【Artist】 DODOWAKAとして「万葉集×EDM」を生み出している上野紘史氏の考えるトラックメイキングとは

シンセサイザーのデモンストレーターとして活躍している上野紘史氏が、この度、「はるひの with DODOWAKA」でメジャーデビュー。新曲「令和-UMEnoUTAGE-」をはじめ「万葉集×EDM」の制作に使用した機材とエピソードを語ってもらいました。

DODOWAKAとして「万葉集×EDM」を生み出している上野紘史氏の考えるトラックメイキングとは

ヒット曲の歴史をさかのぼったら「一番古いJ-POPは万葉集だ」というアイデアにたどり着いた

ーー 万葉集とEDMを融合させようというアイデアはどこから生まれたのでしょうか?

上野 – 僕は3年くらい前、週に1回、日本橋三越の食品フロアの一角で、90分のライブをやっていたんです。主に洋楽や邦楽の歴代ヒット曲をカバーしていたんですが、そのうちにオリジナル曲もやろうということになって。それで、ヒット曲の歴史をさかのぼってみたんです。一番古いヒット曲って何だろう? って。それでプロデューサーと、どこまでさかのぼれるかって話していく中で、「一番古いJ-POPは万葉集なんじゃないか?」っていうところにたどり着いたんです。

ーー とてもユニークな発想ですね。

上野 – 万葉集は、年齢も身分も関係なく、いろんな人の和歌を集めて作られた日本最古の和歌集なんです。それが当時、どのように詠まれていたのかは分かりませんが、「これは歌なんじゃないか?」と思ったんです。日本人なら、「万葉集って、国語の時間にやったな」って、誰しもが知っているものじゃないですか。でも、中身は僕もよく知らなくて、それで調べてみたら、面白い世界が広がっていたんです。しかもメロディラインとの関係性も、既に“五七五七七”というリズムで組み立てられているので、最新のダンスミュージックとかけ合わせてみると面白いんじゃないかということで“万葉集×EDM”という、DODOWAKAプロジェクトをスタートさせました。

ーー そこから3年後に新元号が“令和”に決まって、万葉集が世間の注目を集めるとは……。

上野 – まったく思いもしなかったです(笑)。

ーー EDMそのものは、それ以前から作っていたのですか?

上野 – はい。そのライブ用にいろんなヒット曲をカバーする時もEDMにアレンジをしたり、自分で曲を作る際も、4つ打ちのEDMっぽいものを作っていました。

ーー 上野さんは、以前から作編曲をしつつ、キーボーディストとしても活躍されていますが、音楽そのものは、鍵盤楽器から始めたのですか?

上野 – そうです。小さい頃にピアノを習っていて。よく「親から無理矢理にピアノを習わされた」っていう話があるじゃないですか。でも僕の場合、親から聞いた話によると、テレビでピアニストが演奏している映像が流れたら、僕が突然、指を動かして弾き真似を始めたそうなんですよ(笑)。それで親が、「やりたいの?」って聞いたら、「やってみたい」と答えたらしくて。それでピアノ教室へ通うようになりました。ただ、父親が転勤族でして、ピアノは引っ越しの際に持ち運べないということで、電子オルガンを買ってもらったんです。その後、小学5年生の時に小室哲哉さんの音楽に出会って、中学生になって、お年玉の貯金と、少しだけ親にカンパしてもらって、初めてシンセを買いました。

ーー そこから、バンドを組んだり?

上野 – それが僕は転校が多かったこともあって、学校で、あまり自分から「音楽をやってる」と話すこともなかったですし、「音楽をやりたい」っていう友達もいなかったので、バンドを組むという発想がなくて。それに小室さんが好きでしたから、今は違うんですけど、当時は「ギターバンドってダサい」って思ってしまっていて(笑)。だから、ずっと1人で打ち込みをやっていて、誰かとちゃんと音楽をやったのは大学に入ってからですね。

ーー その後、東京藝術大学音楽学部(以下、藝大)に進学されますが、それも打ち込みで音楽を作っていたことが発展しての進学?

上野 – いえ、実は藝大に行くなんてつもりは全然なくて。だた、僕が尊敬するもう1人のアーティストが坂本龍一さんで、志望校を探す時に、「そういえば、坂本さんは藝大だったな」と思ったんです。それで、いろんな大学を探す中のひとつとして、藝大のことを調べてみたんです。そうしたら、その後に進学することになる音楽環境創造科を見つけたんです。まだこの学科が新設されて2年しか経ってなくて、内容を見ると、電子音楽や音響、他のアートも勉強できるし、マネージメントや舞台芸術も学べる総合的な学科だったので、これは自分にぴったりだと思って、それで藝大を受験しました。

アイリッシュと盆踊りの邂逅で生まれた「令和-UMEnoUTAGE-」

ーー 新曲「令和-UMEnoUTAGE-」の制作について聞かせてください。今回は、どのような作業から取りかかったのですか?

