ADX20iはそこで吹いているような立体感で聴こえる
#10米澤美玖
しっかりと太く鳴って、かつ硬過ぎない音色のマイクが好き
サックスプレイヤーとして、これまでどんなマイクを使って演奏や録音を行なってきましたか?
米澤:レコーディングではサポートの場合、基本的にその現場の方が持ってきてくださるマイクを使うことも多いので、いろいろな種類を使わせていただきます。自分名義の作品を録る時は、sE ElectronicsのsE2200とT2をメインで使っていました。ラジオパーソナリティーを行う時はsE2200で録るという使い方もしていますね(笑)。
それらのマイクは紆余曲折を経て落ち着いたのですか?
米澤:sE2200は1枚目のアルバムレコーディングでお借りしたら良くて、それから使っているので2016年くらいから。補足をすると、スタンダードジャズによるカバー集などはNeumannの67やTelefunkenの古い真空管マイクを使っています。場合によって使い分けていますが、普段はフュージョンなので元気が良いsE2200を使ったり、ライブではAudio-Technica、Sennheiser、DPAなどのピンマイクを使っていて、バンドのTHE JAZZ AVENGERSではShureを使ったりしています。
野外や大きな会場の場合、サックスに付けるマイクは1つですか?
米澤:そうですね。ライブ中は基本的にピンマイクか、動き回らない場合はマイクを立てて固定します。マイクを固定しておくと、マイクに近付いたり離れたりすることでニュアンスを変化させられますが、ピンマイクだとマイクとベルの距離が一定なので音は満遍なく安定して拾えます。だけど、あえて外して生っぽくすることができないので、どちらが良いというわけじゃないのですが。ソプラノサックスではマイクを2本立てる場合もあります。
パフォーマンスだったり会場によって使い分けていると。
米澤:そうですね。例えば今はライブハウスのAbsolute Blueにいますが、しっとりとしたジャズだったらマイクを使わずに生音で演奏することもあるかもしれません。エレクトリックなバンドで、メンバーが5~6人もいて歌も入るとなるとマイクを付けますね。
米澤さんが好きなマイクの特徴は?
米澤:しっかりと太く鳴って、かつ硬過ぎない音色のマイクが好きですね。プレイスタイルとしてキンキンしてしまう時もあるので、柔らかさも出るというか、表現したことをなぞってくれる再現性の高いマイクが良いなと。太い状態のままスピーカーから出てくれると、その日のテンションも変わりますよね(笑)。“お!何か今日良いかも!”って。
サックスとマイクの相性もありますか?
米澤:Cannonballでしか試していないのではっきりとは言えませんが、楽器によって違うこともあると思います。私はジャズやフュージョンをよく演奏しますが、エッジを立ててばかりいると柔らかい曲で硬さが取れないので、そこはバランスを考えた上で選んだりします。あと、使ってくうちにマイクが育つこともあるんですよね。久しぶりにお会いしたPAの方に、“前よりもマイクが育ったかも”と言われたことがあって“そうなんだ!”って(笑)。演奏者側が変わった部分もあるかもしれませんが。
サックスに定番マイクはあるのでしょうか?
米澤:個人的な感覚だとあまりないですね。AUDIXもそうですが、新しいモデルがどんどん出ているので新しいもの好きな人はよく替えるし、プレイヤー次第で違うと思います。THE JAZZ AVENGERSにはサックスが4人いるのですが、DPAやShureを使っている人もいるので“これが正解”というのはないのかもしれませんね。
AUDIXは全体的にバランスが良くて、広い音域をカバーしてくれる
AUDIXとの出会いは?
米澤:Rolandさんからお話いただいて使わせてもらっています。もともとRolandさんにはエアロフォンでお世話になっていて、エアロフォンは最初のモデル(2016年)から使わせていただいてます。お借りして触らせてもらった次の日に、アルバム『Landscape』のレコーディングでエアロフォンを使ったのをすごく覚えています(笑)。
今回はAUDIXのA131、D4、ADX20iを試していただきました。試したシチュエーションと感触を教えてください。
米澤:お借りしたのが9月中旬過ぎで、いつも自分が録っている事務所のスタジオで、sE2200も並べて吹き比べしながら録りました。まず、A131は全体的にすごくバランスが良くて、最初の印象は“おっ、良いな”と思いました。コンパクトな見た目ですが、バランスが良く録れて高音もキンキンしないし、まろやかさもあるので“好みかも!”というのが印象的でしたね。
LARGE DIAPHRAGM STUDIO CONDENSER MICROPHONE
A131
D4はどうですか?
