【ARTIST】土橋安騎夫 ソロアルバム『SENRITSU THREE』リリース記念特別インタビュー

土橋安騎夫(REBECCA)が最新ソロアルバム『SENRITSU THREE』制作の裏側を語ります。

土橋安騎夫 最新ソロアルバム「SENRITSU THREE」を語る

より深く自作のメロディにテーマを絞った『SENRITSU THREE』

ーー SENRITSU”シリーズ第3弾となる本作は、どのようなイメージで制作されたのですか?

土橋 – 現在に至る自分の音楽活動から、より深く自作のメロディ――すなわち“旋律”――にテーマを絞りました。加えてコロナ禍の現在、自分も含めて音楽活動範囲が制限されている中で、どんな時も寄り添ってくれる音楽に対して、感謝を込めてアルバムを制作しました。

ーーメロディへのこだわりをコンセプトに誕生した“SENRITSU”シリーズですが、前作、前々作にも増して、その想いが強くなった、と。

土橋 – そうです。これまで以上に、メロディにこだわってみようという気持ちが強くありました。その結果、アルバムの前半は、まったく新しく書き下ろしたメロディの楽曲たちで、後半は、これまでに発表したレベッカ「Time」や、かつてゲーム(『ラグランジュポイント』)に書いた音楽「THE RESURRECTION OF SABBATH」など、自分の基盤となるメロディをリメイクするという、二部構成となりました。

ーー 機材面では、第1作『SENRITSU』は音程楽器をアナログ・シンセ縛りで作り、第2作『SENRITSU TWO』ではアナログとデジタルを併用して80’sなシンセ音色を構築されていました。今回は、どのような機材を?

土橋 – Roland CloudのZENOLOGY Proのみでトラックを制作したり、ハード、ソフトと、幅広く使用しました。「New Age」と「A Better Day Tomorrow」を最初に作ったんですけど、これは完璧にZENOLOGY Proだけで作ったんです。それがアルバム制作のスタートでした。他の曲では、Roland CloudのJUPITER-8やJUNO-106も使っていますが、この2曲に関しては、本当にZENOLOGY Proだけ。これで十分でしたし、ローランドらしいサウンドで、ハードシンセと同じように音を作っていけるのがいいですね。

音がよくて、とてもローランドっぽい。それがZENOLOGY Proの魅力

ーー 改めてZENOLOGY Proを使った感想を聞かせてください。

土橋 – ZENOLOGY Proに対する自分自身の考えが、使い始めた時からどんどん変化していったんです。最初はシンプルに、ハードシンセがソフト化されたものだと受け取っていて。そうすると、センド・リターンのリバーブはあるけど、音作りのためのMFXにリバーブがないことに、「えっ、何で?」と感じるわけです。でも使い込むにつれて、ハードシンセをライブで使う時、確かにリバーブはセンド・リターンでしか使ってなかったよな、大元がそうなんだから仕方ないよなっていう気持ちになってきて、今ではすっかり、「これもZENOLOGY Proのひとつの個性だ?」と思うようになってきました(笑)。

ーー ソフトシンセとしてのルーツ、成り立ちが違う、と。

土橋 – 最近って、ものすごくエグい音が出るソフトシンセがたくさんあるじゃないですか。でも、そういうプリセット音色って、エフェクトを全部外すと、単なるノコギリ波やサンプル音が“ピーッ”と鳴っているだけだったりして。ほとんどの人は、そういったプリセット音色って、そのまま使ってるだけだし、逆に言うと、そういう音色って、そのまま使うしかできないんですよね。もちろん、使い方次第ですけど、そういうタイプのソフトシンセと一線を画すのがZENOLOGY Proだなって、使い続けていくうちに、だんだんそう思うようになってきました。ZENOLOGY Proって、やっぱり音がいいんですよ。しかもその音が、すごくローランドっぽくて、その感じが僕はたまらなく好きなんです。

ーー 土橋さんは、どういった部分に“ローランドらしさ”を感じるのでしょうか?