上野 – “万葉集×EDM”の面白いところは、和歌が前提にあることで、既にたくさんの歌詞があるわけなんです。ですから、膨大な和歌の中から、意味的に惹かれるものや、言葉のリズムが面白いものから“詞先”で作っていきます。「令和-UMEnoUTAGE-」の歌詞に関しては、1番、2番とも、すべて和歌からの引用で作っているのですが、新元号“令和”の元になった一文が第5巻『梅花の歌』の序文にあることから、今回は、第5巻に収められている32首の中から、違和感なく意味合いが読み取れるように言葉を首を引用して歌詞を組み立てていきました。

ーー では、バックトラックの制作は、どのような手順で?

上野 – 僕の場合、メロディとコード進行を重要視しているので、最初はピアノでパラパラと弾きながらメロディを考えていきます。EDMですから、もちろん頭の中では4つ打ちの感覚を持ちながらメロディを作っていくんですけど、リズムトラックから先に組み立てるということはないですね。

ーー 「令和-UMEnoUTAGE-」のイントロで、尺八と琴の“和”の雰囲気から一転して、ケルトやアイリッシュ的な曲調となって驚きました。こうしたアイデアは?

上野 – 元々は、アイリッシュとEDMを融合させようと考えていたんです。そうした時に、盆踊りの話(注:第17回 日比谷公園丸の内音頭大盆踊り大会“「盆オドラー大ちゃんと踊ろう」盆踊り”の企画でDODOWAKAライブが行われた)があったので、“和”の要素を取り入れてみようと思って。そうは言っても、アイリッシュにドンと“和”を突っ込むのはどうかとも思ったんですが、実際にやってみたら、この組み合わせが意外と面白くて。そもそもアイリッシュって西洋の民族音楽ですから、つまりダンスミュージックのひとつなんですよ。それを同じダンスミュージックのEDMに組み込むと面白そうだという発想でした。

ーー よく考えれば、盆踊りも東洋のダンスミュージックですよね(笑)。

上野 – そうなんです。ダンスつながりなんですよ(笑)。

イントロの尺八や琴は手弾き。JUNO-DSのピッチベンドを動かしながら録音した

ーー 一般的に、EDMはビートが主役のダンスミュージックとなりがちですが、上野さんが手がける“和歌×EDM”の作品は、歌モノというか、ちゃんとポップスに仕上がっていますよね。やはり、楽器をやらない人が作るEDMとは違う、キーボーディストだからこそ生まれるEDMのように感じます。

上野 – ありがとうございます。これは自分の特徴だと思っているんですが、聴く分にはゴリゴリのダンスミュージックが大好きなんですが、自分が作るとなると、なぜかポップス寄りになるんです。それはやっぱり、メロディを大切にして、メロディが活きるようにアレンジをしているからだと思います。そこは、特に小室さんから受けた影響が大きくて。僕にとって小室さんと言えば、時代的にはTM NETWORKよりもglobeの世代なんですけど、小室さんが作る音楽って、やはりメロディがものすごく強くて。だから、僕もメロディを重視するようになったのかもしれません。

ーー 中間部のラップのフレーズに、globeの影響を感じました(笑)。

上野 – まさに90年代に、それを聴いて青春を過ごしてきましたから、自分のアイデンティティというか(笑)。ただ、ちょっと前だったらやらなかったと思うんですよ。でも、今やると面白いんじゃないかと閃いて、咄嗟にあのフレーズを取り入れました。

ーー 冒頭の尺八や琴は、どのシンセを使ったのですか?

上野 – どちらもJUNO-DSです。FA-06にも、尺八や琴の音が入ってますが、聴き比べた時に、JUNO-DSの方が硬質で突き抜ける印象があったので、こちらの方が自分のイメージするEDMに合うと感じて、JUNO-DSを使いました。

ーー アイリッシュなフレーズは?

上野 – あれも2つの音をレイヤーさせていて、1つはフィドルのサンプルで、それとまったく同じメロディを打ち込んで、JUNO-DSの琴を重ねました。フィドルだけだとその印象が強すぎて“和”の要素を断絶してしまうように感じたんです。そこで琴を重ねてみたら、絶妙に和の世界と西洋の世界を馴染ませることができました。あと、全編を通して鳴っているストリングスはFA-06です。スーパーナチュラル音源のマルカートとスタッカートを使いました。

ーー JUNO-DSやFA-06は、音源として使ったMIDIで打ち込むのですか? それとも鍵盤を手弾きして録るのですか?

