AUDIX ARTIST/ENGINEER INTERVIEW #11 koya

独自技術による高品質と優れたコストパフォーマンスが特徴であるRoland Partner Brandのマイクブランド「AUDIX」、その魅力を多角的にお伝えするインプレッション・インタビュー。歌ってみた動画のMIX師として活躍中のkoya氏に、自宅スタジオでさまざまな自前マイクとAUDIXの A131/OM3/OM6/OM11を比較・検証していただきました。

AUDIXは筐体の作りも違うし、価格設定もすごく挑戦的

#11koya

ミキシングを例えるなら料理

koyaさんの経歴を簡単に教えていただけますか?

koya:音楽の経歴で言うと、3歳から6歳くらいまでピアノとドラムもやっていました。それ以降は音楽に触れていなかったのですが、大学2年、19歳の時にダラダラ生活していて“このままじゃまずいな、何かしたいな”と思っている時、友達から“音楽やってみない?”と誘われて。実家にもドラムがあったので、ドラムを始めたのが本格的な音楽活動のきっかけですね。

最初はドラムだったんですね。

koya:そうですね。ドラムをやりつつ、コピーだけでなくオリジナルをやりたいなと思った時にDTMを知りました。無料版のCubaseとインターフェイスを買って家でポチポチやっていたら“楽しいぞ”と思い、それから制作を始めました。大学を卒業してから3年経って、今のバンドにベースとして加入したのですが、そのバンドはライブ活動が主だったのですがお客さんも増えないしライブも赤字。さらにコロナ禍も重なっていよいよ活動が何もできなくなり、SNSでフォロワー数を増やして宣伝できるようにしようと。そのタイミングで“僕にできることは何だろう?”と考えたのがミキシングでした。当時はエンジニアさんに頼んでいたのですが、“自分でできたら知識がつくしお金も浮くな”と。ミキシングでお客さんを増やそうと思っていたらMIX師の存在を知り、現在はMIX師を始めて3年目です。

現在もバンドを続けつつMIX師をやられていますが、知識がない人でも理解できるようにミキシングを説明すると?

koya:よく例えるのは料理ですね。大根(歌)という素材を使って料理を作る時に、切って鍋に入れて煮込んだり、盛り付けるまでがミキシングだと思っています。大根スティックで食べられるかもしれないけど、もっと良くするために鍋に入れたり煮込んだりする作業は必要だよね、というのはよく例えで話しますね。

素材の良し悪しを左右するお仕事ですよね。

koya:そうですね。だから、レコーディングに興味を持ったのもそれが理由です。もともとは安いマイクを自分たちで揃えてレコーディングをして、ミキシングエンジニアの方に音源を渡したらヘンテコな音で返ってきたんです。“何でお金を払っているのにこんな音なんだ?”と思っていたんですけど、実際にレコスタに行ってエンジニアさんに録ってもらったら、同じ人にお願いしたのに全然違う仕上がりで。“マイクなんて全部同じ”と思っていたんですけど、よく聴いてみたら音の方向性が同じでも広さや深さが違うので、そういうところにお金をかけるべきだなと思いました。

普段はどのような形でマイクを使用することが多いですか?

koya:さまざまですが、うちのスタジオにはドラム、ベースアンプ、ギターアンプがあって全部がレコーディングできる状態ですが、レコーディングに使うのが基本的な部分です。あとはPodcastやツイキャス、Discordの通話、カラオケで使うためにダイナミックマイクを使ったり、いろいろな用途で使用しています。

koyaさんが好きなタイプのマイクは?

koya:僕は高音が好きなので、高音は絶対にバチッと決まってほしいんですよね。イメージで言うと、音の方向性は高音で決まって低音は指向性がないとよく言われるのですが、高音がしっかりしていると音がどこにあるかがパキッとわかるので、そういうマイクが好きです。

そこを重点的に選ぶ感じでしょうか?

