ディテールの描写力があって幅広い音域が録れる
#12広田圭美
ピアノは良くも悪くも一期一会
普段、どんなシチュエーションでマイクを使用していますか?
広田:主にレコーディングですね。パーカッションとのユニット“227”では、すべて一発録りでレコーディングしています。マイクのセッティングは基本的にエンジニアさんに頼んでいますが、コンデンサーマイクを2本立てて、部屋を仕切って違うブースで録音しています。ユニット以外でのサポートはホール会場が多くて、スタンウェイなどのフルコンピアノを使用するので、そうするとマイクを立ててもらいます。最近は小さいマイクを仕込んで、マジックテープで固定して録ることも多いですね。
マイクのセッティングに関して、エンジニアさんと話し合うこともありますか?
広田:あります。特に私は左手が得意でベースレスの現場が多いので、ベースがいる現場とそうではない現場では左手で弾く音域が変わります。上(高音域)は放っておいても鳴るので、なるべく下(低音域)を拾うようにしています。レコーディングもそうですが、音を作りすぎると“サンプリング音源でいいじゃん”となってしまうので、生音も大事にしたいと考えるとバランスが大事ですね。
自宅でマイク録りはしますか?
広田:基本的にしません。ハンドヘルドマイクを1本持っていますが、自宅で配信する時のトーク用に使っています。宅録ではRolandの電子ピアノを使用しているので、すべてサンプリング音源をライン出ししています。
ホール会場でライブを行う場合、ピアノのコンディションはまちまちですか?
広田:ピアノはコンディションによってもクセが異なるので、良くも悪くも一期一会なんですよね。“どうやって一番良い部分を引き出そう”と考えながら弾くのがピアニストの仕事なので、鳴らないピアノを無理に鳴らそうとガンガン弾くと大概失敗します(笑)。その場合は選曲を静かな曲に変えたり、丸い音が活きるような曲を選びます。鳴らないピアノなりに良いところを見つけないといけないので、サウンドチェックやリハーサルで“今日はこういうピアノだからこう弾こう”と試行錯誤しますね。メーカーによっても特徴があるから、例えばベーゼンドルファーは古典的な曲を弾くのに向いていたり、ニューヨークスタンウェイはジャズに向いていたり。やっぱり鳴る場所が違うので。鳴りは良いけど狂いそうなピアノもあれば、湿度でも変わるし、当然マイクの立て方でも変わりますよね。
PAさんとの相談も必要になりますね?
広田:かといってPAさんによってはマイクをたくさん入れる方もいて、何を弾いているのかわからなくなる時もあります。返しとか最低限のことは言うけれど、ずっとついているPAさんじゃない限り、要望を出しすぎると混乱してしまうのでリクエストを避ける場合もあります。あと、本番はお客さんの入り方によっても音の響きが変わるので難しいですよね。
自分の演奏を世界に発信したい人にオススメしたい
今回はSCX25AとA231を自宅で試していただきました。どのように試しましたか?
広田:グランドピアノがある音楽スタジオを借りて、グランドピアノの蓋を開けて自分でマイクを立てました。記憶を頼りに“大体このあたりかな”と(笑)。両方が均一に録れる場所にセッティングして、低音から高音までを使うわかりやすい曲で試したんです。
弾いた曲はご自身の曲だそうですね。
広田:「遠き夏の日」という朗読劇のテーマ曲で、低音から高音までを使うバラードです。マイクからオーディオインターフェースにつないでGarageBandで録音しました。
マイクはどのあたりに立てたんですか?