米澤:低音が録れると聞いていたので、実はD4を試すためにバリトンサックスを借りました(笑)。バリトンは発音がモワッとしがちなのですが、D4はボフッという周りのモヤモヤしているところをカットしてくれます。かと言って輪郭が強すぎるわけではなくて、適度に輪郭を保ってくれるのでバリトンや低音の人に教えてあげたいなと思いました。もちろん全体的にも録れますが、テナーよりもずっと低い音域をカバーできるのは強いですよね。
PROFESSIONAL DYNAMIC INSTRUMENT MICROPHONE
D4
もう1つが小型コンデンサーマイクのADX20iです。
米澤:ピンマイクはライブでよく使うのですが、わりと高い音までカバーしていたので“おっ!なかなか良いぞ!”って。ライブではフラジオも結構使うのですが、ソプラノサックス位の高音域まで潰れず、音痩せもせずにカバーしてくれました。あと、ピンマイクはサブトーンがザラザラしない印象があったのですが、そのザラザラとした渋めの音が、このADX20iはそこで吹いているような立体感で聴こえたんです。個人的な要望を言うと、私はステージ上ですごく動くので、もうちょっと長いケーブルが良いかも(笑)。
要望としてお伝えしておきます(笑)。
米澤:あと、私の感覚ですが、ややベルに突っ込んだほうが良い音で録れる印象がありました。距離は人それぞれで、あまり突っ込まないほうがいいマイクもありますが、ADX20iはやや突っ込み気味で使ったほうが良さそうだなと。
米澤さん自身、突っ込みがちなんですか?
米澤:そんなに突っ込まないですが、例えば爆音の中で上に抜けたソロを吹かなきゃいけないけど、現場の環境的に無理な時はやむなしで突っ込みます(笑)。正攻法ではなく小技的な感じですが。突っ込みすぎると低音のボフッとした部分を拾いがちですが、ADX20iはいつもの感覚よりもやや入れてあげるといいですね。
ベルに取り付けるクリップ自体もメーカーによって違いますか?
米澤:けっこう違います。私、そこは結構うるさくて(笑)、外れにくくしっかりと取り付けられるものが好みですADX20iはカクカクって段階的にマイクの角度を変えられるタイプですが、自由に角度を調整できるタイプもあるんです。ADX20iは角度が決まっているので、パパッと自由に動かせるのが利点です。ここに関しては好みだと思います。
その調整で音も感覚も変わるんですね。
米澤:そうですね。ADX20iはクリップも強いから使いやすいと思います。マイクの中には、音は好きだけどクリップが外れやすいものもあるので、ADX20iはいろいろなマイクの中でも自由が利くほうです。むしろ、ピンマイクに使い慣れていない人でも“このぐらいかな?”って調整がしやすいと思いました。クリップの強さはめちゃくちゃ大事なんです(笑)。ライブ中は動くので、身の回りでどうしても事故が多発するんですよ。クリップがズレたり、ケーブルが絡まって踏んだり、ピアスが取れたり…。パフォーマンスの中で、ストレスなく演奏ができるマイクがいいと思います。
CONDENSER INSTRUMENT MICROPHONE
ADX20iP
今後はレコーディングでも試せる機会があれば。
米澤:そうですね。まずはライブでADX20iを試したいです。スタジオで試すのもそうですが、一度ライブを使ってみれば新しい発見もあるかもしれないので。いろいろな吹き方や表現をライブではしたいので、どこまでその通りに鳴ってくれるかは、なかなかレコーディングではわからないんです。ライブ中にパッションが乗ってくるとライブならではの表現をするので、それも含めて使ってみようかなと思います。
3機種を試してみて感じたAUDIXの魅力は?
米澤:全体的にバランスが良くて、広い音域をカバーしてくれる印象が強かったです。A131もレコーディングで使えると思いましたし、これから野外イベントも増えてくるのでピンマイクが欲しいという人もいると思うから。プロはもちろん、初心者の人も試してみる良い機会なのかなと思いました。“これからいろいろな現場で試してみよう”というワクワク感を持ちましたね。
価格的にもお手頃なので、最初の1本にもオススメできそうですか?
米澤:そうですね。自分がよくやっているジャンル、例えばファンキーっぽいサックスアンサンブルをやりたい時は、バリもテナーもD4が良いかもと思いました。ファンク系やJ-POP系にも合う良いますよね。あとはパフォーマンスが好きな人(笑)。クリップの圧があるので、サックスを振り回す人にもいいと思います。
PROFILE
米澤美玖 /サックスプレイヤー
北海道旭川市出身。2019年キングレコードより「Exotic Gravity」でメジャーデビュー。Jazz Japan Award 2019 New Star部門 Album of The Yearを受賞し、Amazon日本のジャズ部門で年間100日以上のトップセラーという快挙を達成。2021年には Cotton Club東京での初のワンマンライブを成功させ、2022年・2023年には2年連続で春日大社への奉納演奏を行う。ソロ名義以外でもリーダーユニット「Project M」をはじめ「THE JAZZ AVENGERS」「BLUE NOTE TOKYO ALL-STAR JAZZ ORCHESTRA」などにも参加するなど精力的に活動している。2023年4月3日、ソロ名義・ユニット名義を合わせて通算11枚目となる最新アルバム「delight」をリリース。これまでに世界35カ国のジャズチャートにチャートインするほか、2023年10月にはアメリカにて米澤の楽曲のREMIX作品がチャートインを果たしている。
WEBサイト
http://yonezawamiku.com