koya:そうですね。ただ、ニッチなマイクはあまり買っていなくて、わりとメジャーどころを選んでいます。良いと言われるものには理由があるという前提があるので定番は揃えつつ、歌い手さんからもらった音源が良かったら“何のマイクですか?”と聞き出して購入することもありました。ここでレコーディングをすることもありますし、音源をもらって作業することもありますが後者が多いですね。

音源をもらって作業する中で、MIX師としてこだわるポイントはどこでしょう?

koya:曲にもよりますが、音の基準というか“この曲だったらこういう音が良い”というのは頭の中にあるので、まずはそこに寄せていく作業から入ってそのあとにミキシングを行います。大根で言うと、穴が開いていたり傷んでいたら皮を削った状態にしてからスタートします。

全国から依頼が来るわけですもんね?

koya:そうですね。皆さんだいたいクローゼットや部屋で録っているので。

皮を剥く作業だけでもなかなか大変というか。

koya:そういう場合は特に高音に雑音が入るんですよね。キーンという音やザーという音が入り、オーディオインターフェイスもノイズが入るものだと、ハイを上げたら一緒にノイズも上がることがあるので難しいなとは思っています。

OM11は膜が張ったように感じなくて直接耳に入ってくる

AUDIXはご存知でしたか?

koya:もちろん。かなり有名ですが僕の中ではダイナミックマイク。特にドラムのマイクとして有名なのは知っていました。

これまで使用したことはありましたか?

koya:A131は最近購入しました。ドラムのマイクも使いたかったのですが、特にドラムマイクは王道のものを揃えていたので、使いたいと思いながらも優先度が低かったというか。バンドも打ち込みがメインなので、タイミングがなかった感じですね。

今回、お使いいただいたモデルはコンデンサーマイクのA131と、比較用にお貸出ししたダイナミックマイクのOM3/OM6/OM11の計4モデルです。どのように試していきましたか?

koya:普段の用途に近いところから比較していきました。あとは使いやすさです。筐体そのものの軽さやマウント器具の取り付けやすさを確認しながら、実際に比較するマイクを上から、AUDIXのマイクを下から重ねる形で同時に録音したらどうなるか。同じマイクプリを使ってほぼ同じ条件で比較しました。ただ、ダイナミックマイクは基本的にマウントして使うよりもハンドヘルド(ハンドマイク)が多いと思ったので、今回はすべてハンドヘルドで比較しました。

koyaさん自身が?

koya:僕ではなくてアシスタントに(笑)。

それぞれの印象を教えてください。

koya:価格帯も考慮しつつですが、まずはOM3から。おそらく一番安価なマイクで手に入りやすいと思いますが、音の印象としては丸いです。ダイナミックはだいたい丸いのですが、キンキンしていなくて中低音域に芯がある印象ですね。高音を張り上げる人とか高音が痛い人には合う印象ですが、丸い音は僕の思想とは異なるので、もうちょっとハイが欲しいとは思いました。ただし、環境によってハイがあれば良いわけでもないのが難しいところですね。そこは欠点でもあり良い点でもあると思います。

歌う人を選ぶ感じですね?

koya:そうですね。ただ、音量はこの3つのダイナミックの中で一番大きかったので、持っているオーディオインターフェイスが貧弱な人だったら、少し上げるだけでゲインを稼げるから使いやすいと思います。

次はOM6ですね。

koya:OM3よりもハイの聴こえ方がキレイです。OM3もハイは入っていましたが、喉の張り上げる音がちょっとキンとなるタイミングがあったんですけど、OM6ではそれが解消されています。なので、もっと声を張る人はOM6が良いかもしれない。特に喉で歌う歌い手さん、ブレスができないとかどうしても喉で歌う方はOM6のほうが聴きやすいかもしれないですね。