広田:フィーリングですが真ん中ぐらいじゃないかな…。私は低音が好きであまりトップ(高音域)は録らないから、低音に近い場所で録りました。
それぞれのマイクの印象を教えてください。
広田:どちらもキレイに録れますが、A231はバランスが良くて、全体的にふくよかというか柔らかく録れる印象ですね。ディテールの描写力もあって音域の範囲が広いです。あと、強弱に強そうなイメージもありました。配信はもちろんスタジオでのレコーディングなど、大きな会場でも対応できる気がします。
手軽さで言うと、SCX25Aのほうが圧倒的に小さいしかわいい! SCX25Aはその手軽さが特徴の一つですよね。手軽さってめちゃくちゃ大事です。ピアノに入れた時にコンパクトに収まるところも評価すべき点で、ダイヤフラム自体の口径が大きいので再現性も高い。例えばYouTubeに上げたり配信だったり、上手に立てればレコーディングでもいけると思います。2本とも同じ距離感で録ったから、もっと違う距離で試したいですダイヤフラムに適した距離感や美味しいポイントがあると思うので。A231は少し離し気味で、SCX25Aは弦に近いほうがいいかな。
広田氏による録音を試聴
A231+ピアノ
SCX25A+ピアノ
今後、AUDIXのマイクを使ってチャレンジしたいことは?
広田:やっぱりピアノでレコーディングしたら楽しいと思います。あと、インスタのリールなど、ショート動画用の音楽を録るのにもすごくいい気がするんです。エンジニアさんにお願いせずに、気軽でありながら宅録よりもワンランク上で録れる。それがコンデンサーマイクのいいところじゃないですか。ピアノであれば、宅録すると言ってもアップライトピアノで録るんだったら、グランドピアノがある音楽スタジオで録ったほうが絶対にいいと思うんです。スタジオだと調律もされているし、リリースできるクオリティで録れると思います。
まだ1ヶ月ほどしか試せていないので、今後、活用法を見つけていきたいですね。マイクは電子ピアノとは関係のないアイテムですが、当たり前だけど圧倒的に電子ピアノよりも生感がありますよね。電子ピアノのサンプリング音源も素晴らしいけど、生音ではないと出せないニュアンスが絶対にあるから。アコースティックピアノは人柄が出る楽器だし、強弱や表現力によって音質も変わります。そういう意味で、マイクはアコースティックピアノとの相性が一番出るような気がします。
SCX25AとA231はどんなユーザーにおすすめできそうですか?
広田:どういう用途で使うかによるけど、ある程度弾ける人のほうがいいのかもしれないですよね。金額的にも安いわけではないし。やっぱり自分の演奏を世界に発信したい人じゃないですか。現代の音楽制作業界のいいところは、宅録でパッケージ化までできちゃうこと。気軽に宅録感覚でレコーディングできるから、ピアノと歌だけで純粋に素材そのものの良さを録ってもいいですね。サンプリング音源(電子ピアノ)は基本的にコンプがかかっている状態で出力されるので、コンデンサーマイクで録ったほうが自分の好きな音を作りやすいかもしれないです。
PREMIUM LARGE DIAPHRAGM STUDIO CONDENSER MICROPHONE
SCX25A
LARGE DIAPHRAGM CONDENSER VOCAL MICROPHONE
A231
PROFILE
広田圭美
東京藝術大学作曲科卒業。2008年、ビブラフォンとピアノのユニット“タマトミカ”でメジャーデビュー。2012年にピアノとパーカッションのユニット“227”を結成。テレビ東京系『美の巨人たち』エンディング曲、TBSラジオ『ナイツのちゃきちゃき大放送』、Eテレ『王さまものがたり』(タマトミカ)、NHK『冬の朗読音楽会』、舞台『タクラマカン』、朗読劇『遠き夏の日』、格闘技イベント『iSMOS.1』、龍角散CMなどの作曲やピアノを担当。庄野真代、大橋純子、松崎しげる、狩人、小野正利、日野美歌、松田樹利亜、鈴華ゆう子(和楽器バンド)、松本英子、辻本好美など、さまざまなジャンルのサポートピアニストとしても活動している。
2023年初のピアノソロアルバム「selfportrait」発売。iTunesトップインスト部門1位獲得。
WEBサイト
https://www.tamamihirotaweb.com/