AUDIX ARTIST/ENGINEER INTERVIEW #01 村田善行

独自技術による高品質と優れたコストパフォーマンスが特徴であるRoland Partner Brandのマイクブランド「AUDIX」、その魅力を多角的にお伝えするインプレッション・インタビュー。楽器関連の機材レビュワーとして第一線で活躍する村田善行氏に、ドラム演奏の収録での使用感を伺いました。

AUDIXのキャラクターは非常に音楽的

#01村田善行

ダイナミックマイクだけど余韻がある

まずはマイクとの関わりという部分で、普段はどんな楽器をマイクで録音していますか?

村田:僕は楽器屋の店員でありますが、それ以外にレビューや製品紹介が仕事であったり、自分のお店の楽器紹介の動画を撮ったりしているんです。主にはギターアンプとかベースアンプに立てるマイクを選んだり、あとはここ(代官山の某会場)もそうなんですけど、ライブハウスのアドバイザーとまではいかないのですが相談を受けることもあります。マイクについてエンジニアと話をしたり、いろいろなマイクをチェックしている感じですね。ここでは機材関係をPA的な視点じゃなくて、プレイヤー的な視点で楽器やマイクを揃えたりチョイスしています。

実際に現場でAUDIXのマイクを使っていただいていますね。

村田:そうですね。最初は東京音研(東京音響通信研究所)のエンジニアの方が、“これはすごく良い”とスネアのマイク用にi5を持って来て。僕は、エリック・クラプトンがツアーの時にアンプにi5を立てていたのを見ていて、その時は“AUDIXなんだ”くらいにしか思っていなかったんですけど、スネアにも良いんだと思って借りてギターアンプに立ててみたらすごく良くて。もちろんスネアにもばっちりだったので、今のドラムキットはバウンダリーマイク以外はAUDIXを入れています。

i5の良かった部分を具体的に教えてください。

村田:定番と言うと皆さん大手ブランドのマイクを挙げると思うのですが、個人的に欲しい帯域が録れないと思っていて。そのため、いわゆるリボンマイクを使って録っていたのですが、リボンマイクだとローレンジが広がりすぎて単体だと上手くいかない。定番のセッティングでそのマイクと組み合わせる方法もあるけれど、“ああこの感じね”みたいにすべて同じ音になっちゃうんです。1発で録りたいし混ぜたくないと思った時、そのマイクの対抗になるいろいろなダイナミックマイクを試したのですが、どれもあまり良くなくて。それを皆さんあとからEQで補正するのですが、僕は楽器屋ということもあるし、なるべく生の、アンプから出る音にこだわりたいなと思ってi5を立てたら素直な音で録れて。ベタッと張り付くような音じゃなくて、ダイナミックマイクだけど余韻がある感じ。あと、ヘッドが大きいからだと思うんですけど、グッと詰まった感じじゃなくて、すごくオープンな空気感で録れるのが良いなと思いました。

特にi5は楽器を選ばずに全般的に対応できる立ち位置のマイクです。

村田:そうですね。たぶんスネアにそのマイクを使うのは、いわゆる“タンッ”というアタックを録ってくれるからだと思うのですが、どうしてもそのアタック音にハイミットばかりが集中してしまう。要は音は立つんだけど余韻があまりない。i5には余韻とロー感があるので、そこがすごく良いと思っていて。僕はわりとヴィンテージ系のアンプを使いますが、古いアンプって特徴的な雑味とか余韻が多いので、そこがちゃんと録れるかどうかが重要なんです。ダイナミックのジリジリとしたところが録れるのに加えて、ジリジリだけじゃない余白の部分も録れるのが良いなと思いました。

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ドラムはi5以外のマイクも使われていますね。

村田:そうですね。ドラムは“ちょっとやってみようか”くらいの感じだったんですけど、タムのサイズごとにマイクのラインナップが揃っているんです。普通のマイクセットって、ダイナミック系、オーバーヘッド、あとはバスドラ用くらいしかないと思うんですけど、AUDIXはi5があって、フロア用やタム用、キック用がある。それぞれが同じ印象で、AUDIXはパッと置いただけでEQしなくていいし鳴っている音の雰囲気をそのまま録ることができます。特にタムの音はめちゃくちゃ良かったですね。

具体的にモデルで言うと?