土橋 – ローランドはずっとハードのメーカーだったわけで、時代とともに進化する機種を長年使ってきて、「これがローランドの音だ」っていうものを身体で覚えているわけです。それがソフトの世界にいった時に、ものすごく複雑な音がローランドのソフトシンセで鳴っても、「えっ、何これ?」って感じてしまうわけです。

ーー その感覚はとてもよく分かります。

土橋 – だから現段階においては、ローランドならではのハードシンセの音を、ソフト化することで便利に使えるようにするということこそがローランドらしい発想だと思うし、今はそれでいいと僕は思っているんです。ハードメーカーのローランドがRoland Cloudを作った最大の目的も、まさにそこじゃないかと感じていて。おそらく、ソフトの世界でゼロから勝負するようなまったく新しいソフトシンセをローランドが作ろうとしたということではないと思うんですよね。当然、いずれはそこにもチャレンジしていくんでしょうけど、今はまず、ハードをすべてソフト化してRoland Cloudに加えていってる段階なんだろうと考えています。

「そばに音楽があってよかった」と強く感じた一年だった

ーー アルバムの話に戻すと、ZENOLOGY Proだけで作ったという「New Age」は、ヒューマン・リーグを彷彿とさせるようなシンセ・ポップですね。

土橋 – 言ってしまえば、モロにそうです(笑)。そして、「A Better Day Tomorrow」は90年っぽいサウンド。この2曲には、ZENOLOGY Proでギターのサンプルも使っています。ギターが出てくるのは、この2曲だけですね。

ーー 「A Better Day Tomorrow」は、ストリングスが印象的に使われていたり、サビのシンセがホルン風にも聴こえて、シンセ・ポップであると同時に、例えば管弦楽器で演奏されても面白そうだと感じました。

土橋 -ああ、なるほど。そこはあまり意識しませんでしたが、ただ2曲とも、バンドサウンドには出来るだろうなと思ってました。

ーー この2曲をはじめ、今まで以上にポップな作品となりましたね。

土橋 – 「Noteheads」もテクノ・ポップですしね。“テクノ”じゃなくて、僕が大好きな80年代の“テクノ・ポップ”。「Crash and Burn」は、80年代風な理屈っぽくてカッコつけてる歌詞。このアルバムで一番洋楽っぽいと思います。理屈っぽいけど、でも、ちゃんとしたメッセージを伝えようとしてる歌詞なんですよ。

ーー 「Noteheads」のミュージックビデオが公開された際、土橋さんは歌詞を引用したコメントをTwitterで投稿されていましたね。「そばに音楽があってよかった」、と。

土橋 – 去年は、それを強く感じた一年でした。コロナ禍でライブがまったく出来なくなってしまったけど、でも自分は音楽というものに携わることが出来て、音楽を作ることを通して、ひとつの生きる道みたいなものを強く感じたんです。そういった、「音楽が自分のそばにあって本当によかった」ということを(宮原)芽映さんと話していたら、彼女がそういう詞を書いてくれたんです。芽映さんは「合唱曲として子ども達に歌って欲しい」と言っていて、僕もそんな曲になればいいなと思いながら作りました。

ボコーダーで歌うことで人それぞれいろんな意味を生み出せる

ーー そうした想いを込めた歌詞を、あえてボコーダーで歌うあたりにテクノ・ポップのロマンが溢れていますね。

土橋 – ボコーダーはRoland Boutique VP-03です。この曲は、とにかくあの詞が切なくて、自分自身がとてもいいなと強く感じるものでした。それを自分が歌うとなった時に、リスナーにはこの曲、とくに歌詞をより自然なかたちで聴いてもらいたいという気持ちになったんです。そこで、ボコーダーで歌う方がいいかなと考えて。ただ実際にボコーダーで歌うと、どうしても詞が聴き取りづらい部分も出てくるんですが、《そばに音楽があるよ》というフレーズは必ずきちんと聴こえるようにして。ミュージックビデオには歌詞も出せるし、詞が多少聴き取れなくても、それを聴こうとしてくれればいいかなと思って。自分が歌うことで、リアルなものになってしまうことを避けたかったんです。