次はOM11です。

koya:アシスタントも僕も、口を揃えて“すごく良い”と言いました。何が良いかと言ったら、歌っている本人(アシスタント)がモニターで聴いている自分の音が聴きやすいと。僕はモニター用キューボックスも17万円くらいのものを使っていて、それくらい歌っている人の声質を気にしているのですが、変なポップノイズが入りづらいし高域も伸びている。音量もOM3と同じぐらい稼げていたのですごく良かったです。価格相応以上の品質は絶対にあって、これよりも少し上の価格帯のマイクだと3万円台になると思います。比較対象として、SHUREのBETA 58Aというスタジオ用に高域が上げられているマイク。僕は好きな音ですが、それに比べてもポップノイズが少ないし高域の伸びも自然で刺さらない。歌にマッチした周波数特性というかナチュラルですね。で、もうひとつSM7Bを試したのですが、SM7BはPodcast用ということもあってナチュラルすぎるので、自分で音を決めたい人には良いのかもしれないけど、“バチッと決まるのは絶対にOM11でしょ”っていうくらい良かったです。録り終わった時に間違えて実機コンプとかプラグイン処理を入れてしまったのか疑うくらいの良さでした(笑)。

“聴きやすい音”を詳細に表現するとどういう感覚ですか?

koya:ヘッドフォンをしていても、膜が張ったように感じなくて直接耳に入ってくる。聴こえ方が自然なんでしょうね。OM6も自然とは言いましたが、バラッとしているというかまとまり感がないので、OM11のほうが締まっていて良いなと。それで言うと余計な手間が省けます。例えるなら、引っこ抜いた大根にすでに土が付いていない状態。歌い手さんも、泥がついた音を聴くよりも完成された音を聴きながらレコーディングした方が良い歌が録れると思うので。

koya氏による録音を試聴

センノースパイラル(ボーカルのみ)OM3

センノースパイラル(ボーカルのみ)OM6

センノースパイラル(ボーカルのみ)OM11

センノースパイラル(ラフMIX)OM11

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PROFESSIONAL DYNAMIC VOCAL MICROPHONE

A131は人を選ばないマイクだと思う

最後がA131ですね。

koya:まずはゴムのショックマウントがないと思ったのですが、内蔵されていると。マイククリップの付けやすさとか、ゴムが付いているとクルクルと回すのが面倒臭いので良いなと思いました。あと、僕はマイクの可動域もすごく気にするんですけど、90度で止まっちゃうマイクがあって、“これ以上、下げられないじゃん”と思うのですが下げられるのが嬉しいところ。で、比較する時に両方のマイクをフラットに立てて比較したんですね。比較マイクはだいたいA131の倍以上する価格帯、同価格帯のマイクも試したのですが、フラットに立てると中音域が足りない印象でした。ハイエンドが丸まっている印象で、ノイズが激しいところだったら良いでしょうけど、それにしても中音域が欲しいなと思ったんですよね。普通は口元からコブシ2個分と言われますが、1個分くらい離して口にポップガードをベタ付けで、下に向かってマイキングするのが僕は好きで。低音域も入りつつ、ポップノイズも入れずに至近距離なのでハイも入る設定でやったらバッチリはまって。ミックスしていて、例えばNeumannのU87Aiよりも操作しやすい音になりました。U87Aiは全部の音に80点と言われるくらい万能ですが、100点はなかなか出せないのでそういう使い方をすれば100点は出せるのかなって。

そういう使い方をする前は良さを見出せなかった?

koya:そうですね。まぁ、比較対象のマイクのせいもあるのかなと(笑)。特性的にもハイ上がりのマイクばかり持っているので、こもって聴こえるのに中域がない印象だったんです。ただ、近付いて低域を入れたらちゃんと拾ってくれました。あまり良くないマイクって、どれだけ近付いても低域を拾ってくれないんです。どうしてもハイのジリジリが気になったり、中低域のもっちり感もなくスカスカな感じがするマイクも多いのですが、A131にはそれがなくて。“Podcastでも使える”という説明を見たのですが、確かに長時間ずっと聴く声ってそんなにハイは要らないんですよね。ナチュラルで広げさせるというか、バラつきを持たせるほうがリスナーの観点からすると聴きやすい。そういう意味だと本当に万能。近付けたら歌にも使えるし、遠ざけて立てておけばPodcastにも使えます。