村田:タムはD4です。あとはD2と、D6がキック用ですね。フロアとタムの音が抜群に良かったです。つまらないトンッていうアタックだけじゃなくて、その余韻や余白が入る。ドラマーの方はイヤモニの環境が多いので、ジャッジがシリアスなんです。ギターの方みたいに自分のアンプも鳴っていて雰囲気で良い悪いじゃなく、ドラムの人は叩いた音が耳に返ってくるからだと思うんですけど、すっきりしているんだけど余韻がある。スタジオ向きかなと思ったんですけど、ライブでもすごく良くてコスパも高いなと。一度この会場の音をちゃんと決めたくて、その個性にすごく合っていました。
とにかく素直なところが良い。素直にもいろいろあると思うんですけど(笑)、僕の中ではAUDIXのマイクのほうが世間一般で言う素直な音よりも素直に聴こえるんですよね。たぶん皆さんは素直に録って、自分でEQして音の雰囲気を作りたいと思うんですけど、それが最低限で済むというか。楽器で言うと、ギターとかベースってどうしてもミッドレンジにしか音がいないので、全体の中でちゃんと音が分かれてくれればいいという感覚で皆さんだいたい余白の部分は切っちゃうのですが、僕は“その上に出ている倍音まで切らないでほしい”と思うんです。AUDIXの場合、ジリジリしないから削らなくても成立するというか。

余韻という部分では、AUDIXはダイアグラム自体にこだわりがあって、高い音圧で非常にクリアに再現性良く録れるところが推しているポイントなんです。

村田:そうですね。オーバーヘッドに使っているA133もコンデンサーマイクなのに強いんです。ギターアンプの前に立てても録れる。オーバーヘッドにも定番マイクがあるのですが、“スウィートスポットが狭くないですか?”と僕は客観的に思うので。そう言うと、エンジニアの方たちはやっぱり慣れているので“スネアとハイハットとオーバーヘッドはこれでいいんです”と言うんだけど、横で聴いている音とこっち(フロア)で聴く音が違ったりするんです。で、合いそうだなと思ってAUDIXを置かせてもらったら、エンジニアも“いいです、これでいきます”と言ってくれる。たぶんそういう余韻というか、空気感を録ってくれるから嫌じゃないんだろうなと(笑)。おべんちゃらじゃなくて、AUDIXは相当良かったですね。

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“いつもだったらこうする”という概念を取っ払えるかどうか

そもそもお仕事において、マイクはどういったところを基準に選ばれていますか?

村田:ミュージシャンであればだいたいの方向性があって、アメリカンミュージック路線なのか、ブリティッシュ路線なのか、J-POPみたいに癖のない感じで録りたいのか、それでイメージする音のレンジがあります。その中で、演奏している人がどういう音を出しているかがキーワードとしてあって、そこで使用するマイクを決めるのですが、“リボンマイクのほうがコクのある音だよね”とか、そういうのは当然あって。ただ、ギターの場合はどうしてもアンサンブルに入った時に聴かせたいレンジが狭いので、となると皆さんが“定番マイクでいいよ”っていうのはまさにそこで。要するに、その帯域がちゃんと録れれば成立するから安心感のある定番マイクになると思うんですけど、音作りを突き詰めていくと低域が足りないから“マイクを足して”とか“リボンも立てて”と言うんです。そうするとエンジニアの力量で位相の問題も出てくる。アーティストの出したい音をエンジニアが理解していないと、全然違う音になっちゃうんです。だから、エンジニアがいじりたくなっちゃう部分もあるんですよね。そこに対してストレスがあって、“余計なことしないで出ている音を録ってくれればいいのに”と。だから、ミュージシャンには“このマイクを使いなよ。これで録ってもらえば、よほど変な音じゃなければ活かされるはずだから”という言い方を僕はしています。ライブハウスでは調子が悪いマイクも多いから。それがすごく高価で扱いづらいものだとエンジニアも困ると思うのですが、i5だったら“全然いいんじゃない?”と思っていて。皆さんケーブルやエフェクターにはこだわるじゃないですか。だったら“何でマイクにはこだわらないの?”と(笑)。ステージ上で良い音が出ていればOK。でも、お客さんはその音で聴いていないよって。