上野 – 僕は手で弾くんです。ストリングスとか生音系のフレーズは、手弾きした方が作業が速いですから。もちろん、ダンスミュージック的なグルーヴ感を出したい時は、手弾きの人間っぽさが邪魔になるので、あえてガチガチにクオンタイズして、ベロシティも一定で打ち込みますが、尺八のフレーズなどは完全に手弾き。しかも、ピッチベンド・レバーをリアルタイムに動かしながら録りました。

ーー ドロップの部分のシンセのメロディは、何を使ったのですか?

上野 – FA-06のブラスを2種類ほどレイヤーさせました。それに荒々しいJD-XAのフィルター・タイプ[LPF3]を通した音色をさらにレイヤーさせ、低域に少し雑味を持たせることで、ブラス系のサウンドに広がりを持たせました。なおかつ、それにソフトシンセもレイヤーさせています。

ソフトとハードを上手く組み合わせることで、どちらかだけでは生まれない“味”が作り出せる

ーー EDMのトラック・メイクだと、パソコン内で完結させることもできますが、あえてハード・シンセを組み合わせる理由は?

上野 – 打ち込みだけでトラックを作る場合でも、僕は「Rolandの音が欲しい」と思う時がたくさんあるんです。ソフトシンセをメインで使っていても、もうちょっと抜けのいい柔らかい音をレイヤーさせたいと感じることがよくあって、そういう時に、ソフトとハード、どちらも試してみるんですが、結果的に、Rolandのハード・シンセを使うことが多いんです。

ーー せっかくですので、2019年冬にリリースが予定されている「恋ひ恋ひて」についても、お話を聞かせてください。

上野 – 「恋ひ恋ひて」は、大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ)が詠んだ和歌で、まず、その意味が素晴らしいと思ったんです。しかも、最初に出てくる《恋ひ恋ひて》というワードが魅力的で、これにいいメロディを乗せたいというところからスタートしました。

ーー デュエット・ソングで、EDMのダンスミュージックというよりは、バラード的なテイストが強い曲になりましたね。

上野 – 実は当初、男性ボーカルを想定して曲を作っていたんです。その時に女性ボーカルのAyaと出会って。この和歌は、元々は女性が詠んだものだから、じゃあAyaに歌ってもらって、そこに男性を加えてデュエットにしたんです。曲について言えば、ドロップのところは踊れるようにしようといったことは考えましたけど、おっしゃる通り、バラード的な発想で作りました。ただ、メロディアスなダンスミュージックって、実は結構たくさんあって。しかも、Aメロで4つ打ちがあって、4つ打ちが消えてブレイクして、そこからビルドアップして、ドロップで大サビがやってくるっていうEDMの構成って、J-POPのAメロ/Bメロ/サビに近くて、日本人の感覚に近い気がするんです。

ーー そこに、いいメロディが乗れば、なおさらですよね。

上野 – メロディがいいEDMは、僕自身とても好きですし、そういう曲は多くの人に愛されますから、自分もそこに共感を持ちつつ、万葉集EDMを作っています。

ーー なお、「恋ひ恋ひて」では、FA-06やSYSTEM-8を使ったそうですね。

上野 – ドロップで使っているシンセ・メロディは、FA-06で作ったオリジナルの音色を手弾きしたものです。STUDIO SETで何個かの音を重ねた音色で、それをさらにオクターブ・ユニゾンにして、1回は高い方、2回目は低い方で手弾きして、揺れを活かしました。それに対して、アルペジオ系のフレーズは、かっちりと鳴るように、MIDIでSYSTEM-8を鳴らしてオーディオで録音しました。

ーー では最後に、シンセ・ファンにメッセージをお願いします。

上野 – 「令和-UMEnoUTAGE-」は、細部に渡ってこだわりましたが、中でもレイヤーで作ったリードの音色は特にこだわって作ったので、シンセに興味がある方には、そういったところを聴いていただきたいですね。僕は、シンセの面白さって、現実には存在しない音を作り出せるところにあると思っていて、「これは何だ?」っていう面白い音を作りたいと常に考えていて、現代って、レイヤーの面白さがある時代だと思っています。そうした時に、ソフトシンセはエディットも簡単だし、いろんな音が出せますが、「そこにない音って何だろう?」と考えたら、ハードを上手く組み合わせることで、ソフトだけでは生まれない、どちらかだけでは生まれない、ちょっとした“味”が作り出せると思っているし、そこを活かした音楽を作りたいと考えています。実際に、“万葉集×EDM”プロジェクトでも、いろんなシンセを重ねたレイヤー・サウンドで作っていく面白味を感じているので、そこを感じ取っていただけると嬉しいですね。

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