三柴:今までは、専用レコーダーでないとダメだって勝手に思い込んでいて、なかなかDAWに踏み切れなかったんです。ずっと「SONARは音がいいよ」とは聞いていたんですが、僕自身がPCに疎いですし、ロックの現場などで、DAWの音を聴いても、あまり音がいいとは思えなくて。「THE 金鶴」は、結成時からハイ・クオリティな音で音楽をお届けしたいという気持ちがあって、だからシンセなども、最新のものを使ってきました。でも今回、思い切って踏み込んでみたら、すごく簡単だし、音もよくて、ビックリしました。
佐々木:僕らの世代って、8トラックMTRくらいから制作を始めて、スタジオでDAWシステムがフリーズする現場を何度も体験してきたんです。特に彼は、MIDIではなく、全部、手弾きでオーディオ録音しますから、タイトな日程でPCトラブルがあると大変なんですね。だから専用レコーダーでないと、信用できなかったんです。ただ今は、コンピューターも発達して、SONARもどんどん進化したことで、トラック数だとか、かえって専用レコーダーの限界が見えて来て。それでこのタイミングでSONARを導入したんですが、これは本当に助かりましたね。
三柴:導入したのは、昨年の秋頃だったんですが、映画の映像が届いたのが今年に入ってからだったので、短期間で、すべての作業を行いました。それまでの期間に、使い方を覚えて、曲想が浮かんだら、すべてのシンセを立ち上げて、10分後には録音を始めるといった作業でした。こんなに楽に制作を進められるとは思いませんでした。
三柴:いくら24ビット/192kHz録音と言っても、AD/DAコンバーターがよくないと、音が悪くなりますよね。DAWを始めるにあたって、ずっとそこが気になっていたんですが、OCTA-CAPTUREは、すごくよかったです。実際に音を確かめて、佐々木さんにもOKを貰って、導入を決めました。
佐々木:今回の制作で一番ビックリしたのが、OCTA-CAPTUREのよさでした。
三柴:しかもこれには、オート・センス機能があるじゃないですか。佐々木さんがいなくて、自分で録音する時は、これが絶対に必要で。
三柴:すごく難しいです。よく佐々木さんから怒られるんです。「こういうフレーズです」って、一度試しに弾いて、さあ本番を録ろうとなると、ものすごく演奏に力が入っちゃって、全部の音が歪んでしまって(笑)。
佐々木:プロ・ミュージシャンも、本番は音がデカくなるんですよ。もちろん、レコーディング・スタジオであればリミッターなどを使えますが、自宅だとなかなかそうはいきませんから。そういった面も含めて、音のよさはもちろん、OCTA-CAPTUREがあったおかげで、ストレスなく作業ができました。30年間一緒にやってきて、今回初めて、彼が自分で録音までしてくれたから、僕の作業も半分で済んだし(笑)。
三柴:カセットMTRの時代から、僕が自分で録音すると、音が割れて使い物になりませんでしたから(笑)。
三柴:そうですね。あと、INTEGRA-7の存在も大きかったですね。昔は、自宅ではデモ程度のものしか作れないことが当たり前でした。特に今回、INTEGRA-7やV-Synth GTで鳴らしている音って、ほとんどが生楽器なんですよ。この映画は、1960年代の“家”や“家族”をテーマにした作品でしたから、生楽器でいこうと決めていたんです。そういう音って、以前なら実際にプレイヤーを呼ばないと録音できなかったわけです。ただ、最近の映画音楽の制作では、予算や時間的な問題もありますし、もしプレイヤーを呼べても、なかなか皆さんが、音楽に夢中になって演奏してくれないという事をとても残念に思っていて。
佐々木:だから結局、思い通りの音楽にできないことが多いんです。
三柴:こういう時に演奏してもらう方々って、クラシック音楽を学んできた人たちなので、初見で演奏できるんですよ。だから、録音のギリギリまで携帯電話をいじっていて、本番が始まったら、パッと弾いて、帰っていく。音程が合っていなくても、現場の人は「OK!」と言って、後からコンピューター上でピッチを直していくわけです。そうすると、音源以上に機械っぽい音になってしまうんですよ。やっぱり一流のオーケストラって、尊敬する指揮者の元で、一生懸命、感情を込めて演奏するのが一番いいわけで、ただでも、僕らがそれを映画音楽制作で実現するのは難しい。そういう時に、INTEGRA-7の存在は、本当にありがたかったですね。
佐々木:彼は“オーケストラ・マニア”なんですよ。だから、それぞれの楽器の弾き方まで再現してINTEGRA-7で演奏するので、本当にその楽器のように聴こえるんです。おそらく音だけ聴いたら、生楽器なのかINTEGRA-7なのか、聴き分けられないと思いますよ。
三柴:僕以上に、メンバーのClaraは生楽器を熟知していて、「バイオリンのビブラートはここからかかり始める」とか、音色をすごく細かくカスタマイズするんです。僕自身は、ホルン系の音色がとても気に入って、イングリッシュ・ホルンとフレンチ・ホルンを使い分けて鳴らしました。あと、マリンバやビブラフォンのリアルさは、尋常じゃないですね。実機を叩くと分かるんですが、こういう楽器の音って、お腹に響くんですよ。そこまで表現されていて、あまりのリアルさに、ちょっと気持ち悪いくらいでした(笑)。
佐々木:逆にリアルすぎるので、音像に奥行感を加えたり、あえて質感を少しだけローファイにするのが、ミックスでのポイントでした。マリンバをホールの反響板の中で叩くと、必ずディレイ音が生じるんです。ですから、リバーブだけではなくてディレイも必要で、そうすることで、よりリアルに聴こえるんです。INTEGRA-7の音は、生楽器が発する直接音として非常にリアルなので、それをミックス時に、客席で聴こえるリアルな奥行感をシミュレーションするために、SONARのプラグインを活用しました。
佐々木:一番多かったのが、ラストの「Starting Over」かな? これがステレオ11パートなので、合計22トラックですね。サウンド・トラックの場合、あまり多くの音数で埋めてしまうと、一番大事な台詞の邪魔をしてしまうことがあるので、音数が多くなり過ぎないようにということは、意識しています。
三柴:この曲は、エンディング・テーマが流れる直前のトラックで、西村知美さんが演じる主人公“種”のテーマなんです。ストリングスに重なって入ってくるメロディは、INTEGRA-7のフレンチ・ホルン(SN-A PRST 0230 French Horn)を使っています。最後に出てくるティンパニ(SN-A PRST 0181 Timpani)は、単音とロールで、別トラックに分けて録りました。このティンパニが、これまた驚くほど生っぽいんです。ロールも、実際の映像を見ながら、ベンダー・レバーでリアルタイムにコントロールしています。
三柴:フレンチ・ホルンも、フルートも、ティンパニも、全部、映像を見ながらの生演奏です。しかも、最初に佐々木さんがおっしゃったように、MIDIは使わずに、そのままオーディオで録音しているんですよ。フレンチ・ホルンとマリンバなどで演奏した「Choker」も、聴いていただけると面白いと思います。もう完全に“生”な感じです。演奏自体も、クリックなどは使わずに、「せーの!」でやっていますから。