そういう意識もありました。
ーー レコーディングに関してもFANTOM 6 EXなどを使ったのですか?
土橋 – そうですね。「アシデケトバセ」のピアノはFANTOM 6 EXで、プラス、レコーディングに関してはZENOLOGYも多用しています。あと、「Daisy Chain」のシンセベースはMKS-80を使いました。ZENOLOGYとかでもいろいろやったんですけど、どうしてもあの感じが欲しくて、アウトボードのMKS-80を引っ張り出してきて。何度もチューニングをして、でもアナログだからどうしてもVCOがすれ違うタイミングで音が細くなるんです。なので、一度DAWに録って、音が太い部分だけをエディットしてループさせたりと、アナログとデジタルのハイブリットで作ったシンセベースです。
予期せぬ音が作れるGAIA 2は音の世界を広げてくれる
新曲のレコーディング、そしてライブでも、ローランド・シンセを新旧織り交ぜてお使いいただいたんですね。
土橋 – いろんなプロジェクトでローランドを使っていますけど、一番使うのは、やっぱりREBECCAですね。特に今回のツアーでは、それを象徴するセットを組めたと思っています。
それもこれも、ローランドがハードシンセを作り続けてくれているからこそ。そういう意味では、GAIA 2も、すごく気に入っていて。
GAIA 2は、どういう点が気に入っているのですか?
土橋 – やっぱりウェーブテーブル・オシレーターが1基、バーチャル・アナログ・オシレーターが2基あるところです。例えば、リードやパッドを作る時も、まずバーチャル・アナログ・オシレーターで音を作って、そこに複雑な波形のウェーブテーブル・オシレーターを混ぜていくと、今までにない面白い音を作れるし、あとシェイプのモジュレーション・ツールで、思いもよらぬパッド・サウンドが作れたりして、そこがすごく楽しいです。そうやって予期せぬ音が作れるから、自分の中では(音の世界を)広げてくれる感覚があります。かなりエグイ音も出せるし。だから、例えばリングモジュレーションを駆使して鐘の音を作るとか、そういうリアリティのある音を作るタイプではないけど、そこがGAIAの精神を貫いていると言うか。37鍵盤というのも使いやすいし、しかもミニ鍵盤ではないという点が僕にはすごく大きくて。SEを鳴らすだけならミニ鍵盤でもいいけど、ライブで弾こうと思うと、やっぱり標準鍵盤でないと辛いですから。
宇都宮さんのツアーもとても楽しみにしています。では最後に、今回お話を伺ったREBECCAのツアーファイナル(追加公演)を楽しみにしている土橋さんファンにメッセージをお願いします。
土橋 – 自分としては、今のローランド・ハードシンセを使って、まさしく“NOSTALGIC NEW WORLD”なREBECCAサウンドを上手く構築できていると感じているので、そこをぜひ堪能してほしいです。僕個人の活動としては、宇都宮さんのツアー<Tour 2024 U_WAVE;Mix>がスタートしていますし、10月からは、僕が劇伴を担当しているTVアニメ『MFゴースト』2nd Season(TOKYO MX、アニマックスほかにて放送)の放送が始まって、自分自身もとても楽しみです。