ーー 確かにダイレクトに日本語で聴こえてくるのと、ボコーダーで歌われるのとでは、歌詞の伝わり方もかなり違ってきますよね。

土橋 – それに、「ボコーダーだからいい」っていう部分も、やっぱりありますよね。しかも日本語で。《音楽がそばにあるよ》っていうフレーズは、言葉だけを聴くとちょっと不思議に受け取られるかもしれませんが、ボコーダーで歌うことで、人それぞれ、1人1人のそばに音楽があってよかったっていう、いろんな意味が生まれるんじゃないかなと思ったんです。僕は音楽を作ることで助けられたし、きっと音楽を聴いて救われた人もたくさんいると思います。都合のいい時に使われがちな実体不明の「音楽の力」に頼るのではなく、人それぞれ、自然にみんなのそばにある音楽を、上手く生活に使えたらいいなっていうことを表現したかったんです。

ーー そうしたテーマが秘められた曲だったんですね。

土橋 – 先に曲を作りつつ、芽映さんと「こういう歌詞にしたい」と話して作っていきましたし、「Too much information」も近い流れで、情報過多な忙しい感じを出したいといったところから、ボーカルの鈴木桃子(Cosa Nostra)さんに詞を書いてもらいました。この曲では、Roland CloudのJUNO-106を結構使いました。他にも、「90年代っぽいおしゃれな感じがいい」とか、1曲1曲にコンセプトというか、影響を受けたメロディというものを自分の中で消化して、そこから新しいメロディを生み出していったんです。

自分にとって大切な「Time」や「The Resurrection of Sabbath」の旋律

ーー リメイク曲についても話を聞かせてください。

土橋 – まず、「The Resurrection of Sabbath」は、レベッカを(当時)解散した後、自分にとって大きな節目に作ったメロディなんです。

ーー 1991年にコナミから発売されたファミコン・ゲームソフト『ラグランジュポイント』のエンディング・テーマ曲ですね。

土橋 – 初めて8bitのFM音源を搭載したファミコンのゲームソフトで、サウンドが画期的にクリアだったんです。実はこの曲がきっかけで、海外から取材オファーを受けたこともあって。そういった意味でも、自分にとって非常に大切なメロディでしたから、ぜひ今回のアルバムに入れたいと思ったんです。このゲームは、多くの音楽を“コナミ矩形波倶楽部”というサウンド・チームが作っていたのですが、今回は彼らへのリスペクトを込めながら、彼らがアレンジした音を耳コピーして(笑)、それを自分のシンセ・サウンドに置き換えてカバーしました。

ーー アルバムの最後には、この曲のシンフォニック・アレンジ版が再び登場しますね。

土橋 – アルバムの締め括りとして、これで余韻を残そうと思って。

ーー そしてレベッカ5thアルバムのタイトル曲「Time」を取り上げた理由は?

土橋 – レベッカの楽曲の中には、例えば「RASPBERRY DREAM」のイントロのように、コードをなぞったメロディがあるんです。「Time」もそのひとつで、シンプルさを求めた独自のメロディとしてカバーしました。実は「Retro」のメロも、コードをなぞって作っているんです。

生々しいダイナミクスのあるデコボコな音楽が作りたい

ーー 後半のインスト曲も含めて、80’sサウンドが好きな人はもちろんのこと、今の若い世代にも広く受け入れられるポップなアルバムとなりましたね。

土橋 – ただ、若い人たち向けの音楽って、それはそれで今風のものがあるじゃないですか。それらは、僕が作るものとは完全に別モノだと考えているので、むしろ若い人たちには、「なるほど、こういうシンプルな音楽もあるんだ」と感じてくれたらいいなと思っています。あとサウンド全体の話をすれば、僕は最近よく耳にするような、全部の音が潰れていて、小さいボリュームでも音が均等に聴こえるようなミックスが好きじゃないんです。もちろん、僕も全体の音圧は上げているし、例えば「Noteheads」のスネアも、すごく大きくしているんですよ。でもあれは、わざと大きく入れていて。つまり、小さい音だったらショボくてもいいし、デッカい音ならカッコいいよねっていう、そういう生々しいダイナミックレンジのある音楽を作りたいんです。ものすごくデコボコにしたいんですよ(笑)。全てとは言いませんが今の音楽って、ダイナミクスが真っ平な感じがするじゃないですか。波形で言うと、曲の最初から最後まで長方形な。