koya氏による録音を試聴

センノースパイラル(ボーカルのみ)A131_こぶし2個分垂直

センノースパイラル(ボーカルのみ)A131_こぶし半分下傾け

センノースパイラル(ラフMIX)A131_こぶし2個分垂直

センノースパイラル(ラフMIX)A131_こぶし半分下傾け

LARGE DIAPHRAGM STUDIO CONDENSER MICROPHONE

“このような現場で活用したい”とかイメージはありますか?

koya:ここまで歌のことを話しておいてあれですが、A131はドラムに使える気がします。ドラムのオーバーヘッドに立てたり、耐圧もあるのでギターアンプの目の前に近接で立てるのも良いと思います。今、ギターを録る時は4040とC451を使っているのですが、そこに代わるマイクですね。フラットなので、それこそ遠くだったらアンビエントも録れる使い方ができる。歌はちょっとマイクが多すぎるので(笑)、強いて言うなら中低域が充分にある男性ボーカルに使うと、そこにフォーカスが当たるのかなと思います。女性であれば、近接で下向きで使えばもっちり感が全然違う。あとは声のハイがキンキンする人。特にウィスパー系、息を吐くように歌う人ってどうしても10K付近がサーッとなるので、そういう人にもこういうマイクは良いのかなと。どうしてもハイを上げるマイクは人を選ぶので、そういう意味だとA131は人を選ばないマイクだと思います。

全体を通してAUDIXから受ける印象は?

koya:やっぱりダイナミックへの力の入り方はすごいなと。A131も普通のコンデンサーじゃないんですよね。僕も困惑しているところがあって“こんなに変わるのか”と。普通はフラットに立てても中低域がなくて、近接で低域を足そうと思ってもそこまで足されない。まだ見きれていない部分はありますが、筐体の作りも違うし価格設定もすごく挑戦的です。安価なインターフェイスだと中低域がなくなったりしますが、A131は逆に近接で増えていくマイクなので、インターフェイスが貧弱でも劇的に変わるかもしれない。特に5万円以下の価格帯のマイクは限られてきているので、そういう意味でもすごく推せるマイクです。

最後にユーザーに一言。

koya:“3万円で好きなように使えるよ”というマイクよりも“4万円だけどしっかり使ったら良くなるよ”というマイクのほうが、知識もつくし音も良くなるしモチベーションも上がると思います。OM11は“ライブに出る人は絶対に買って”と。ライブに出なくても、家の環境が悪くてコンデンサーを薦められたけどあまりしっくりこない、雑音が入っちゃう人は買ってください。すでにダイナミックを持っている人でも驚くと思うので、ぜひ1回試してみてほしいですね。

PROFILE

koya

父母の影響で3歳から6歳までピアノとドラムを習い、20歳の頃に友人から誘われバンドとDTMを始め、本格的に音楽と触れ合う。コロナ禍においてのバンド活動をネット中心としたものにするべくオンライン活動を始めた際に”mix師”の存在を知る。スキル向上とバンドの活動を広げる目的で自身もmix師とレコーディングを始める。多くの機材を購入する姿が歌ってみた界隈に衝撃を与え、現在に至る。総担当作品は900件以上。多くの機材に囲まれながら自身で設計した自宅スタジオにて世に作品を出し続けている。ユニット「此処は、ワンダーランド」にてベース、レコーディング、アレンジ、ミキシングを担当している。
 
WEBサイト
https://koyabrog.amebaownd.com/
 
koya X(Twitter)
https://twitter.com/koya_1213
 
「此処は、ワンダーランド 」X(Twitter)
https://twitter.com/koko_w_Land
 
「此処は、ワンダーランド」 YouTube
https://www.youtube.com/@kokowa_wonderland




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