AUDIX ARTIST/ENGINEER INTERVIEW #09 CUTT

独自技術による高品質と優れたコストパフォーマンスが特徴であるRoland Partner Brandのマイクブランド「AUDIX」、その魅力を多角的にお伝えするインプレッション・インタビューに、shameやORCAなどのバンドやプロジェクトでボーカル/ギター/作詞・作曲を務め、多方面で活躍中のCUTTさんが登場。声質や歌い方を踏まえたAUDIXマイクとの組み合わせや、音作りに生かすメリットについて深く語っていただきました。

A131は音楽的なオールラウンダー

#09CUTT

OM11はダイナミックマイクなのにレンジが広くて、聴かせたいものがしっかりと鳴る

まずは、普段マイクを使用するシチュエーションを教えてください。

CUTT:これまで、一番マイクの種類などを意識していたのは自宅録音だと思います。そんなにたくさんのマイクを使ってきたわけではないですが、“これがいいかな、あれがいいかな”と試してきた気がします。もう一つはライブですが、これまでライブの時ってPAさんが使い慣れたマイクとか、PAさんが“これ試してみる?”と持ってきてくださったりもしたので、ライブは歌い手主導じゃなくてPAさん主導のほうがいいのかなとこれまでは思っていました。

“これまでは”ということは、最近考え方が変化したのですか?

CUTT:そうですね。最近は弾き語りライブが増えたのですが、小規模なライブハウスとかカフェだと外音も自分で監修できるというか、逆にそこまで責任を持たなくちゃいけない。あと、最近はルーパーを使ってパフォーマンスすることが増えて、クリックを聴かなくちゃいけない事情もあったりして、小さい会場でもイヤモニを使うようになりました。すると自分の声がダイレクトに返ってくるので、外音という意味でも自分の耳に返ってくる音という意味でもマイクを意識するようになりました。

シチュエーションによって違うかもしれないですが、どのような要素をマイク選びで重視しますか?

CUTT:実は今回、数種類のAUDIXを使わせていただいて気付いたことがあって。基本的な趣味というか好みとしては、特性のあるものよりもフラットなマイクが好きです。

AUDIXを使って気付いたこととは?

CUTT:プレイアビリティと言うと変ですが、歌いやすさがマイクによって違うんだなとわかりました。具体的に言うと機種の話になるのですが、今回はダイナミックマイクだとOM3とOM6とOM11を使わせていただきました。実はOM3は事情があって家に持ち帰れなくて、結局OM3はあまり使えていないです(汗)。僕はもともとOM2を持っていたので、何となくの傾向として“OM3のキャラクターはOM2の良い版かな”という感じで理解したのですが、OM6を使った時にこれまでのマイクとは違った印象が良い意味であって。何かと言いますと、自分の声がそのまま入力されて増幅される。
自分の声があって、基音(原音)の一番低いところがあったとして、倍音が縦に伸びていくようなイメージ。偶数倍音・奇数倍音という言い方をすると、偶数倍音優位な、自分が鳴らしたい音程のピッチの音が、そのまま塔のように上まで伸びていくような印象で、これがすごく歌いやすいと思ったんです。“何で歌いやすいと思ったんだろう?”と自分なりに理屈付けて考えるに、普段自分の声って内耳を通して聴いているわけですよね。イヤモニを通して聴くと、もちろん内耳の音も聴こえてはくるのですが、ある程度の音量になると当然イヤモニの音が優位になる。外音と同じものが聴ける時に、内耳を通した普段自分が聴いている音に近い基音優位というか、自分が出している音程感がすごく聴こえてくるので歌いやすいし、逆に言うとピッチを外したらすぐに気付けるんです。
少し話が交錯しますが、OM11はさきほどの自分的なビジュアルイメージの“塔”で言うと、上から木みたいに広がるイメージ。だから派手というか、これまで使ってきた僕の好きなマイクに近いですね。エア感で言うと目立ったりするので、良い気分で歌わせてくれる。良い気分がゆえに、ピッチがズレていてもOM6に比べると気付き難い。これは僕の技術のせいだと思うのですが(笑)。“OM6めっちゃいいじゃん”と思って使っておりまして、ただ実際にライブで使ったのはOM11なんです。自分で外音を聴くと、その時のオケの感じも当然あると思うんですけど、OM11のほうが客観的にはいいので。でも本当はOM6のほうがプレイアビリティ的には歌いやすい、そういう面白さを感じました。

弾き語りだとOM11が有力でしょうか?

CUTT:OM6のキャラクターのほうが芯みたいな部分も立つと思うので、やかましい中でも抜けるのかもしれない。でも、その抜ける帯域がどこなのかですよね。もちろん、外音が少なければ少ないほど声の音作りの自由度が増すので、弾き語りだったらOM6も使うのかな。ただ、OM11はダイナミックマイクなのにレンジが広くて、聴かせたいものがしっかり鳴るのは捨て難い。僕、何でも現状に満足する人で、一定時間それを聴くとその良さを見つける癖があるので(笑)、どれでもいいっちゃいいんですけど、その中で見極めていくと、それぞれのキャラクターってこんなにあるんだなって今回気付きました。

1kHz付近から300Hzくらいまでのミッドの重要性に、今さらながらに気付かされました

今回の3機種をお使いになる前にOM2はご自身で購入されたんですね?