ーー パッと聴きで派手な印象を出せるように極端に音圧レベルを上げた、いわゆる“海苔波形”の音楽、ですね。

土橋 – そう。でも僕はデコボコな感じを表現したくて、わざと「この音を大きく」ってミックスするから、何年か後に聴いた時に、「このスネア、デカっ!」って自分で驚くこともあって(笑)。でも、作った時に「これがいいんだ」と感じたバランスが、やっぱりいいんですよ。有名な「Last Christmas(ワム!)」だって、リンドラムのスネア音がめちゃくちゃデカいじゃないですか。でも、それがひとつの個性として時代を超えてカッコいい。そういう風に作りたいという感覚がすごく強くて、それで「Noteheads」のスネアも、わざと大きくしたんです。タイミングに関してもそう。80年代のヒューマン・リーグとかも、当時のMIDIだから、いくら打ち込みだと言ってもタイミングにズレがあったわけで。今の感覚で波形を見たら「揃ってないじゃん!」って思うはずですよ(笑)。でも、それも味がある。

ーー 今だと、視覚的にズレを直してしまいがちですよね。

土橋 – それがダメなんですよ。「揃ってないから」って波形を動かした時点で。そういう部分でも、僕はもっとデコボコにしたくて。ただその決断って、なかなか難しくて。後から、「もっと思い切ってデコボコにすればよかった」と感じることもあるんですが、今回はそういった部分も、面白く作れたかなっていう満足感があります。

細かいことを気にしすぎない方が面白い音楽を作っていける

ーー 最後に、シンセ・サウンドだけで楽曲を構築するうえで、何か気を付けているポイントがあれば教えていただけますか?

土橋 – レンジの幅は常に気を付けています。上モノの聴こえ方や、中域が少ないなとか、ベースはどうだっていうレンジ感。それはかなり考えていますね。でもそれ以外の部分は、実はあまり意識してないんです。何故かと言うと、考えない方が面白いものが作れると思っているので。最近の音楽だって、例えばビリー・アイリッシュも、もしかして「boostした歪んだベースカッコいいよね! じゃあ、これに歌だけを乗せてみよう!」そんな感じだったかも?その感覚が彼女らの凄いところであって、これもいわば現代版デコボコですよね。だから僕も、昔ほどはあまり細かく考えずに曲を作るようになりました。

ーー 何よりも旋律が一番重要で、その旋律を活かすためにサウンドやアレンジでどうしていくかと考えていくことが、とても大切だということですね。

土橋 – その通りですし、それが今回の最大のテーマでした。そういう点でも、ZENOLOGY Proは、頭の中で「こういう音が欲しい」と浮かんだ時にイメージをそのまま音にしやすいんです。それは実際に音を作っていくと、より強く感じます。ローランドの音って、やっぱり80年代っぽさがあるんですよ。しかも昔のハードと違って今のソフトで作るから、僕はなおさら新鮮に聴こえる。もちろん他のソフトシンセでも、80年代っぽい音は出せますけど……。

ーー そうした音とローランドの音は、何が違うのでしょうか?

土橋 – 簡単に作れる80年代っぽい音って、今風な音にフィルターをかけたり、ベロシティをなくしたような音にしか僕には聴こえないんです。だからローランドを使うと、やっぱり音の説得力が違うんですよ。しかもZENOLOGY Proなら、ソフトで作った音色をFANTOMやJUPITER-Xmに持っていって、それでライブも出来るわけで、これは本当に素晴らしいことだと思います。そういった、ハードとソフトの互換性をきちんと構築している点が、まさにローランドの強みですよね。そういう機能を活かして、ぜひ近いうちに『SENRITSU THREE』をフィーチャーしたライブも開催できたらと思っています。

AKIO DOBASHI INFORMATION

THE NEWEST ALBUM

AKIO DOBASHI 7th Solo Album 「SENRITSU THREE」

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