プレイヤーがマイクを持つイメージってあまりないですよね。

村田:ベースもそうですよね。ベースアンプで音が違うはずなのに、“ベースはこのマイクで”って大体が言うんです。“待ってよ、そんな音じゃないよ”と思うわけですよね。そういうストレスはミュージシャンも抱えているはずだけど、“じゃあどうするの?”と聞かれた時に、機材オタクであれば“これを使ってください”と言えるかもしれないけど、わからないと正解が言えないじゃないですか。小さい会場だと実際に鳴っているアンプの音が強いから気にならないけど、大きい会場になればなるほどマイクの音が重要になる。“自分のイヤモニを持ち歩くんだったらマイクも持ち歩こうと”と。

自分のマイクを持つという意味では、AUDIXは値段的にも良心的です。

村田:そうですね。i5は1万円台ですし、そこまで負担は大きくないんじゃないかなと思います。ドラマーの人も、エンジニアからの指定がない限りは“キットを持っていく”という人も増えているので。マイクを試せるお店って滅多にないので、どうしてもレビューでしか選べないから仕方がないのかなとは思う。そうなると“定番がいい”と思っちゃうけど、定番はみんな同じになるから飽きもしますよね。それがハマればいいんだけど、それ以外のマイクも試してみるといいと思っています。

実際にAUDIXのマイク使われてみて、おすすめの使い方を指南するとしたら?

村田:EQとかリミッターの設定とか、マイクに対して何かしらのジャッジをみんながしがちだと思うのですが、1回全部フラットにして立ててみてほしいです。マイクを立てた時に音がちゃんとバラけて聴こえるのかとか、そういう部分をチェックしたほうがいいと思うんですけど、AUDIXの場合はドラムのセットで言うと頭の形がモデルによって違うので、立てて不必要なところだけを馴染ませてもいいと思います。ギターで言うと、皆さんジャージャーという音が嫌だから、ジャージャーしている音とロー感のおいしいところを探ると思うんですけど、i5の場合は真ん中を突いたらちゃんと入るので、あまり深く考えないほうがいい。キックのマイクもそうですけど、“いつもだったらこうする”という概念を取っ払えるかどうかだと思う。僕も最初にi5を立てた時はいつものようにEQをしたんですけど、“あれ?EQしないほうが自然に聴こえるな”と思えたので。

エンジニアさんにとっては、“調整しないといけない”という心理もあるのでしょうか?

村田:多少なりとも。あれだけプラグインがあると掛けたほうがいいと思いがちだけど、僕はプラグインを掛ければ掛けるだけフレッシュなエネルギーが削がれていくと思っているので、生々しい音を録りたいのであれば試してみる価値はあります。だから、AUDIXの中でもいろいろなマイクを試してみると面白いはずですよ。そうですね、AUDIXのおすすめの使い方は余計なことはしない(笑)。

どんな方におすすめでしょうか?

村田:“小ぢんまりとした音になっちゃうな”と思っている人に使ってみてほしいですね。AUDIXのマイク全般がすごくダイナミックだと思います。ダンッ!て鳴っているはずなのにトンッて録れてしまう。“こんな音じゃないんだけどな”と思っている人がAUDIXで録ってみたら、ダイナミックがわかるかもしれないですね。ギターアンプなら“何をやってもシャーシャーしてしまう”という人は、i5を立てればロー感が出てきたと感じるかもしれない。EQで足すのではなくて、生でちゃんと録る。マイマイクを選ぶのはなかなか難しいかもしれないけれど、マイクを1~2本持つのはそこまで高い買い物ではないので、やってみる価値はあると思います。

1本であればケーブルを1~2本買うのとそれほど変わらない値段ですから。

村田:“こんな音で録れるんだ”と面白くなるはずなんですよね。音にこだわる人って、ギターアンプでも“結局のところ最終的にはキャビネットで全部が決まる”と言うんです。イコール、そのキャビネットを録るマイクも同じでしょ?と。

キャビネットの表現が再現できるかどうかがポイントですよね。

村田:マイクを3本立ててミックスして…となるとライブハウスでは現実的ではない。でも“1本交換するだけだったらできるんじゃない?”と。そういう意味では、最近試したマイクの中では一番フラットに感じました。キャラクターが非常に音楽的な気がします。

PROFILE

村田 善行

とある楽器店で勤務するかたわらライブハウスのセッティングから機材の試奏レポや製品レビューまで幅広く手掛ける。ギター、エフェクター、アンプをはじめ幅広い楽器への造詣が深く、知識と経験に基づいたレビューの的確さは当代随一との評価が高い。楽器サイト『デジマート』の連載企画「Deeper’s View」は好評を博している。
 
Twitter:@fuzzdafuzzo




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