CUTT:そうですね。もう忘れてしまうぐらい昔で。正直に申しますと、単純に自分のマイクが欲しいと思って、どこにでもあるマイクと違うのをと思った時に目につきました(笑)。

いろいろなマイクがある中、AUDIXが目についたのはなぜですか?

CUTT:僕はアラニス・モリセットが好きで、たぶん雑誌でアラニス・モリセットの出ているAUDIXの宣伝を見て購入した覚えがあります。2000年代半ばぐらいだったかな。もちろんその時、他のマイクとシビアに比較したわけではないですが、当時はけっこう中音がやかましいバンドだったので、ハウリングに強いなって。

OM2はまだ現役ですか?

CUTT:現役です。今回、OM11、OM6、OM2と使ったのですが、“OM2はこの子でええ子やで”ってすごく感じましたし、音質のキャラクターもそんなにへたっていなかったというか、全然良かったのでビックリしました。OM6の不思議な魅力も面白かったです。最近、カラオケのようにピッチが出る練習アプリがあって、お家でピッチをちゃんと見るようにしているのですが、その時の正確性もOM6がいいです。僕、低い音程にきた時にピッチが曖昧になりやすいんですけど、そこがズレているのがわかるので修正しやすくなりました。なので、気持ち良く歌わせてくれるというよりか、ズレたのがわかるのでタメになりますね。で、これまで自分がそんなに重視していなかったところに気付かされた部分があって、それがAUDIXのキャラクターに通底するものだなって思ったんです。
それは何かと言うと、これまで自分の声とか制作するもの、すべてのものに対して500Hz近辺ってほぼ重視していなかったし、何だったら邪魔だと思っていました。あのへんの帯域を上げたからってあまり喜ばれないし、難しい帯域だと思っていたんですけど、OM6やOM11に通底する音飾だったり感覚的なところが大きく含まれますが、1kHz付近から下、300Hzくらいまでのミッドあたりの、ご飯で言うと旨味・出汁みたいなところの重要性に今さらながらに気付かされて。要するに、そのへんのキャラクターが通底してどの機種にもあるなと思ったのが、大きく気付かされたところの一つです。

今回お使いいただいた3つのマイク(A131、OM6、OM11)の総評をお願いします。

CUTT:A131はアコギを録る時に併用したんですけど、インプレッションで言うとナチュラルかつ音楽的に録れる音。今回、アコギを録る時にA131をボディ側に置いてPDX720をネック側に置く組み合わせだったり、その逆をやってみたんですけど、A131はアコギに関してもナチュラルに録れる。本来あるべきインプレッションとは違うのかもしれないけど、ちょっと元気に録れる感じがしたんです。これもAUDIXの500Hzの旨味に近いかもしれないけど、A131の場合はもうちょっと腰高、1kHz付近にキャラクターがあるような気がしました。感じたままに言うと、真ん中が元気のある感じに録れる。ドンシャリの逆みたいな。かと言ってモコっているわけじゃないんです。アコギのあとに歌でも使ってみたんですけど、歌は“ミドルが元気だな”という印象よりも“ナチュラルに録れる”という印象がありました。

創意工夫しながら実験する。それが新たなインスピレーションというか、活動の中でも良い経験につながっていきそうですね。

CUTT:本当にそうです。特に最近は空間オーディオも一般的になって、ミックスの中の定位の考え方も自分の中では変わってきていて。それこそ昔のステレオ録音が始まった頃、ザ・ビートルズみたいに“ドラムは全部左です”みたいな面白さもやりやすくなっているんじゃないかなと思う。そうなると、まさに今自分が作っている曲でも、“ここで全体がフランジングしながら右左に行くとか面白いな”とか考えはじめたり。定位感は最近興味が出たところだったので、アコギをマイク2本で録るのも面白かったです。

OM6、OM11、A131はどんなユーザーにオススメできそうですか?

CUTT:OM6は一番自分として驚きがあったし、スッと入ってきたところがあるので一度皆さんに試していただきたい(笑)。ピュアに自分の声が入っていく、アンプリファイされていく感じを体験してほしいですね。OM11は、外音で聴いてOM11を自分が選んだように“いいですよ”っていう感じがあります(笑)。OM6とOM11はどちらも試してみて絶対に違いが感じられると思う。
A131は“とにかくマイクが欲しいんだ”みたいな、迷った時に選んでも間違いのないマイクだと思います。僕は今までいろいろな取材を経験してきて、“音楽的な音がする”という表現が苦手だったんです。“そりゃ音楽だろ”と思っていたんですけど、僕もようやくその境地に来たのかもしれないですね(笑)。A131はオールラウンドではあるのですが、“音楽的なオールラウンダー”という気がします。あとは、チャーミングですね(笑)。マイクの形状に引っ張られるところがあって、A131は小さくてかわいいじゃないですか。だからチャーミングでした。

LARGE DIAPHRAGM STUDIO CONDENSER MICROPHONE

PROFILE

CUTT(カット)

X JAPANのギタリストhideに見出され、LEMONedレーベルよりバンドshameのギターボーカルとしてデビュー。哲学的な歌詞と独特の商法で注目を集める。その後ツインボーカルユニットORCAなど様々なプロジェクトを展開し、2016年バンドSPEED OF LIGHTSを結成。1st Album ”SUPERNOVA”はiTunes オルタナティブチャート1位を獲得した。ソロアーティストとしてはPCを駆使したループパフォーマンスを得意とし、2023年10月には自身4枚目となるソロアルバム「Fell in Love with Music」をリリースする。
 
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